その子俺にも似てるから、お前と俺の子供だよな?

かかし

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「………と、言う訳だから融通利かせてくれませんかね?」
「前々から思ってましたけど、稔兄さんって馬鹿ですよね。」

疑問符ではなく確定をもって、夏菜なつなは呆れた。
出身の施設と養い親を同じとする血の繋がらない兄が急に連絡をとってきたと思ったら、今から会いたいと言われ。
ならば夕飯でも共にと家に呼べば子連れで現れたときたもんだ。
しかも見覚えもあるも何も、自分が働く保育園で受け持っている子供を連れて。
地味だがベイビーフェイスとも取れないことはない童顔をフルに活用して性に奔放な割に、妙に義理堅い兄だからいつかやらかすとは思ったが、何もあの保育士だけじゃなくて他の保護者からも評判よろしくない高飛車女に手をつけるなんて………。
と思ったら、同居しているセフレの子供だと聞かされてしまえば、この発言が出ても仕方ないだろう。
普段であれば倍以上の嫌味で返すと言うのに黙っている所を見れば、自覚はあるのだろう。
全く以て馬鹿以外の何物でもないではないか。

「まあ、良いですけど。身元も保証できる訳ですし、言い訳位考えてあげます。なんなら、兄さんが仕事終わるまでの時間なら私が預かっても良いですし。」

元より働いている保育園は二人の養い親が経営している保育園だ。
他の保育士や保護者にも、多少の誤魔化し位は出来るだろう。
夏菜はそう言いながら、稔特製ハンバーグを幸せそうに頬張りそして口元に付いたソースを彼に拭われて幸せそうに笑うリアンを見た。
保育園では人見知りが激しく、母親の雰囲気の所為か常に緊張感を強いられていたリアンが、短時間でこんなにも甘えている。
今までのリアンを知っている人間から見れば、無責任に孕ませておいて放置しているような男よりも、何の関係も無いのに押し付けられた子供に関してこうも真剣に考えてくれる稔の方が保護者に相応しいと思える。
だが、法や世間はそう簡単にはいかない。
いかせては、くれない。

「でも園長であるお義父さんへの説明はご自身でどうぞ。」
「うげっ」

苦手なプチトマトを嫌がるリアンにあーんをしてあげながら、稔は心底嫌そうに唸る。
叱られてしまうのが分かっているから、嫌で仕方ないのだろう。
でもこればかりはどうしてあげようもありませんからと、夏菜は笑った。

「というか、寧ろ暫くお義父さんの家でのんびりしては如何です?実家ですし。」
「んぁー」

稔の気の無い返事に、夏菜は思わず苦笑する。
別に養父と稔は仲が悪い訳ではない。
寧ろ本当の親子並みに仲は良いのだが………そもそも稔の初恋が養父なので、どうしてもふとした拍子に一方的な気まずさを覚えてしまうのだ。
勿論、もう終わらせた恋ではあるので未練はない。
それでもふとした時に、反抗期に紛らせた苦い恋心を思い出してはなんとも言えない気持ちになってしまうのだ。

「バイセクシャルのこと、お義父さんは知ってるんでしょう?」
「知ってる。セフレだっては言ってないけど、男と一緒に住んでるのも知ってる。」
「じゃあ、何が気になるんです?」

久しぶりに味わう稔の手料理を味わいながら夏菜がそう聞けば、何とも歯切れの悪い返事。
夏菜視点から見れば、堅物で旧時代の存在のような養父だが稔のセクシャルマイノリティーについてはすんなりと受け入れていた。
勿論、男だろうが女だろうが抱く側だろうが抱かれる側だろうが、しっかりとした付き合いをするようにと釘を刺していたが。

「しっかりとした付き合いじゃないから、だろ。」

そんな養父が子供を抱えて実家に戻ったら、まずは稔の子供かじゃあ相手はとなるだろう。
だが夏菜が気付いたように、養父だってあの女の子供だと気付く筈だ。
そうなるとまずそこで、一悶着起きる。
そしてその誤解は、事実を言うまで晴れることはないだろう。
そうして稔と、その場に居ないウィルフレッドはその節操の無さに対して更なる悶着を起こすことになるのだ。

「だったら最初から、誠実なお付き合いをすれば良かったじゃないですか。」
「無理だろ。俺もアイツも、そんな堅苦しそうな関係は出来ない。」
「本当に?」

稔の否定に、夏菜はそう言ってジッと稔を見詰めた。
一瞬のピリついた空気に、先程まで嬉しそうにハンバーグを頬張っていたリアンが動きを止め、恐怖に顔を強張らせた。
しまった。
この場でやる話ではなかった。

「わ、悪い!リアン、怖かったろ?ごめんな?」
「ごめんなさい、リアンちゃん!」

慌てて稔が抱き締めて夏菜と一緒に謝罪をすれば、リアンは恐怖に目を潤ませながらも健気に首を横に振る。
それが今までの彼女の処世術だったのだろうと思うと、ますます申し訳なさが募る。
稔はリアンの頭や背中を撫でてやりながら、どうしようかと考える。
食事どころではなくなってる。
リアンの年頃だと、食べることはとても大事なことなのに。
そこを気遣ってやれず自分を優先してしまったことに、自分のことながら腹が立つ。

「もう、だいじょうぶ。ごはん、たべる。」

必死に宥めてくる二人の大人に気を遣ってか、はたまた鬱陶しくなったからか。
リアンはそう言うと稔の腕を軽くタップした。
そっと外してやれば、嬉しそうに再びフォークを握り締める。
どうやら無理をしている訳ではないようだ。

「リアンね、」
「うん。」
「とまとすきじゃないけど、たべるよ。」
「「偉い!!」」

何の脈略もない言葉だが、子供なりに気を遣っての言葉なのだろう。
だが宣言としては百点満点だ。
フォークでプチトマト刺し、死ぬ程嫌そうな顔をしながら食べたリアンを、ご飯の後も死ぬほど褒めてやろうと二人は誓うのであった。
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