僕よりも可哀想な人はいっぱい居る

かかし

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無敵の人

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「なるほどねー、大体わかったー!」

質問っていうよりも、後半はまるでドラマみたいな事情聴取みたいだった。
終わった頃にはちょっと疲れちゃって、思わず力を抜いてお兄さんに寄りかかってしまった。
お行儀悪いなって思ったけど、許して欲しい。

「疲れたね。ごめんね、サツキ。」

お兄さんがそう言って僕の前髪を掻き上げるように撫でて、おでこにキスをしてくれた。
嬉しい。
人前だけど、お兄さんに甘えたくなっちゃう。

「サツキくんは可愛いねー。ちぃみたい。」
「ちぃ?」
「うん。俺の大事な大事な子ー。サツキくんに見た目も境遇も似てるから、思わずお節介したくなったんだー。」

俺はよく居る平凡な顔をしているから見た目が似てるっていうのは分かるけど、境遇が似てるってどういうことだろう。
その人も俺みたいに、お家の人から無視されたりしたのかな?
すごく怖くて辛くなって、思わずお兄さんのシャツを握る。
そんな俺をももせさんが撫でようと手を伸ばして―――

「痛っ!お前ねー………うちの部下だったら殴ってたよー。」
「俺は貴方の部下じゃないですし一般人ですし。それよりサツキに触んないでください。嫉妬で死にそう。」
「難儀ねー。まぁ、分かんないでもないかー。」

お兄さんに叩き落とされてた。
結構大きな音が出てたからすごく痛そう………大丈夫かな。

「それより、面接終わりましたよね。早くください。」
「偉そー。まぁ、出すもの出してくれるみたいだし、別に良いけどー。」

面接?
何の話なんだろう。
そもそもどうしてももせさんはお家に居るんだろうか?

「サツキにね、。」

そう思ってたのがよっぽど顔に出てたのか、お兄さんが俺の頭を撫でたまま教えてくれた。
………教えてくれたんだけど、尚更ちょっと分かんなくなった。
戸籍ってあげようって思ってあげれるもんじゃないだろうし、俺の戸籍はそもそも家族だった人達の所にあるし―――

「そー。だからサツキくん、死なないー?」
「は?えっ?俺、死ぬの!?」

分かんないことがいっぱいになってきて混乱してきた所に、更なる爆弾発言が降って来てますます混乱する。
涙目になってお兄さんを見上げると、いつもの幸せそうな顔をしている。
俺、死ぬの?
死ななくて良いの?

「混乱してるサツキ可愛い!大丈夫だよ。実際にサツキに傷一つ付かないから。」

そう言われてホッとするけど、じゃあ何で死なないかなんて聞かれたの?
よく分からない。

「サツキくんはさ、【サツキ】って名前好きー?」
「好きです!お兄さんがくれた大事な名前だから!」

ももせさんからまた違う質問されて、よく分からないけどでもそこは即答する。
【サツキ】って名前は、俺にとってもお兄さんにとっても大事な名前だ。
元々はわんちゃんのモノだけど、でももう今は俺のモノになった、宝物なまえ

「元の名前はー?」
「え?別に………覚えてもないですし………」

そう。
もうこの一年半で、俺はすっかり前の名前を忘れてしまった。
否、多分だけど、もっと前から忘れてる。
だって、から………。

「じゃあ尚更、前の君には死んでもらわないとだねー。最近、が探してるっぽいんだよー。」
「………え?どういうことですか?」

あの二人が?
俺に興味は無かった。
否、早く出ていけと二人して言っていたからそういう意味では俺に構ってはいた。
でも二人の要望通りに出て行った今、俺を探す必要性なんて何もない筈だ。

「それ、俺の話聞いた時から言ってましたけど、本当なんですか?」
「多分だけどねー。でもさっきサツキくんから聞いた話と一致する年頃の子が、二人揃って【一年半前に行方不明になった】【特徴の無い子】を写真も使わず探してるんだー。別に人探しするのは良いけどー、俺の場所で変なのに巻き込まれても困るよねーって話してた時に君達を見付けたんだー。」

なるほど。
よくわかんないことが分かった!
曰くその男の子二人が危ない場所とかに行ったら、最悪なことが起きた時にももせさんが責任を問われる場合があるらしい。

「写真見てもらった方が早いよねー。見覚え、ないー?」

そう言って見せられた写真は防犯カメラの映像らしく荒いものだが、確かに兄だった人と義弟だった人に思える。
まぁ、そこももうあやふやなんだけど。
目を合わせたら文句言われるし、言い掛かりつけられるしだったから顔を見た覚えの方が少ない。

「そっかー。まぁ仮にこの二人がかつてサツキくんの家族だった人だとしてさー、結局サツキくんが見付かれば諦めるんじゃないかなーって思うの。でもただ見付かっただけだと、今度は何かしら揉め事を起こしてくるかもしれない。」
「だからと思って。」
「してもらうって………誰に?」

わざわざ探している理由は分からないけど、きっと二人なりに何か事情があるのかもしれない。
そう考えると見付かっただけだと次があるかもというももせさんの考えは理解できる。
でも、お兄さんのいう死んだことにしてもらうって、まるで誰かにそうしてもらうみたいな言い方が気になった。

「サツキの父親だった男に、だよ。多分、警察に届けてないんだ。」
「警察に突かれたらマズいこともあるんだろうねー。でもそれなら、簡単にお願い聞いてくれそうじゃない?」

ねー、とももせさんが笑う。
そうか、お兄さんと一緒に居れるのは、お父さんだった人が何も動いてなかったからか。
でも多分、俺が居ないの気付いてないだけじゃないかなーって思うけど。

「お兄さんは危なくない?俺と離れ離れになったりしない?」
「大丈夫だよー。その辺り、ちゃあんとフォローするしー。」
「じゃあ、いいや!俺、元気なお兄さんと一緒に居れるなら何だって良い!」

難しいこと考えるのは、疲れる。
でも、ももせさんが信用出来る人なのは分かるから、ももせさんが大丈夫って言うなら大丈夫だ!
何で急に俺の戸籍とか言い出したのか分からないけど、お兄さんと一緒なら何でも良い。

「お兄さんが大好きだから。」
「あらー。ふふっ………」

ぎゅっとお兄さんに抱き着いて、お兄さんの首筋にすりすりとほっぺを懐かせる。
いい年してやっていい行動じゃないと思うけど、俺はお兄さんのわんこだから許されるのだ。

「若くていーねー。」
「………かっっっっっわ!」

にこにこと、ももせさんが嬉しそうに笑う。
そういえば、ももせさんって何歳なんだろう?
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