【加筆修正済】貴方に幸せの花束を

かかし

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中編

だって私は、王弟の息子なのだから

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―――結果だけ言えば、我慢が出来た。

入学式の最中は並び順が悪くあの子を見ることは出来なかったが、会場から各々の教室に行く際にその姿を視界に収めることが出来た。
初めて見る兎の獣人と楽しそうに笑いながら歩いている姿には、正直に言えば嫉妬した。
兎の胸倉を掴み、その場所を譲れと恫喝したいとも思った。

それでも、耐えた。
友人でも何でもない私がそんなことをしようものなら、私自身がルイに嫌われると分かりきっていたからだ。
だから自らの掌を傷付けながらも、私は必死に我慢しながらルイを見詰め続ける。

そういえば、以前のルイは授業にもクラスメイト達にも馴染むことが出来ていなかった。
今生は大丈夫だろうかと少し心配したが、あの兎が上手く立ち回っているのかクラスの人間と仲良くしているようでそこは少し安心した。
授業はどうなのか分からないけれど、レベルは下げてあるらしいから恐らく大丈夫だろう。
その輪の中に入ることが出来ないのが些か不満ではあるが、それでもルイが笑ってくれることが嬉しくて仕方ない。

けれど、

そのことに気付いた瞬間、ゾッとした。

いつだってルイは、微笑んでいた。
微笑んでいたのだが、思えば私達と距離を置きたがっていたような言動もあった気がする。
少なくとも出陣要請があって家を空けるまでは愛されていたのだと本気で思っていたけど、本当は違っているのだとしたら?
例えば最初から愛されていなかったのだとしたら?
政略結婚だと思われているか、もしくは上の爵位だから逆らえないと思われていたのだとしたら?

―――あ、それは絶対に嫌だ。

だが私がどれ程嫌だと思っても、それが事実かもしれない。
愛されていたと思いたかった。
だがそれを確認する手段なんて何一つ無い。
だって、以前のルイは死んだ。
俺が殺してしまったんだ………!

ヒュッと、喉が鳴る。
目を背けていた現実が、私の首を絞めようと直ぐ後ろに迫って来ているのを感じた。
私が………俺が何もしなければ、ルイは幸せに生きていける。

だから我慢した。
その姿を見るだけで、我慢しようと思っていた。

だがそうしようと思えば思う程、欲望が積もっていく。

俺の名前を呼んで。
俺にも笑って。
俺にも話し掛けて。

それは許されない。
許される筈がない。

それなのに今にも声に出して吠えたい位には、思ってしまう。
愛して欲しいと、思ってしまう。

例え偽りだとしても、ルイから与えられる愛に触れた記憶がある。
例えママゴトだったとしても、ルイと愛し合った記憶がある。
いっそそんな記憶失くしてしまった状態で、ルイと会えたら。
その状態でも惚れる自信はあるけれど、それでもここまで苦しまなくて済んだ筈だ。
嗚呼、その思考すら自分冥利で吐き気がするし、実際嘔吐した。

「ルイ………ルイぃ………」

ルイの傍に居たい、傍に居て欲しい。
ルイを抱き締めたい、抱き締めて欲しい。
一頻り泣いても抑えることが出来なくて、でも抑えないといけなくて。
そう思いながらふと机を見ると、家族に義務として手紙を出そうと思って机に置いたままの便箋と封筒が見えた。

ルイの好きな、淡い青色の便箋。

気が付けばそれを手に取って、ルイへの想いを綴っていた。
名乗らずに、ただ書き散らす想い。
匿名なら許されると思っているのか?
そう思いながら一晩かけて、就学前の子供の方がよっぽどマシな文章を書けると笑われてもおかしくない、手紙以下の落書きを書き上げた。

そこで止めれば良かったのに。
細かく千切って捨てれば良かったのに。
でも以前の俺が出来なかったことがしたいと思ってしまった。

―――ルイに、手紙を受け取って欲しいと。

明日の授業で一般学生は移動教室があるのは知っていた。
教室の鍵がセキュリティ上問題しかないような鍵なことも知っていた。
だから私はその隙をついてルイの居るクラスに忍び込み、ルイの使っている机を探るとその中に手紙を入れて逃げるように出て行った。
少しだけ授業に遅れたが、それについては堂々と仮病を使って誤魔化した。
教師は訝し気な表情をしたが、何を言うことも出来ない。

だって私は、王弟の息子なのだから。
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