その子俺にも似てるから、お前と俺の子供だよな?

かかし

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さて、ここで改めてと稔と言う男を紹介しよう。
会社では平凡で地味な男を貫いている彼であったが、私生活ではその地味な見た目に似合わずなかなかに派手な男であった。
長く続く恋よりも一夜限りの愛を好み、理解力があって楽しめる女性を一番に好んだが、包容力があって甘やかしてくれる年上のイケメン男性にも滅法弱かった。
恋人に関しては片手で数えれる程であったが、一夜限りの相手ならば女性だけカウントしようか、男性だけカウントしようが、両手両足使っても数え切れない程に節操がない男。
それが稔と言う男であった。

では次いでウィルフレッドと言う男についてだが、容姿は先にも述べた通りの男らしい美しさな上に、まるで絵本に出て来る騎士様か王子様かと言わんばかりのその言動で多くの契約を引っ張ってくる営業課のトップ様。
………なのだが、その私生活もまた、密かに派手な男であった。
一見するとフェミニストっぽく優しそうで、恋人になりたいと強請る女は引く手数多である。
だがしかし、彼こそ無節操も無節操。
女は勿論、男相手だろうが勃ったらヤるし、勃たないならヤらない。
そんな倫理観も程々にぶっ飛んだ男であった。

そんな二人が知り合った切欠は、とあるゲイバーでウィルフレッドがナンパした事が始まりである。

正直部署が違えば接点が無いのが当たり前な程の規模の会社内で良い意味で目立つウィルフレッドとは違い、地味な見た目も相俟って意図的に目立たない様に務めている稔。
当然、同じ会社の人間だと気付いたのは稔だけであった。

ウィルフレッドにしても稔にしても、後々面倒を引き起こしては堪らないからと同僚には手を出さない様に気を付けていた。

そもそも稔は十歳以上の年上の男性以外は好みではないのだ。
だからこそ、初めは断ろうと思った。
しかしそれ以上に、興味が沸いたのだ。営業課の騎士だの何だの騒がれている彼の夜の営業力は如何程のものかと。
上手くても笑い話だし、下手ならばもっと笑い話だ。
だから受け入れた。
どうせ稔の方から同僚だと言い出さなければ、バレることはない。
実際、今の今まで社内ですれ違ったことすらないし、そもそも稔レベルの顔はどこにだって居る。
そんな余裕と共に好奇心の赴くままに、そう言う目的ではない、ちょっと高級なホテルで。

果たして、営業課トップ様は、夜の営業力もトップクラスであった。

煙草を吸う余裕すらない程に朝まで燃え上がったのは、一体いつぶりか。
おっとこれはいけない。
一夜限りでは勿体無い等と、栓の無い事を考えてしまう。
その思考そのものに柄にもなく焦った稔は、取り敢えず同僚である事を告げた。
会社ではもしすれ違ってもけして関わってくれるなと釘を刺すつもりで。
しかし、一夜限りの愛で終わらせるのは勿体無いと思ったのは、残念なことに向こうも同じだったらしい。

『会社で、ではなく退勤した社外なら良いんだよな。』

ウィルフレッドはあっさりとそう言うと、自然な手付きで床に脱ぎ捨てていたスキニージーンズのポケットにアドレスと番号を書いた紙を捩じ込むと、ついでと言わんばかりに稔の頬にキスをして、部屋から出て行ったのだった。

―――何だ?何だ、今の?

稔はウィルフレッドのあまりの鮮やかな流れに呆然としながらも、もたもたと着替えてホテルを出た。
因みに、当然の様に支払いは終わっていた。

―――営業課トップ様、超こえぇ………。

理想を絵に描いた様なスマートさに思わず震え上がった稔であったが、この経験はウィルフレッドの宣言通り一度で終わる事もなく。
その次の日から営業課トップ様の、高級ホテルや一流ディナー等の財力に物を言わせたアプローチが始まった。
金持ちのアプローチとなれば、なるのだろう。
しかし、相手が悪かった。
稔はケチとまではいかないが貧乏性だし、その上、根がネガティブだ。
金で殴るようなアプローチに終ぞ根を上げ、こんなに金をかけるなら会うのを控えたいと言い出した事が原因で、今度は揉めに揉め。
そこかあれやこれやと………気が付けば何故か同居する事となったその時まで続いた。

とは言え、二人は別に恋人と言う訳ではなく、あくまでセフレ。

だからこそウィルフレッドは他の女や男を抱いたし、稔もまた他の女を抱き他の男に抱かれた。
その事は話題には出すけれど、他のプライベートな事は互いに話題にも出さず聞く事もない。
ウィルフレッドも稔もそれで良いと思っていたし、それが心地良い距離感だとも、そしてどこか穏やかだとも感じていた。


されど、そんな日々程長く続かないものはない。
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