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―――人の生き方なんて、人それぞれ。その人の自由だ。
しがない会社員である雛里 稔は常々そう思っている。
勿論、他人に迷惑を掛けたり、世間一般的に問題ある行為はしていけない。
しかし、その範疇であれば例えば特定の恋人を作らずに一夜限りの熱い夜を楽しむのも自由だと思うし、その相手が男でも女でも、或いはその両方であったとしても自由だろうと思っている。
無節操だの何だの言われても、誰にも迷惑かけず、後腐れもなく、お互い楽しければそれに越した事はないのだ。勿論、そこに伴う何かしらは、当然自己責任であると言う、理解と覚悟は必要だが。
「………うわっ!」
そう思いながら廊下を歩いていると、鍛え抜かれた太い腕が稔の身体を抱き込む様に拘束し、人気の無い室内へと引きずり込んだ。
予期せぬ事態への驚愕に、稔の身体はかなりの勢いがついたものの、元凶であるその腕の持ち主は、至極あっさりと稔の身体を受け止め、ついでと言わんばかりにきつく抱き締めてきた。
「ウィルフレッド………会社では辞めろって言わなかったか?」
こんな事を仕出かすのは一人しか居ない。
稔は苛々とした口調を隠す事なく自らを拘束する人物。
緩やかなウェーブかかったミルキーブロンドに、ヘーゼルの瞳。スッと通った鼻筋に、思わず噛み付きたくなるような厚い唇を黄金比のバランスで持った美丈夫………ウィルフレッドの名前を呼びながら顔を上げて思いっ切り睨みつけた。
「そんなつれないこと言わないで。寂しかったんだ。」
しかしながら、とうのウィルフレッドは何処吹く風と言わんばかりに甘ったれた顔でそう言い、稔の無防備な首筋にキスをしてじゃれつき始める。
二人以外誰も居ない、静かな空間に響くリップ音。
まるでベッドの上で耳奥に響かせている時と同じ様にも聞こえてしまい、ジワリジワリと体の芯を炙られてしまう。
だが稔は歯を食いしばって無理矢理に消してしまうと、シャツの下を好き勝手に這いては蠢くウィルフレッドの手の甲を抓って抵抗をした。
「痛っ!」
「会社では駄目だってば。家に帰るまで我慢してよ。」
予期せぬ痛みに緩んだ腕から逃れると、乱れてしまったシャツと、一体いつの間にされたのかすっかり緩んでしまっていたネクタイを整える。
相変わらず、色んな意味で手際が良い。
くるりと振り向いて、納得いかないとばかりに唇を尖らすウィルフレッドに、稔は触れるだけのキスをする。
「だから良い子で定時退社してね?」
「努力します。」
クスクスと笑い合いながら、人の気配がない事を確認して部屋を出る。
しがない平社員。
愛想はあるし真面目だが、何故だか妙に印象が薄く暫く見ないと忘れてしまう。
そんな平凡社員の仮面を改めてかぶり直して廊下を歩き、そうして昼休み終了5分前には何事もなかったかの様に自らの席へと戻った。
しがない会社員である雛里 稔は常々そう思っている。
勿論、他人に迷惑を掛けたり、世間一般的に問題ある行為はしていけない。
しかし、その範疇であれば例えば特定の恋人を作らずに一夜限りの熱い夜を楽しむのも自由だと思うし、その相手が男でも女でも、或いはその両方であったとしても自由だろうと思っている。
無節操だの何だの言われても、誰にも迷惑かけず、後腐れもなく、お互い楽しければそれに越した事はないのだ。勿論、そこに伴う何かしらは、当然自己責任であると言う、理解と覚悟は必要だが。
「………うわっ!」
そう思いながら廊下を歩いていると、鍛え抜かれた太い腕が稔の身体を抱き込む様に拘束し、人気の無い室内へと引きずり込んだ。
予期せぬ事態への驚愕に、稔の身体はかなりの勢いがついたものの、元凶であるその腕の持ち主は、至極あっさりと稔の身体を受け止め、ついでと言わんばかりにきつく抱き締めてきた。
「ウィルフレッド………会社では辞めろって言わなかったか?」
こんな事を仕出かすのは一人しか居ない。
稔は苛々とした口調を隠す事なく自らを拘束する人物。
緩やかなウェーブかかったミルキーブロンドに、ヘーゼルの瞳。スッと通った鼻筋に、思わず噛み付きたくなるような厚い唇を黄金比のバランスで持った美丈夫………ウィルフレッドの名前を呼びながら顔を上げて思いっ切り睨みつけた。
「そんなつれないこと言わないで。寂しかったんだ。」
しかしながら、とうのウィルフレッドは何処吹く風と言わんばかりに甘ったれた顔でそう言い、稔の無防備な首筋にキスをしてじゃれつき始める。
二人以外誰も居ない、静かな空間に響くリップ音。
まるでベッドの上で耳奥に響かせている時と同じ様にも聞こえてしまい、ジワリジワリと体の芯を炙られてしまう。
だが稔は歯を食いしばって無理矢理に消してしまうと、シャツの下を好き勝手に這いては蠢くウィルフレッドの手の甲を抓って抵抗をした。
「痛っ!」
「会社では駄目だってば。家に帰るまで我慢してよ。」
予期せぬ痛みに緩んだ腕から逃れると、乱れてしまったシャツと、一体いつの間にされたのかすっかり緩んでしまっていたネクタイを整える。
相変わらず、色んな意味で手際が良い。
くるりと振り向いて、納得いかないとばかりに唇を尖らすウィルフレッドに、稔は触れるだけのキスをする。
「だから良い子で定時退社してね?」
「努力します。」
クスクスと笑い合いながら、人の気配がない事を確認して部屋を出る。
しがない平社員。
愛想はあるし真面目だが、何故だか妙に印象が薄く暫く見ないと忘れてしまう。
そんな平凡社員の仮面を改めてかぶり直して廊下を歩き、そうして昼休み終了5分前には何事もなかったかの様に自らの席へと戻った。
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