その子俺にも似てるから、お前と俺の子供だよな?

かかし

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「うわっ!もうこんな時間………!リアン、寝坊助起こしてくれないか!」
「はいっ!パパ!パーパー!」

平日の朝という、どのご家庭でも忙しい時間帯。
そんな時間帯に、今日も仕事の筈なのにのんびりと寝こけているパートナーを叩き起こしてやりたいが、生憎と三人分の弁当作りと朝食作りで忙しい。
おりこうさんで朝の準備のお手伝いをしてくれていた愛娘には申し訳ないが、寝過ごさせるのも後が面倒になるのでパシらせてもらう。
愛娘………リアンは頼られたと思いノリノリなのが幸いか。
パタパタとスリッパの音を立てながら意気揚々と寝室に向かって行く背中になんとも言えない愛しさと、ちょっぴり申し訳なさを感じながら稔は準備を進めていく。

三人分のおかずを弁当箱に詰め、リアンの分はちょっとだけ飾りを加える。
飾りといっても養父の経営する保育園は、余計なトラブルの原因にもなるし、そもそも長時間触れることにより食中毒のリスクが高まる可能性があるのでキャラ弁禁止。
飾りはあくまでも常識的な範囲内でとなっているので、精々タコさんウインナーと動物の形に最初からカットされている市販のノリをご飯に乗せる程度のシンプルなモノだが。

「おこしてきたよ!」
「ぉぁょぅ………」

ミッションコンプリートを告げるリアンの元気良い発言とは反対に、リアンの実父であり、この度正式にパートナーとなったウィルフレッドが足を引きずるように歩きながらリビングに顔を出した。
………寝起きが死ぬ程悪いんだよな、コイツ。

「はい、おはよう。ウィル、顔洗っておいで。リアン、ありがとうね。」
「んん~………」
「どういたしまして!つづきする!」

グズグズと唸るような声を上げながら、椅子に座る。
ダメだこりゃ。
覚醒するまで少し時間は掛かるだろう。
自分で保育園の準備をせっせとしているリアンを見習って欲しいものだ。
あとせめて歯を磨いて来て欲しい。

「ウィール。ほら、顔洗って歯を磨いて来て!」
「んんん………」

詰め終わった弁当を少し冷ます時間を利用して、テーブルの上にカトラリーを並べていく。
朝やる事は沢山ある。
そもそも着替えすらまだしてないのだから、とっとと目を覚まして欲しい。
そう思いながらぺちぺちと手の甲で叩いてやれば、漸くしぱしぱと目を擦り始めた。

「ぅぁっ………おはよう………」
「おはよう。二回目だけどな。ほら、顔洗って歯を磨いて来い。」
「おう………」

ふらふらと立ち上がり言われるがまま洗面所に向かうウィルに、俺はホッと息を吐いた。
ウィルさえ起きてしまえば、後の準備は楽に進む。
そう思いながら朝食を盛り付けて、弁当の蓋を閉めてそれぞれの袋に間違いなく入れていく。

以前リアンとウィルのやつ間違えたからな。

アレは本当に申し訳なかった。
ウィルは可愛いわ少ないわで散々だったし、リアンは量が多いから………泣きながら食べきれなかったごめんなさいって言うし………。
もうあの涙で俺は二度と間違えないって誓ったわ。

「じゅんびできたー!」
「良い子!ご飯の準備も出来たから、おいで。」
「はーい!」

俺の言葉に、嬉しそうに笑う。
リアンは最初の頃は遠慮や警戒もあってあまり表情が変わらなかった。
朝ごはんも食べる習慣がなかったし、弁当はいつも菓子パン2個だったらしく作ってあげた時はひどく驚いてもいた。
そんなリアンが朝ごはんを楽しみにして、そしてこんなにも表情をころころ変えることが出来るようになって………毎朝毎朝、泣きそうになる。

「ん~………目が覚めた………」
「パパごはんできたって!たべよう!」
「おう。」

呑気に伸びをしながらリビングに戻ってきたウィルを、リアンが元気な声で呼ぶ。
ウィルがいつも座っている席に座りながら、にこにことしているリアンの頭を撫でる。
正直、この年齢になって構築され出した親子関係だからどうなるか不安だったが、まるで最初からそうであったように仲が良くて助かる。

「おとうさんのごはん、いっぱいおいしいからすきー!」
「そっかー!ありがとう、リアン!」

俺も至って当たり前のように家族の仲間入りさせてもらえたのは、嬉しいやら恥ずかしいやら。
でもな、俺別に料理上手とかじゃないのよ。
好きだけど、極めたい訳じゃないし、なんならスーパーとかの総菜の方が美味しいまである。
それでもこうして喜んでもらえると、作り甲斐があるしもっと頑張ろうと思える。

「なのでめだまやき2こください。」
「ちゃっかりしてんねぇ………二個は食べ過ぎなので、ダメです。」
「ちえ!」

まさかのおねだり!
おねだりする程の信頼関係を築けていることを喜ばしいと思うし、唇を尖らせて拗ねる姿も可愛らしいと思ってしまう。
ただ、食が細く腹痛を起こしやすいから甘やかす訳にもいかない。

「じゃあパパがプチトマトをあげよう。」
「ううん、だいじょーぶ。すききらいはダメなんだよ?リアンのとまとあげます。」
「こら。二人共、自分の分は自分で食べなさい。」

親子揃って同じ顔して、同じ嫌いな物を押し付け合うんじゃないよ。
そもそもリアンのその言い回し、どこから覚えてきたんだ。
小生意気で可愛いな。

「あー………ご褒美に今から作る目玉焼きは二人ではんぶんこしてあげるから。」
「「やったぁ!」」

目をキラキラさせて、同じような喜び方で喜ぶ。
親子だなぁと思うけれど、不思議と疎外感は無かった。
多分、俺自身がこの家族の一員だという自覚があるからだろう。

いつの日からか、俺自身が諦めていた【俺から始まる家族】。
それが今、俺の目の前に当たり前のようにある。
その事実のなんて尊く愛しいことか。
手早く目玉焼きを追加で焼きながらじっくりとその幸せを噛み締める。

「ほら!いただきますするよ!」

約束通りはんぶんこにした、二人の好みの黄身が固い目玉焼きをそれぞれの皿に乗せてやる。
嬉しそうな四つの瞳が、俺の着席を心待ちにしている。
可愛い。

「「「いただきます。」」」

三人で手を合わせる。
ウィルは元々そういう習慣なかったのに、一緒に住むようになった時から俺に合わせてしてくれる。
リアンは保育園で覚えたから出来ると、嬉しそうにやってくれる。

こんな日常風景が、俺が憧れ続けた光景。

この風景が、ずっとずっと続いて欲しいと思う。
リアンが大きくなって独り立ちして、ウィルと俺がよぼよぼの爺さんになっても。
ずっと、ずっと。
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