僕よりも可哀想な人はいっぱい居る

かかし

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僕よりも可哀想な人はいっぱい居る

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サツキを誘拐して、早いもので半年経った。
俺の帰りが毎日遅いのは変わらないし、休みの日は泥のように眠るのも変わらない。
サツキに相当寂しい思いばかりさせてるだろうことは分かっているけれど、サツキが家事を楽しそうにしたり、俺と一緒に眠ったりする姿に、つい甘えてしまう。

「俺、サツキに甘えてばかりだ。」
「お兄さんは僕をめいっぱい甘やかしてくれるよ。」

甘やかしたいと、休日の午後十二時に寝起きのまま駄々を捏ねれば苦笑される。
これじゃあどちらが年上だか分からない。
サツキにめいっぱい寂しい思いをさせておきながら、サツキが水を取りに行くためにちょっと俺から離れただけで寂しいと思ってしまう。

「俺、転職しようかな。」
「どうして?」
「サツキともっと一緒に居たい。」

マジでそろそろ逃げるのを止めた方が良いのかもしれない。
周りの目とかも気にせずサツキと一緒に居るために、まともな職に就こう。
給料が下がろうとも構わない。
………いや、俺は構わないけどサツキはどう思ってるんだ?

「貧乏は嫌?」
「ん?嫌じゃないよ。お兄さんが僕を捨てないなら、それで。」

差し出された水を受け取りながら、一応確認する。
俺と一緒の想い。
嬉しい。
好き。

「あっ、そっか。」
「ん?」
「俺、サツキのこと好きだわ。」

声に出せば、はっきりと俺の心の中に入って来る。
まだ出会って半年だけど。
誘拐犯と被害者だけど。
それでも俺は多分、あの公園で出会った時から好きになったんだと思う。
ぽってりとした一重で鼻ぺちゃで、正直どこにでも居るような顔だ。
それでいて、サツキの思考はちょいちょい【普通じゃない】所もある。
それでも俺は、この子が好きなんだと思った。

「へ?」
「ねぇ、ねぇ、サツキ。ストックホルム症候群でも良いから、俺を愛して。」
「すと………?なんだか分からないけど、僕もお兄さんが好きだよ?」

そうじゃないんだよなぁとは思うけど、今はそれでいいやとも思う。
時間はまだあるし、無事に転職出来てからゆっくりと口説いていこう。
他人を口説いたことなんてないけど、まあ、時間とフィーリングでなんとかなるだろう。

だって半年経つのに、サツキの誘拐に関するニュースなんて流れてきてないんだから。
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