僕よりも可哀想な人はいっぱい居る

無敵の人

7

「………何の話だ？」
「あ、やっぱりそ・う・い・う・反・応・なんですね。良・か・っ・た・！」

私の言葉に、悪魔のような男はますます笑みを深めた。
心底安心したような言い方に、此方の不快感はますます積もっていく。
一体、何が言いたいんだ。

「行方不明になったっていうか、貴・方・が・捨・て・た・息・子・さ・ん・ね、俺・が・拾・っ・た・んですよ。」

警備を呼ぼうと内戦に伸ばした手を、思わず止めてしまう。
男は相変わらず、まるで聖書に描かれた天使のような笑みで俺を見ている。
告げられた言葉とその笑みがあまりにも相対しているように思えて、私は男をジッと見詰めた。
………一体、何が目的なんだ？

「俺的にはあの子と静かに暮らせたらそれでいいし、貴方だって一年半も音沙汰無かったからあの子なんてどうでも良いんでしょ？だから俺もわざわざこんなリスク犯すつもりなかったんですよ。」

男はまるで童話を語るかのような軽い口調でそう告げる。
男の言う【リスク】が、何を指しているのかが分からない。
こうして私の前に現れてあの子の存在を仄めかしたことだろうとは思うが、そうなると今度は目的が分からない。
そもそも一年半も無言を貫いておいて、どうして今更私の前に現れた？

「でもね、あの子が怪我したり病気したら、病院に連れて行ってあげられないでしょ？保険証ないから、怪しまれちゃう。」
「………は？」

病気？怪我？
そう言われて、気・付・い・た・事・実・に・ゾ・ッ・と・し・た・。
あの子が一度でも、私に不調を訴えたことがあったか？
あった………あ・っ・た・筈・だ・。
だがその時、私は何と言った？

「だからね、貴方が動かないとこっちも困るんですよ。貴・方・の・息・子・さ・ん・二・人・が・、嗅・ぎ・回・っ・て・て・邪・魔・だ・し・。」
「なっ！あの子達に何かしたら許さんぞ！！」

予想外の存在を匂わされ、思わず男に掴みかかる。
だが、男は動じた様子も見せずに、寧ろ先程までの笑みを一転させ冷たい瞳で私を見てきた。

「ふぅん。ゾッとするよね。唯一の味方だった母親が死んで傷心してるのに、父親と兄からは邪魔扱いされてろくに食事もさせてもらえない、体調崩して苦しくて訴えても仮病は後にしろと怒鳴られ、挙句の果てには継母と義理の弟まで一緒になって迫害。俺なら死にてぇよ、マジで。」

第三者の口から語られる、私自身が行った行動。
何も知らないクセにと言いたいが、何もかも事実だったので何も言えなくなる。
男の襟首を掴んだままの手が震える。
男はそんな私の手を振り払うことなく、冷たい瞳のまま私を見ている。

「だからさぁ………」

ゆっくりと、男の口が開く。
そこから先は、地獄の始まりだった。
だがその時の私には、最良の提案のように思えたのだ。






















「あの子を、殺・し・て・く・れ・な・い・？」