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後編
融通の利かないような感情
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匿名希望さんとのお手紙のやり取りは、奇跡的にといっていいのか何度も続いた。
家族以外の誰かとお手紙のやり取りをするのは以前の僕も含めて初めてだから、本当に嬉しい。
すごく緊張するし、言い回しとか言葉遣いとか、実際に喋るのと違うから本当に難しいけど。
「お手紙届いた?」
「分かる?」
「うん。すごく、楽しそう。」
「うん!すごく楽しい!」
でも、すごく楽しい。
匿名希望さんは難しい言葉をたくさん知っていて、時々書いてあることが分かんなくなる時がある。
そういう時は、申し訳ないなと思いながらもヘクターくんに相談する。
ヘクターくんはまるで辞書のようにすらすらと言葉の意味を教えてくれるから。
でも、そういう時大抵愛の言葉だから、説明されてるこっちが恥ずかしくなっちゃう。
「顔、真っ赤だね。」
「だって………こんな風にアプローチされたことないから………」
顔を真っ赤にする僕に、ヘクターくんがからかうように笑う。
匿名希望さんは、どうしてこんなに僕を好きだと言ってくれるんだろう?
僕は特に目立った存在じゃない。
成績だってそう良い方じゃないし、運動は心臓の負担が大きいから出来ないからいつも見学。
魔術授業に関しては………寧ろ悪い方………
生活補助魔道具を動かすのでいっぱいいっぱいな位だ。
ヘクターくんを含むクラスメイトの人達は、そんな足手纏いな僕にいつも優しくしてくれるから尚更申し訳ないなって思っちゃう。
「この人の事、好きになりそう?」
「うーん………」
ヘクターくんの質問に、首を傾げて唸る。
それはちょっと、違う気がする。
確かに匿名希望さんは、僕のことをすごく好きなんだって伝わってくる。
でも僕は彼が誰なのか、どういう存在なのかは知らない。
今でこそ好きな色や食べ物とかは知ってるけど、立場とかそういうのは知らない。
そんな状態では、好きになることは出来ない。
勿論、立場を知ったらますます恋愛感情を抱くことが出来なくなるかもだし。
それに―――
「僕ね、好きな人が居るんだ。」
「………うん。」
「その人は僕のことを好きじゃないし、そもそももう僕には近付くことしか出来ないんだけどね、」
「うん。」
「でもね、好きなの。匿名希望さんの気持ちはすごく嬉しいけど、やっぱり、僕が好きなのはあの人だから………」
初夜の時、本当は嫌だっただろうにすごく優しく丁寧に抱いてくれた。
出陣する日までの間、僕が抱き着いたりキスするのを許してくれた。
僕よりもずっとずっと逞しい身体で、抱き締めてくれた。
夫夫だからって、その美して格好良い尻尾を梳くことを、許してくれた。
セックスだって、初夜だけじゃなくて毎日してくれた。
いっぱいいっぱい、我慢してくれた。
「………ルイ、泣かないで。」
「ふぇ?」
ヘクターくんに指を拭われて、僕は自分が泣いているということに気付いた。
何で泣いているんだろう?
自分のことなのに、良く分からない。
ヘクターくんに心配かけてるから早く泣き止まないとと思うのに、止まらない。
「ごめんね、泣かせるつもりはなかったの。」
「ううん、ひ、っく、ちがっ、の」
ヘクターくんの所為じゃない。
僕が勝手にセンチメンタルになって、勝手に泣いただけ。
そう言いたいのに、声がしゃくりあげてしまって上手く言えない。
「うん、分かってるよ。すごく好きなんだよね、その人のこと。」
よしよしと、ヘクターくんに頭を撫でられながらそこには僕は何度も何度も頷く。
好き。
すごく好き。
ドミニク様を諦めなきゃって思えば思う程、好きだって気持ちがどんどん積もっていく。
ドミニク様の周りにいる人達に。
そしていつかドミニク様と共に人生を歩み幸せにするんだろう、ドミニク様を想うあまり以前の僕を殺してしまったあの人に嫉妬する。
「その気持ちも、大事にしてあげて。」
ぎゅうっと僕を抱き締めながら、ヘクターくんはゆっくりとそう言った。
こんなドロドロとして気持ち悪い、融通の利かないような感情も大切にしないといけないの?
それはちょっと、嫌だなと思ってしまう。
「大丈夫。それはきっと、君にとても良い結果を招いてくれるから。」
そんなことないよ。
だって、ドミニク様は僕を嫌ってる。
それに、僕はドミニク様の視界に入れるような存在でもない。
ちっぽけな、その辺の石ころみたいな存在だ。
「大丈夫。僕を、信じて。」
信じたい。
でも、信じきれない。
とうとう声を上げて泣き出した僕の手には匿名希望さんのお手紙。
ヘクターくんがくしゃくしゃにならないようにそっと取り上げてくれたけど、僕にはそれを気にする余裕がなかった。
そんな自分勝手さが、ドミニク様に嫌われる一因だったんだろうな。
家族以外の誰かとお手紙のやり取りをするのは以前の僕も含めて初めてだから、本当に嬉しい。
すごく緊張するし、言い回しとか言葉遣いとか、実際に喋るのと違うから本当に難しいけど。
「お手紙届いた?」
「分かる?」
「うん。すごく、楽しそう。」
「うん!すごく楽しい!」
でも、すごく楽しい。
匿名希望さんは難しい言葉をたくさん知っていて、時々書いてあることが分かんなくなる時がある。
そういう時は、申し訳ないなと思いながらもヘクターくんに相談する。
ヘクターくんはまるで辞書のようにすらすらと言葉の意味を教えてくれるから。
でも、そういう時大抵愛の言葉だから、説明されてるこっちが恥ずかしくなっちゃう。
「顔、真っ赤だね。」
「だって………こんな風にアプローチされたことないから………」
顔を真っ赤にする僕に、ヘクターくんがからかうように笑う。
匿名希望さんは、どうしてこんなに僕を好きだと言ってくれるんだろう?
僕は特に目立った存在じゃない。
成績だってそう良い方じゃないし、運動は心臓の負担が大きいから出来ないからいつも見学。
魔術授業に関しては………寧ろ悪い方………
生活補助魔道具を動かすのでいっぱいいっぱいな位だ。
ヘクターくんを含むクラスメイトの人達は、そんな足手纏いな僕にいつも優しくしてくれるから尚更申し訳ないなって思っちゃう。
「この人の事、好きになりそう?」
「うーん………」
ヘクターくんの質問に、首を傾げて唸る。
それはちょっと、違う気がする。
確かに匿名希望さんは、僕のことをすごく好きなんだって伝わってくる。
でも僕は彼が誰なのか、どういう存在なのかは知らない。
今でこそ好きな色や食べ物とかは知ってるけど、立場とかそういうのは知らない。
そんな状態では、好きになることは出来ない。
勿論、立場を知ったらますます恋愛感情を抱くことが出来なくなるかもだし。
それに―――
「僕ね、好きな人が居るんだ。」
「………うん。」
「その人は僕のことを好きじゃないし、そもそももう僕には近付くことしか出来ないんだけどね、」
「うん。」
「でもね、好きなの。匿名希望さんの気持ちはすごく嬉しいけど、やっぱり、僕が好きなのはあの人だから………」
初夜の時、本当は嫌だっただろうにすごく優しく丁寧に抱いてくれた。
出陣する日までの間、僕が抱き着いたりキスするのを許してくれた。
僕よりもずっとずっと逞しい身体で、抱き締めてくれた。
夫夫だからって、その美して格好良い尻尾を梳くことを、許してくれた。
セックスだって、初夜だけじゃなくて毎日してくれた。
いっぱいいっぱい、我慢してくれた。
「………ルイ、泣かないで。」
「ふぇ?」
ヘクターくんに指を拭われて、僕は自分が泣いているということに気付いた。
何で泣いているんだろう?
自分のことなのに、良く分からない。
ヘクターくんに心配かけてるから早く泣き止まないとと思うのに、止まらない。
「ごめんね、泣かせるつもりはなかったの。」
「ううん、ひ、っく、ちがっ、の」
ヘクターくんの所為じゃない。
僕が勝手にセンチメンタルになって、勝手に泣いただけ。
そう言いたいのに、声がしゃくりあげてしまって上手く言えない。
「うん、分かってるよ。すごく好きなんだよね、その人のこと。」
よしよしと、ヘクターくんに頭を撫でられながらそこには僕は何度も何度も頷く。
好き。
すごく好き。
ドミニク様を諦めなきゃって思えば思う程、好きだって気持ちがどんどん積もっていく。
ドミニク様の周りにいる人達に。
そしていつかドミニク様と共に人生を歩み幸せにするんだろう、ドミニク様を想うあまり以前の僕を殺してしまったあの人に嫉妬する。
「その気持ちも、大事にしてあげて。」
ぎゅうっと僕を抱き締めながら、ヘクターくんはゆっくりとそう言った。
こんなドロドロとして気持ち悪い、融通の利かないような感情も大切にしないといけないの?
それはちょっと、嫌だなと思ってしまう。
「大丈夫。それはきっと、君にとても良い結果を招いてくれるから。」
そんなことないよ。
だって、ドミニク様は僕を嫌ってる。
それに、僕はドミニク様の視界に入れるような存在でもない。
ちっぽけな、その辺の石ころみたいな存在だ。
「大丈夫。僕を、信じて。」
信じたい。
でも、信じきれない。
とうとう声を上げて泣き出した僕の手には匿名希望さんのお手紙。
ヘクターくんがくしゃくしゃにならないようにそっと取り上げてくれたけど、僕にはそれを気にする余裕がなかった。
そんな自分勝手さが、ドミニク様に嫌われる一因だったんだろうな。
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