グッバイシンデレラ

かかし

文字の大きさ
上 下
2 / 5

2

しおりを挟む
「だから言ったじゃない。あの男は止めておきなさいって。」
「面目次第もございません………」
「百合ちゃん死体蹴りは止めてあげなよ。芦谷くんだって夢見たい年頃よ?」

………それも十分死体蹴りですとは、説教を受けてる身としては言えなかった。
俺は盲目になっていたからアレだったんだが、友人である東雲百合子とその恋人である門倉柚子稀の二人は、俺が恋人だと思っていた男の浮名を前々から知っていたらしい。
てっきり俺がモブだから諦めろって意味で言われてたんかと………

「私達の大事な人達もイケメンと地味眼鏡くんの組み合わせだけど、でも二人共高校生の頃から幸せなんだよ。顔じゃなくて中身。芦谷くんは中身とても良いのに、見る目がないね。」

げしげしと門倉が楽しそうに屍となっている俺を言葉で蹴りつけてくる。
見る目がないのだろうか………でも俺は彼のことをとても良い奴だと思っていたのだ。
だって俺の事、受け入れてくれたのだから。

「その思考が良くないのよ。芦谷くんは受け入れてくれれば誰でもいいの?」

東雲の言葉に反射的に首を横に振る。
受け入れてくれれば誰もって訳ではない………ハズ。
自信がないのは、でももしかしたらそう思っていたかもしれないと思ってしまっているからだ。
俺みたいなのを、受け入れてくれる人。
それはとても貴重だ。
陰キャでネガティブで、ゲイにもストレートにも好みのタイプとしては上がらない印象の薄い顔。
低くも高くもない身長はタチとしてなら多少需要があるかもしれないが、俺はネコ専だ。
そんな俺を恋人として受け入れてくれる人間なんて、俺は半ば諦めていたんだ。
思えば彼と付き合っていたつもりだったのも、思い出作りみたいなものだったのかもしれない。
処女もファーストキスも捨てれて、浮かれていたのかもしれない。

「意外と近くに居るかもよ?」
「二人以外に?」
「うん、私や百合ちゃん以外に。」

よしよしと、門倉と東雲が俺を撫でてくれる。
優しい掌。
親からすら捨てられた俺には勿体ない、けれども大好きな掌。

「ねぇ、芦谷くん。予言してあげるわ。」

スっと東雲が俺の顎を指で押し上げた。
人生初顎クイがしこたま美人な東雲からなんて、ストレートな男達は皆羨ましがるだろう。
例えば、俺が恋人だと思っていた男とか。
思えば彼は、俺と仲良くなることで東雲と門倉にお近付きになりたかったのかもしれない。
だとしたら彼からしてみればとんだ役立たずだったことだろう。

「あの男は絶対貴方に縋り付くわ。そこにどんな意味があるのかは分からないけれど、貴方はそれを無視しなさい。そうしてゆっくり、周りを見るの。」

彼が、俺に縋り付く。
想像は出来ないけれど、でも考えればセックスOKでタダ働きしてくれる家政夫を失うのは痛手なのかもしれない。
だとしたら俺みたいな陰キャ非モテゲイ、少し縋れば落とせると思うだろうな。

「その時に貴方の視界にハッキリ映った人間が、貴方の運命の人よ。例えそれが、あの男であれ誰であれ。」

東雲はそう言って、俺の顎からそっと指を離した。
本当に予言みたいでドキドキするけれど、運命の人なんて居るのだろうか。
東雲には悪いけど、俺は一生独り身な気がする。

「状況が落ち着くまで取り敢えずはうちに泊まりなよ。部屋余ってるし、荷物も運び込んでいいよ。」
「但し、一人であの男の家に取りに行かないことだけは約束しなさい。」
「ありがとう」

荷物はもう捨てられるだろうから別にいいとして、泊まらせてもらえるのは正直ありがたかった。
恋人同士の二人の邪魔して悪いけど、早急に家を探すから許して欲しい。
深々と頭を下げていると、スマホが震えた。
連絡のやり取りをする人なんて目の前の二人しか居ないから多分メルマガかな?
いつまで経ってもブルブルと鳴り続けるバイブの音がうるさくて、俺は画面を見ることなくスマホの電源を落とした。

この時点で俺は、運命の分かれ道に一歩足を進めていたとも気付かずに。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

恋愛対象

すずかけあおい
BL
俺は周助が好き。でも周助が好きなのは俺じゃない。 攻めに片想いする受けの話です。ハッピーエンドです。 〔攻め〕周助(しゅうすけ) 〔受け〕理津(りつ)

火傷の跡と見えない孤独

リコ井
BL
顔に火傷の跡があるユナは人目を避けて、山奥でひとり暮らしていた。ある日、崖下で遭難者のヤナギを見つける。ヤナギは怪我のショックで一時的に目が見なくなっていた。ユナはヤナギを献身的に看病するが、二人の距離が近づくにつれ、もしヤナギが目が見えるようになり顔の火傷の跡を忌み嫌われたらどうしようとユナは怯えていた。

攻められない攻めと、受けたい受けの話

雨宮里玖
BL
恋人になったばかりの高月とのデート中に、高月の高校時代の友人である唯香に遭遇する。唯香は遠慮なく二人のデートを邪魔して高月にやたらと甘えるので、宮咲はヤキモキして——。 高月(19)大学一年生。宮咲の恋人。 宮咲(18)大学一年生。高月の恋人。 唯香(19)高月の友人。性格悪。 智江(18)高月、唯香の友人。

もう遅いなんて言わせない

木葉茶々
BL
受けのことを蔑ろにしすぎて受けに出ていかれてから存在の大きさに気づき攻めが奮闘する話

罰ゲームで告白したら、一生添い遂げることになった話

雷尾
BL
タイトルの通りです。 高校生たちの罰ゲーム告白から始まるお話。 受け:藤岡 賢治(ふじおかけんじ)野球部員。結構ガタイが良い 攻め:東 海斗(あずまかいと)校内一の引くほどの美形

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

だから振り向いて

黒猫鈴
BL
生徒会長×生徒会副会長 王道学園の王道転校生に惚れる生徒会長にもやもやしながら怪我の手当をする副会長主人公の話 これも移動してきた作品です。 さくっと読める話です。

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

処理中です...