貴方に幸せの花束を

かかし

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後編

それは多分俺ではない

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兎から貰った手紙は、確かに身勝手ではあったけれど、それでも思わず縋ってしまいそうな内容だった。

―――幼さが残る、小さく少し特徴のある文字。

けして下手な訳ではないが、だからといって上手い訳でもない。
詠み辛さはけして感じさせない、そんな字はあまりにも【彼らしい】字で私は泣きそうになった。
何故。
何故以前の私はあの字を彼の字だと信じてしまったのだろうか。
こっちの方が、ずっとずっと可愛らしくて綺麗で、こんなにも愛しいのに。

「ルイ………」

そっと指で、彼の文字をなぞる。
ずっとずっと、欲しかった物。
例えそれが【ドミニク・カタルシス】宛てはないとしても、それでも、【ルイからの手紙】が私の手元にあるという事実が私にとっては何よりも嬉しかった。

『貴方は何色が好きですか?
僕は淡い青色が好きです。』
知ってる。
だから、この便箋と封筒をいつも持っていたんだ。
君が好きだから、いつでも君を思い出せるように。

『貴方はどんな食べ物が好きですか?
僕は卵が好きです。』
そうだったんだね。
以前の君は食堂に行くことがあまりなかったから、知らなかった。
食事も共にしたけど、全然見てなかった。ごめんね。

『貴方はお花は好きですか?
種類とかは分からないけど、小さいお花が好きです。』
興味は無かったけど、今好きになったよ。
君が好きだと言うなら私はその全てを愛せる自信がある。

想いのままに、それでも【巻き戻り】のことは伏せて返事を綴る。

どう足掻いても手に入らないのだから、諦めるべきだ。
それなのに、綴る手は止められない。
だって、やっと出来るんだぞ?
ルイと、本当のルイと手紙のやり取りが!

あ、そうだ。
後で額縁を買おう。
ルイから貰った、初めての手紙。
私の宝物。
額縁に入れて、大事に飾ろう。

一度許されると、欲がどんどんと出て来る。
もっと返信が欲しい。
もっともっと、手紙のやり取りをしたい。
もっともっと、私のことを知って欲しい。
もっともっと、君のことを知りたい。

案外、私は彼のことを知らなかった。
知ったつもりでいただけで、表面上しか理解していなかった。
だからこそ、ルイのことをもっともっと知りたいと思った。
そして何より、好きな人って誰なんだろうかと気になる。

それは多分俺ではない。
多分だけれど、あの兎でもない。

じゃあ誰なのだろうか?
今のルイは以前のルイと違って、たくさんの人間に囲まれてその愛らしい笑顔を振りまいている。
その中の誰かなのか?
ソイツはルイのことを護れるのか?
ルイに相応しいのか?

誰であれ、俺よりもルイに相応しいのは分かっているけれど。

それでも気になってしまう。
俺だってと思ってしまう。

誰かの隣に、着飾ってとびきりの笑顔のルイが笑う。

その姿を想像するのは容易くて、その誰かは俺ではないという事実に吐き気がした。
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