僕よりも可哀想な人はいっぱい居る

かかし

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無敵の人

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今日は良い日だ、最高の日だ。
俺は思い切り歌って踊りたい気分を最小限まで抑え、それでも漏れてしまう歓びをスキップすることで表現する。
道すがらすれ違う人々が怪訝な目を向けて来たが知ったことか!
今日は良い日、最良の日。
そして明日から毎日最良の日を更新していける!

「ただいまサツキ!仕事、辞めてきた!」
「………っ!?おかえりなさい、ほっぺどうしたの?」

ウキウキで我が家へと帰れば、ペタペタと足音を立てながらサツキがお出迎えをしてくれた。
嬉しい、可愛い、大好き。
もう二度と使うつもりはないビジネスバッグを放り投げて、お出迎えしてくれた愛しい子を抱き締める。
サツキをから一年半経った。
つまり、俺が転職を決意して一年。
コツコツ証拠集め直して、弁護士と労基に訴え、そして今日。
弁護士と共に乗り込んで無事辞めて来ましたっ!

「うん。お兄さんがしょうこ集めがんばってたのは知ってる。でも、そのほっぺはどうしたの?」

サツキは心配そうに眉根を寄せながら、少し大げさに処置された俺の右頬に触れた。
焦げ茶の綺麗な瞳が、俺だけを見詰める。
嬉しくてその手を取りながらまろい額にキスを落とした。

「社長だった男に殴られた。」
「えっ!?やっぱりいたいよね?だいじょうぶ?」
「へいき。寧ろすっごく面白かった。弁護士の前で俺殴って来たからそのまま警察に逮捕されてんの。」
「わっ!」

ケラケラと笑いながら靴を脱いで、サツキを抱き上げる。
本当に笑えた。
逆上して殴りかかって来てドナドナとか、そんな間抜けが経営してる会社に必死にしがみついてた去年の俺がクッソ恥ずかしくなる位には笑えた。
アドレナリンがドバドバ出るってこういう状態なんだなって、身を以て体感してる気分だ。
でも興奮しすぎてサツキを雑に扱いそうだから、ちょっと落ち着こう。

「もう。手、ちゃんと洗って。」
「はーい。」

言われた通り手を洗う為にサツキを降ろしたが、熱が離れて少し寂しい。
ただここでぐずると怒られそうだから、素直にシンクで手を洗う。
我が家に手洗い場なんて洒落たものは無い。

「あ、サツキ。
「ん?。ご用事?」
「うん。話したいことあるから。」

サツキは相変わらず、あの割れたマグカップをお母さんだと思い込んでいる。
だから俺もあのマグカップの破片はとして接している。
狂ってる?
そうだな。
俺もサツキも、出会った時から狂ってる。

「とっても素敵なお話。二人が喜んでくれたらもっと嬉しい。」

使い古してゴワゴワなタオルで手を拭き、思い切り伸びをする。
素敵なお話だけど、苦労はかけるから怒られるかもしれない。
でもまぁ、なんとかなるだろ。
サツキとお母さんと一緒なら、俺はどんなことだってやれる気がするから。
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