僕よりも可哀想な人はいっぱい居る

かかし

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僕よりも可哀想な人はいっぱい居る

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気のせいではなく、僕は父にも兄にも好かれてはいなかったと思う。
病で亡くなった母と父は愛し合って結婚した訳でもないらしく、僕は見目麗しい父や兄と違って母に良く似た凡庸で地味な容姿だったから、そこも理由にあるんだろうなと幼いながらに分かっていた。
理解して、しまった。
そこから先にあるのは絶望。
確かに血の繋がりのある身内から厭われる悲しみ、どれだけ愛を注いでも寧ろ疎まれるという事実。
それはまるで真っ暗の中から一粒のビーズを探すようなものだと感じた。

『世界には、貧困に苦しみ死んでいく子供達がいます』

けれども流れてきたTVCMで、僕は可哀想じゃないんだとも知ってしまった。
愛されないだけで、僕は生きている。
相変わらず、父も兄も僕を見ない。
無視をして、僕が現れれば楽しそうな談笑を止めて口を紡ぐ。
それでも僕は食べる所にも寝る所にも困っていない。
だから僕は、全然可哀想じゃなかった。
可哀想じゃない僕の気持ちは、きっと救うに値しないのだろう。

「………失礼しました、どうぞ、気になさらないでください。」

一生懸命覚えた丁寧語を使って、頭を下げる。
水を飲みに来ただけだけど、ダメだったらしい。
仕方ないから外に出て、近くの公園で水を飲んだ。
鍵をかけられたらどうしようかと思ったけど、戻ったら鍵はちゃんと開いていた。
良かった。
ホッとしながら家の中に入り、足音を立てないように割り当てられている部屋に戻る。
いつ追い出されるか分からないから、荷物は整理しておいた方が良いのかもしれない。
とはいえ、僕に与えられた私物はそう多くない。
それでも昔お母さんと一緒にワークショップで作った、世界で一つだけのマグカップだけは持って行きたい。

ふと、お母さんが恋しくなって、僕は部屋にある姿見で僕を見た。
僕は父や兄に似ていない僕の顔が嫌いだ。
それでも、僕はお母さんに良く似ている僕の顔が好きだった。
だって鏡を見たら、お母さんといつでも会えるんだから。

だから泣いてはいけない。
だって、僕よりも可哀想な人はいっぱい居るんだから。
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