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無敵の人
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最善の案だと思って、あの子の死を偽装することに頷いた。
正直な話、これであの子もあの女も存在そのものも無かったことになるなら本当にありがたいとすら思っていた。
金に関してはどうだって良かったが、死体付きの偽装された葬儀の手配に関しても、何もしないで済むというのは私にとっては最善以外の何ものでもなかった。
しかし、少しは考えるべきなのだろう。
死体を偽装するという罪深さと、その行為自体を―――
「こ………れは………」
「貴方の息子さんですよー。」
葬儀の打ち合わせをしたいと、百瀬という男に呼び出されてノコノコ着いて行った場所はとある大病院の遺体安置所。
そこでは【あの子】の代わりとして埋葬される予定の死体があったのだが―――
それは、顔を判別出来ない位にぐちゃぐちゃにされて、四肢を切断された黒髪短髪の男の遺体だったのだ。
「うっわー。すっごいぐちゃぐちゃ。四肢まで切断したんっすね。」
ひょっこりと。
私の背後に現れたのは、あの日悪魔のような笑顔で私にこの偽装葬儀を提案してきた男。
名前は………何と言っただろうか。
忘れた。
兎に角あの悪魔のように美しい男は、百瀬と名乗ったまるで豹のようなしなやかで美しく、それでいて野性味溢れる男に軽々しい口調でそう話し掛けた。
「あー、サツキくん細くて小さいじゃん?細さは食事抜かせば揃えれるけどー、どーしても身長の合う奴が居なくてさー。」
「だから随分時間掛かったんですね。」
男はそう言うとしげしげと死体を見定めた。
やはりこの男は頭がおかしい。
普通ならば目を逸らしたくなるような死体なのに、まるで雑貨をみるような目で見ている。
「んー………でもサツキに似ても似つかないですよ?」
「はいはい。ご家族目線から見たらそうでしょーね。でもねー、一年半も会ってない、そもそも今までろくに顔も合わせてないような奴の姿なんてろくすっぽ覚えてないでしょー?普通。」
訝し気に言った男の言葉に、百瀬は呆れたようにそう返した。
その言葉が、ナイフのような鋭さを持って私の胸に突き刺さる。
確かに、例えこの死体の顔が無事だとしても、私はそれがあの子なのかどうなのかは気付かなかっただろう。
実の子供だと、言うのに………
「この子が貴方の息子さんですよ。そういう風に処理をするので、家族ご対面の時に口裏合わせお願いしますね。」
「は?」
百瀬がにっこりと、笑ってそう言った。
家族ご対面?
口裏合わせ?
何の話だ?
「契約書にも書いてましたが、忘れました?我々が望むのはあの二人を諦めさせることですよ。葬儀をあげることじゃない。」
混乱する私に、百瀬はきっぱりとそう告げた。
このぐちゃぐちゃになったグロテスクな死体を、息子たちに見せろと言うのか!?
しかもこの一年半必死に捜していたあの子の死体だと言えと!?
「そ………そんなのは無理だ!」
「じゃあ仕方ありませんね。今回の件、貴方が契約書にサインしたことも含めて全てを公表します。」
「なっ!?」
「契約違反した場合はそうすると、そこも記載していましたよ?」
そうだったか………覚えていない………
確かに、確かに契約違反した時の項目があったのは覚えている。
しかし違反するようなこともないだろうとスルーしたし、そもそも葬儀に関してのことしか目に入ってない!
「そこに自署によるサインをしたのですから、当然ですよね?」
悪魔のような男を従わせる男もまた、悪魔だった。
そうとしか言いようがない。
コイツらが今回の流れを公表した所で、失うモノは何もないだろう。
犯罪行為をしていたとしても。
だが、私は―――
「………分かった。今日、直ぐにでも、息子達に連絡をする………」
失うモノの大きさを、天秤に掛けた。
家族からの、愛しい息子達からの信頼か。
或いは世間体か。
そして私は迷うこともなく、世間体を取った。
そうすることで、幸せが続くと信じて
正直な話、これであの子もあの女も存在そのものも無かったことになるなら本当にありがたいとすら思っていた。
金に関してはどうだって良かったが、死体付きの偽装された葬儀の手配に関しても、何もしないで済むというのは私にとっては最善以外の何ものでもなかった。
しかし、少しは考えるべきなのだろう。
死体を偽装するという罪深さと、その行為自体を―――
「こ………れは………」
「貴方の息子さんですよー。」
葬儀の打ち合わせをしたいと、百瀬という男に呼び出されてノコノコ着いて行った場所はとある大病院の遺体安置所。
そこでは【あの子】の代わりとして埋葬される予定の死体があったのだが―――
それは、顔を判別出来ない位にぐちゃぐちゃにされて、四肢を切断された黒髪短髪の男の遺体だったのだ。
「うっわー。すっごいぐちゃぐちゃ。四肢まで切断したんっすね。」
ひょっこりと。
私の背後に現れたのは、あの日悪魔のような笑顔で私にこの偽装葬儀を提案してきた男。
名前は………何と言っただろうか。
忘れた。
兎に角あの悪魔のように美しい男は、百瀬と名乗ったまるで豹のようなしなやかで美しく、それでいて野性味溢れる男に軽々しい口調でそう話し掛けた。
「あー、サツキくん細くて小さいじゃん?細さは食事抜かせば揃えれるけどー、どーしても身長の合う奴が居なくてさー。」
「だから随分時間掛かったんですね。」
男はそう言うとしげしげと死体を見定めた。
やはりこの男は頭がおかしい。
普通ならば目を逸らしたくなるような死体なのに、まるで雑貨をみるような目で見ている。
「んー………でもサツキに似ても似つかないですよ?」
「はいはい。ご家族目線から見たらそうでしょーね。でもねー、一年半も会ってない、そもそも今までろくに顔も合わせてないような奴の姿なんてろくすっぽ覚えてないでしょー?普通。」
訝し気に言った男の言葉に、百瀬は呆れたようにそう返した。
その言葉が、ナイフのような鋭さを持って私の胸に突き刺さる。
確かに、例えこの死体の顔が無事だとしても、私はそれがあの子なのかどうなのかは気付かなかっただろう。
実の子供だと、言うのに………
「この子が貴方の息子さんですよ。そういう風に処理をするので、家族ご対面の時に口裏合わせお願いしますね。」
「は?」
百瀬がにっこりと、笑ってそう言った。
家族ご対面?
口裏合わせ?
何の話だ?
「契約書にも書いてましたが、忘れました?我々が望むのはあの二人を諦めさせることですよ。葬儀をあげることじゃない。」
混乱する私に、百瀬はきっぱりとそう告げた。
このぐちゃぐちゃになったグロテスクな死体を、息子たちに見せろと言うのか!?
しかもこの一年半必死に捜していたあの子の死体だと言えと!?
「そ………そんなのは無理だ!」
「じゃあ仕方ありませんね。今回の件、貴方が契約書にサインしたことも含めて全てを公表します。」
「なっ!?」
「契約違反した場合はそうすると、そこも記載していましたよ?」
そうだったか………覚えていない………
確かに、確かに契約違反した時の項目があったのは覚えている。
しかし違反するようなこともないだろうとスルーしたし、そもそも葬儀に関してのことしか目に入ってない!
「そこに自署によるサインをしたのですから、当然ですよね?」
悪魔のような男を従わせる男もまた、悪魔だった。
そうとしか言いようがない。
コイツらが今回の流れを公表した所で、失うモノは何もないだろう。
犯罪行為をしていたとしても。
だが、私は―――
「………分かった。今日、直ぐにでも、息子達に連絡をする………」
失うモノの大きさを、天秤に掛けた。
家族からの、愛しい息子達からの信頼か。
或いは世間体か。
そして私は迷うこともなく、世間体を取った。
そうすることで、幸せが続くと信じて
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