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中編

隣に立つ権利

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『ぼくはじびょうがあるので、ごがくゆうにはなれないのです。』

しかし現実は、残酷だった。
従兄弟の誕生祭で出会った彼は、悲しそうな顔で私にそう言った。
どうして、そんな。
持病だなんて、以前は無かったじゃないか!
そう叫びたくなるのを必死に耐える。

けれど、どうしたらいい?
これじゃあどれ程努力しても、彼のモノにはなれないじゃないか。

以前の私が以前の彼を手に入れれたのは、前提条件として彼がご学友候補の中に居たからだ。
王弟の息子と、田舎貴族の息子。
それはどうしようもない身分差で、接触すら許されないものだった。

どうしたらいい?

その疑問だけが、頭の中をぐるぐると回る。
このまま諦めるべきなのか?
何の努力もしていない他の雄が、或いは雌が。
彼に触れ、彼の隣に立ち、彼に笑いかけてもらい、彼に名前を呼んでもらう。
そんな姿を、黙って見ていなければいけないのか?

嫌だと、思った。
俺だって隣に立つ権利はある!
そう吼えたかったけれど、未だに夢に見る彼の最期の姿が二の足を踏ませる。
生ゴミに交じって捨てられた彼の俺に宛てた手紙の残骸が、俺に現実を見せる。

自分の不甲斐なさが彼を殺した。

それはどうしようもない事実だ。
もう一度結婚出来たからって、また同じことにならないなんて保証がどこにある?
本当に幸せに出来ると思っているのか?
自分以外の獣人、或いは人間の方が、彼を幸せに出来るのかもしれない。

「ご学友候補の子達に気に入った子は居たか?」

以前と同じように、パーティーの終わりに父がそう聞いた。
その言葉に、私は首を横に振った。
あの子が候補じゃないのならば、後の全員はただの有象無象だ。

「そうか。」

父はそれだけ言って踵を返した。
私はその後を追いながら、ぼんやりと考える。
以前の私は、はたして愛されていたのだろうか。
細かく千切られ、そして生ゴミと共に捨てられていたあの手紙には一体何が書かれていたのだろうか。

恨み事、だったのかもしれない。

そんな現実が、今更ながらに迫って来る。
あんなにも苦しめられていて、それなのに傍に居なかった雄に何の価値がある?
私の手紙は全部あの雌の手元に渡っていた。
つまり彼の目からしてみれば、手紙に返信もしない、浮気相手を連れ込んだ最低の雄だという訳だ。

違うのだと、そう言いたくてももう聞いてくれる人は居ない。

今の彼は当然ながら私のことを知らなかった。
そんな相手からいきなりこんな話をされても、頭がおかしいと思われるだけだ。
けれど可能なら、彼に許しを請いたい。

許しを請い、もう一度だけチャンスが欲しい。

頑張るから、努力するから。
君が望むなら全てを差し出すから、逆に捨てても良い。
だからもう一度、もう一度だけでいいから、名前を呼んで欲しい。

足元から崩れ落ちそうな衝動を、グッと拳を握って耐える。
固く目を閉じれば以前の彼の、血に塗れた虚ろな瞳と目が合った気がした。
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