僕よりも可哀想な人はいっぱい居る

かかし

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無敵の人

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―――苦痛を知らない人間、なんだろうな。

偉そうにふんぞり返る、サツキになる前の男の子の戸籍上の父親。
その男に対して直感的に抱いた感想は、それだった。
挫折を知らない。
苦悩を知らない。
だからこそ、ほんの少し思い通りにならないと不貞腐れる。
そんな人間なんだろうと思った。

「………来るのは【百瀬】という名だと聞いていたが?急な変更など………社会人としてどうなんだ。」
「申し訳ございません。百瀬がどうしても、瀧本専務にからと。思ったよりも、準備に時間が掛かっているようでして………。」

うっすい嫌味は苦笑とあらかじめ用意していた台詞で流す。
直前になったとは言え、百瀬さんはちゃんと俺が代わりに行くことを伝えていたしな。

「貴様らのような薄汚いハイエナの寄越す物など不要だ。それで?用向きは………」
「百瀬から聞いている筈では?瀧本専務の息子さんについてお話があるんですよ。」

息子の存在を口に出した瞬間、睨み付けてくる瀧本サン。
息子を護ろうとする良い父親ね。
息子サツキを捨てた、最低な父親だけど。

「何が目的だ。金か?」
「心外ですね。これは警告ですよ、。………今、息子さん達が百瀬の管轄の中でもとても治安が宜しくない場所をうろちょろしてましてね。何かあっては百瀬の責任問題にも発展し兼ねない。と百瀬からのお願い、ですよ。」

必死に付け焼刃で暗記したカンペを諳んじる。
気分は役者だ。
それも悪役。
あ、でも瀧本サンは別にヒーローじゃないよな。
俺より小物な悪役って感じ。

「息子さんを、危険な目には遭わせたくないでしょう?まぁ、俺達にとって見ず知らずのガキがどうなろうが知ったことじゃない訳ですし。信じる信じないはお好きなように。」
「よくもぬけぬけと………に何かしたら許さんぞ!」

息子、ねぇ………。
どうしてそこにあの子を入れてあげなかったんだ。
あんなにも小さくて健気で、どこにでも居るような普通の男の子を、

「それ、貴方のに言えます?」
「なっ………にを………」

まさか三人目の息子のことを言われると思ってなかったのか、切れ長の相貌を驚愕の色に染められる。
馬鹿だねぇ。
ほーんと馬鹿。
そもそもな話、ちょろついてる馬鹿息子二人と接触することなくお前に行きついたんだから、そもそもサツキと接触してる俺じゃなくても空白の息子に行き着くだろ。
………そう考えると、絶対百瀬さんと俺が鉢合わせしたの偶然じゃないな。

、ですよ。」

にっこりと、とびきりの笑顔をプレゼント。
サッと赤くなったのは、見惚れたからかそれとも怒りからか。
今、俺の脳内がぐっちゃぐちゃになって手が震えているのは怒りからだよ。
こんな奴が、サツキの父親だという事実が我慢ならない。
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