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「だから言ったじゃない。あの男は止めておきなさいって。」
「面目次第もございません………」
「百合ちゃん死体蹴りは止めてあげなよ。芦谷くんだって夢見たい年頃よ?」
………それも十分死体蹴りですとは、説教を受けてる身としては言えなかった。
俺は盲目になっていたからアレだったんだが、友人である東雲百合子とその恋人である門倉柚子稀の二人は、俺が恋人だと思っていた男の浮名を前々から知っていたらしい。
てっきり俺がモブだから諦めろって意味で言われてたんかと………
「私達の大事な人達もイケメンと地味眼鏡くんの組み合わせだけど、でも二人共高校生の頃から幸せなんだよ。顔じゃなくて中身。芦谷くんは中身とても良いのに、見る目がないね。」
げしげしと門倉が楽しそうに屍となっている俺を言葉で蹴りつけてくる。
見る目がないのだろうか………でも俺は彼のことをとても良い奴だと思っていたのだ。
だって俺の事、受け入れてくれたのだから。
「その思考が良くないのよ。芦谷くんは受け入れてくれれば誰でもいいの?」
東雲の言葉に反射的に首を横に振る。
受け入れてくれれば誰もって訳ではない………ハズ。
自信がないのは、でももしかしたらそう思っていたかもしれないと思ってしまっているからだ。
俺みたいなのを、受け入れてくれる人。
それはとても貴重だ。
陰キャでネガティブで、ゲイにもストレートにも好みのタイプとしては上がらない印象の薄い顔。
低くも高くもない身長はタチとしてなら多少需要があるかもしれないが、俺はネコ専だ。
そんな俺を恋人として受け入れてくれる人間なんて、俺は半ば諦めていたんだ。
思えば彼と付き合っていたつもりだったのも、思い出作りみたいなものだったのかもしれない。
処女もファーストキスも捨てれて、浮かれていたのかもしれない。
「意外と近くに居るかもよ?」
「二人以外に?」
「うん、私や百合ちゃん以外に。」
よしよしと、門倉と東雲が俺を撫でてくれる。
優しい掌。
親からすら捨てられた俺には勿体ない、けれども大好きな掌。
「ねぇ、芦谷くん。予言してあげるわ。」
スっと東雲が俺の顎を指で押し上げた。
人生初顎クイがしこたま美人な東雲からなんて、ストレートな男達は皆羨ましがるだろう。
例えば、俺が恋人だと思っていた男とか。
思えば彼は、俺と仲良くなることで東雲と門倉にお近付きになりたかったのかもしれない。
だとしたら彼からしてみればとんだ役立たずだったことだろう。
「あの男は絶対貴方に縋り付くわ。そこにどんな意味があるのかは分からないけれど、貴方はそれを無視しなさい。そうしてゆっくり、周りを見るの。」
彼が、俺に縋り付く。
想像は出来ないけれど、でも考えればセックスOKでタダ働きしてくれる家政夫を失うのは痛手なのかもしれない。
だとしたら俺みたいな陰キャ非モテゲイ、少し縋れば落とせると思うだろうな。
「その時に貴方の視界にハッキリ映った人間が、貴方の運命の人よ。例えそれが、あの男であれ誰であれ。」
東雲はそう言って、俺の顎からそっと指を離した。
本当に予言みたいでドキドキするけれど、運命の人なんて居るのだろうか。
東雲には悪いけど、俺は一生独り身な気がする。
「状況が落ち着くまで取り敢えずはうちに泊まりなよ。部屋余ってるし、荷物も運び込んでいいよ。」
「但し、一人であの男の家に取りに行かないことだけは約束しなさい。」
「ありがとう」
荷物はもう捨てられるだろうから別にいいとして、泊まらせてもらえるのは正直ありがたかった。
恋人同士の二人の邪魔して悪いけど、早急に家を探すから許して欲しい。
深々と頭を下げていると、スマホが震えた。
連絡のやり取りをする人なんて目の前の二人しか居ないから多分メルマガかな?
いつまで経ってもブルブルと鳴り続けるバイブの音がうるさくて、俺は画面を見ることなくスマホの電源を落とした。
この時点で俺は、運命の分かれ道に一歩足を進めていたとも気付かずに。
「面目次第もございません………」
「百合ちゃん死体蹴りは止めてあげなよ。芦谷くんだって夢見たい年頃よ?」
………それも十分死体蹴りですとは、説教を受けてる身としては言えなかった。
俺は盲目になっていたからアレだったんだが、友人である東雲百合子とその恋人である門倉柚子稀の二人は、俺が恋人だと思っていた男の浮名を前々から知っていたらしい。
てっきり俺がモブだから諦めろって意味で言われてたんかと………
「私達の大事な人達もイケメンと地味眼鏡くんの組み合わせだけど、でも二人共高校生の頃から幸せなんだよ。顔じゃなくて中身。芦谷くんは中身とても良いのに、見る目がないね。」
げしげしと門倉が楽しそうに屍となっている俺を言葉で蹴りつけてくる。
見る目がないのだろうか………でも俺は彼のことをとても良い奴だと思っていたのだ。
だって俺の事、受け入れてくれたのだから。
「その思考が良くないのよ。芦谷くんは受け入れてくれれば誰でもいいの?」
東雲の言葉に反射的に首を横に振る。
受け入れてくれれば誰もって訳ではない………ハズ。
自信がないのは、でももしかしたらそう思っていたかもしれないと思ってしまっているからだ。
俺みたいなのを、受け入れてくれる人。
それはとても貴重だ。
陰キャでネガティブで、ゲイにもストレートにも好みのタイプとしては上がらない印象の薄い顔。
低くも高くもない身長はタチとしてなら多少需要があるかもしれないが、俺はネコ専だ。
そんな俺を恋人として受け入れてくれる人間なんて、俺は半ば諦めていたんだ。
思えば彼と付き合っていたつもりだったのも、思い出作りみたいなものだったのかもしれない。
処女もファーストキスも捨てれて、浮かれていたのかもしれない。
「意外と近くに居るかもよ?」
「二人以外に?」
「うん、私や百合ちゃん以外に。」
よしよしと、門倉と東雲が俺を撫でてくれる。
優しい掌。
親からすら捨てられた俺には勿体ない、けれども大好きな掌。
「ねぇ、芦谷くん。予言してあげるわ。」
スっと東雲が俺の顎を指で押し上げた。
人生初顎クイがしこたま美人な東雲からなんて、ストレートな男達は皆羨ましがるだろう。
例えば、俺が恋人だと思っていた男とか。
思えば彼は、俺と仲良くなることで東雲と門倉にお近付きになりたかったのかもしれない。
だとしたら彼からしてみればとんだ役立たずだったことだろう。
「あの男は絶対貴方に縋り付くわ。そこにどんな意味があるのかは分からないけれど、貴方はそれを無視しなさい。そうしてゆっくり、周りを見るの。」
彼が、俺に縋り付く。
想像は出来ないけれど、でも考えればセックスOKでタダ働きしてくれる家政夫を失うのは痛手なのかもしれない。
だとしたら俺みたいな陰キャ非モテゲイ、少し縋れば落とせると思うだろうな。
「その時に貴方の視界にハッキリ映った人間が、貴方の運命の人よ。例えそれが、あの男であれ誰であれ。」
東雲はそう言って、俺の顎からそっと指を離した。
本当に予言みたいでドキドキするけれど、運命の人なんて居るのだろうか。
東雲には悪いけど、俺は一生独り身な気がする。
「状況が落ち着くまで取り敢えずはうちに泊まりなよ。部屋余ってるし、荷物も運び込んでいいよ。」
「但し、一人であの男の家に取りに行かないことだけは約束しなさい。」
「ありがとう」
荷物はもう捨てられるだろうから別にいいとして、泊まらせてもらえるのは正直ありがたかった。
恋人同士の二人の邪魔して悪いけど、早急に家を探すから許して欲しい。
深々と頭を下げていると、スマホが震えた。
連絡のやり取りをする人なんて目の前の二人しか居ないから多分メルマガかな?
いつまで経ってもブルブルと鳴り続けるバイブの音がうるさくて、俺は画面を見ることなくスマホの電源を落とした。
この時点で俺は、運命の分かれ道に一歩足を進めていたとも気付かずに。
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