35 / 51
中編
だって私は、王弟の息子なのだから
しおりを挟む
―――結果だけ言えば、思ったよりも我慢が出来た。
入学式の最中は並び順が悪くあの子を見ることは出来なかったが、会場から各々の教室に行く際にその姿を視界に収めることが出来た。
初めて見る兎の獣人と楽しそうに笑いながら歩いている姿には、正直に言えば嫉妬した。
兎の胸倉を掴み、その場所を譲れと恫喝したいとも思った。
それでも、耐えた。
友人でも何でもない私がそんなことをしようものなら、私自身がルイに嫌われると分かりきっていたからだ。
だから自らの掌を傷付けながらも、私は必死に我慢しながらルイを見詰め続ける。
そういえば、以前のルイは授業にもクラスメイト達にも馴染むことが出来ていなかった。
今生は大丈夫だろうかと少し心配したが、あの兎が上手く立ち回っているのかクラスの人間と仲良くしているようでそこは少し安心した。
授業はどうなのか分からないけれど、レベルは下げてあるらしいから恐らく大丈夫だろう。
その輪の中に入ることが出来ないのが些か不満ではあるが、それでもルイが笑ってくれることが嬉しくて仕方ない。
けれど、以前のルイがあんな風に楽しそうに笑ったことはあっただろうか?
そのことに気付いた瞬間、ゾッとした。
いつだってルイは、困ったように微笑んでいた。
微笑んでいたのだが、思えば私達と距離を置きたがっていたような言動もあった気がする。
少なくとも出陣要請があって家を空けるまでは愛されていたのだと本気で思っていたけど、本当は違っているのだとしたら?
例えば最初から愛されていなかったのだとしたら?
政略結婚だと思われているか、もしくは上の爵位だから逆らえないと思われていたのだとしたら?
―――あ、それは絶対に嫌だ。
だが私がどれ程嫌だと思っても、それが事実かもしれない。
愛されていたと思いたかった。
だがそれを確認する手段なんて何一つ無い。
だって、以前のルイは死んだ。
俺が殺してしまったんだ………!
ヒュッと、喉が鳴る。
目を背けていた現実が、私の首を絞めようと直ぐ後ろに迫って来ているのを感じた。
私が………俺が何もしなければ、ルイは幸せに生きていける。
だから我慢した。
その姿を見るだけで、我慢しようと思っていた。
だがそうしようと思えば思う程、欲望が積もっていく。
俺の名前を呼んで。
俺にも笑って。
俺にも話し掛けて。
それは許されない。
許される筈がない。
それなのに今にも声に出して吠えたい位には、思ってしまう。
愛して欲しいと、思ってしまう。
例え偽りだとしても、ルイから与えられる愛に触れた記憶がある。
例えママゴトだったとしても、ルイと愛し合った記憶がある。
いっそそんな記憶失くしてしまった状態で、ルイと会えたら。
その状態でも惚れる自信はあるけれど、それでもここまで苦しまなくて済んだ筈だ。
嗚呼、その思考すら自分冥利で吐き気がするし、実際嘔吐した。
「ルイ………ルイぃ………」
ルイの傍に居たい、傍に居て欲しい。
ルイを抱き締めたい、抱き締めて欲しい。
一頻り泣いても抑えることが出来なくて、でも抑えないといけなくて。
そう思いながらふと机を見ると、家族に義務として手紙を出そうと思って机に置いたままの便箋と封筒が見えた。
ルイの好きな、淡い青色の便箋。
気が付けばそれを手に取って、ルイへの想いを綴っていた。
名乗らずに、ただ書き散らす想い。
匿名なら許されると思っているのか?
そう思いながら一晩かけて、就学前の子供の方がよっぽどマシな文章を書けると笑われてもおかしくない、手紙以下の落書きを書き上げた。
そこで止めれば良かったのに。
細かく千切って捨てれば良かったのに。
でも以前の俺が出来なかったことがしたいと思ってしまった。
―――ルイに、手紙を受け取って欲しいと。
明日の授業で一般学生は移動教室があるのは知っていた。
教室の鍵がセキュリティ上問題しかないような鍵なことも知っていた。
だから私はその隙をついてルイの居るクラスに忍び込み、ルイの使っている机を探るとその中に手紙を入れて逃げるように出て行った。
少しだけ授業に遅れたが、それについては堂々と仮病を使って誤魔化した。
教師は訝し気な表情をしたが、何を言うことも出来ない。
だって私は、王弟の息子なのだから。
入学式の最中は並び順が悪くあの子を見ることは出来なかったが、会場から各々の教室に行く際にその姿を視界に収めることが出来た。
初めて見る兎の獣人と楽しそうに笑いながら歩いている姿には、正直に言えば嫉妬した。
兎の胸倉を掴み、その場所を譲れと恫喝したいとも思った。
それでも、耐えた。
友人でも何でもない私がそんなことをしようものなら、私自身がルイに嫌われると分かりきっていたからだ。
だから自らの掌を傷付けながらも、私は必死に我慢しながらルイを見詰め続ける。
そういえば、以前のルイは授業にもクラスメイト達にも馴染むことが出来ていなかった。
今生は大丈夫だろうかと少し心配したが、あの兎が上手く立ち回っているのかクラスの人間と仲良くしているようでそこは少し安心した。
授業はどうなのか分からないけれど、レベルは下げてあるらしいから恐らく大丈夫だろう。
その輪の中に入ることが出来ないのが些か不満ではあるが、それでもルイが笑ってくれることが嬉しくて仕方ない。
けれど、以前のルイがあんな風に楽しそうに笑ったことはあっただろうか?
そのことに気付いた瞬間、ゾッとした。
いつだってルイは、困ったように微笑んでいた。
微笑んでいたのだが、思えば私達と距離を置きたがっていたような言動もあった気がする。
少なくとも出陣要請があって家を空けるまでは愛されていたのだと本気で思っていたけど、本当は違っているのだとしたら?
例えば最初から愛されていなかったのだとしたら?
政略結婚だと思われているか、もしくは上の爵位だから逆らえないと思われていたのだとしたら?
―――あ、それは絶対に嫌だ。
だが私がどれ程嫌だと思っても、それが事実かもしれない。
愛されていたと思いたかった。
だがそれを確認する手段なんて何一つ無い。
だって、以前のルイは死んだ。
俺が殺してしまったんだ………!
ヒュッと、喉が鳴る。
目を背けていた現実が、私の首を絞めようと直ぐ後ろに迫って来ているのを感じた。
私が………俺が何もしなければ、ルイは幸せに生きていける。
だから我慢した。
その姿を見るだけで、我慢しようと思っていた。
だがそうしようと思えば思う程、欲望が積もっていく。
俺の名前を呼んで。
俺にも笑って。
俺にも話し掛けて。
それは許されない。
許される筈がない。
それなのに今にも声に出して吠えたい位には、思ってしまう。
愛して欲しいと、思ってしまう。
例え偽りだとしても、ルイから与えられる愛に触れた記憶がある。
例えママゴトだったとしても、ルイと愛し合った記憶がある。
いっそそんな記憶失くしてしまった状態で、ルイと会えたら。
その状態でも惚れる自信はあるけれど、それでもここまで苦しまなくて済んだ筈だ。
嗚呼、その思考すら自分冥利で吐き気がするし、実際嘔吐した。
「ルイ………ルイぃ………」
ルイの傍に居たい、傍に居て欲しい。
ルイを抱き締めたい、抱き締めて欲しい。
一頻り泣いても抑えることが出来なくて、でも抑えないといけなくて。
そう思いながらふと机を見ると、家族に義務として手紙を出そうと思って机に置いたままの便箋と封筒が見えた。
ルイの好きな、淡い青色の便箋。
気が付けばそれを手に取って、ルイへの想いを綴っていた。
名乗らずに、ただ書き散らす想い。
匿名なら許されると思っているのか?
そう思いながら一晩かけて、就学前の子供の方がよっぽどマシな文章を書けると笑われてもおかしくない、手紙以下の落書きを書き上げた。
そこで止めれば良かったのに。
細かく千切って捨てれば良かったのに。
でも以前の俺が出来なかったことがしたいと思ってしまった。
―――ルイに、手紙を受け取って欲しいと。
明日の授業で一般学生は移動教室があるのは知っていた。
教室の鍵がセキュリティ上問題しかないような鍵なことも知っていた。
だから私はその隙をついてルイの居るクラスに忍び込み、ルイの使っている机を探るとその中に手紙を入れて逃げるように出て行った。
少しだけ授業に遅れたが、それについては堂々と仮病を使って誤魔化した。
教師は訝し気な表情をしたが、何を言うことも出来ない。
だって私は、王弟の息子なのだから。
62
お気に入りに追加
210
あなたにおすすめの小説


【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

ガラス玉のように
イケのタコ
BL
クール美形×平凡
成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。
親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。
とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。
圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。
スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。
ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。
三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。
しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。
三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、

俺の親友がモテ過ぎて困る
くるむ
BL
☆完結済みです☆
番外編として短い話を追加しました。
男子校なのに、当たり前のように毎日誰かに「好きだ」とか「付き合ってくれ」とか言われている俺の親友、結城陽翔(ゆうきはるひ)
中学の時も全く同じ状況で、女子からも男子からも追い掛け回されていたらしい。
一時は断るのも面倒くさくて、誰とも付き合っていなければそのままOKしていたらしいのだけど、それはそれでまた面倒くさくて仕方がなかったのだそうだ(ソリャソウダロ)
……と言う訳で、何を考えたのか陽翔の奴、俺に恋人のフリをしてくれと言う。
て、お前何考えてんの?
何しようとしてんの?
……てなわけで、俺は今日もこいつに振り回されています……。
美形策士×純情平凡♪

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!
灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」
そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。
リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。
だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。
みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。
追いかけてくるまで説明ハイリマァス
※完結致しました!お読みいただきありがとうございました!
※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました!
※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる