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中編
あいをこめて
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―――夢を、見た。
僕が【何か】に対して子守唄を歌いながら、編み物をしている夢。
何に対してかは、見えない。
でもそれは【物体】であると、僕は理解していた。
『 は、その歌が好きだね。』
【何か】が僕にそう言った。
僕は編み物をする手を止めずに頷く。
その間、歌うのも止めなかった。
まるでその【何か】に歌って聞かせるように。
『それは何の歌?』
『子守唄だよ。子供をねかしつける時に歌うんだ。』
僕がそう言えば、【何か】は不思議そうに光を瞬かせた。
何の光かは分からない。
でも何の光か、僕は知っている。
そんな矛盾した考えを持ったまま、僕は目の前の僕と【何か】の会話を見る。
『では何故それを歌っているの?ここには僕と しか居ないのに。』
『だからだよ。 に聴かせているんだ。』
『僕は眠らないのに?』
【何か】が不思議そうに僕にそう言った。
何の感情も乗っていない淡々とした声だけなのに、不思議と【何か】の感情は手に取るように分かった。
僕はそんな【何か】に、穏やかな笑顔を浮かべてそうだよと頷く。
そんな笑みを浮かべた記憶なんてないのに、でも僕はすんなりと受け入れることが出来た。
『愛しいから、だよ。』
僕が笑う。
【何か】が照れたように光を一瞬だけ強くて、でも取り繕うようにゆっくりと瞬く。
そんな動作を見て、嗚呼、この子は本当に愛しいなと思った。
知らない筈の懐かしい愛しさに、涙が出てくる。
『可愛い子にも、歌ってあげたくなるんだ。』
『僕は なのに、可愛いの?』
『そうだよ。』
編み物をする手を止めて、僕は【何か】を撫でる。
掌から感じるじんわりとした温かさは、血が通っているからではない。
それでも、僕はその温かさが確かに愛しかった。
『可愛くて、愛おしい。 、僕の可愛い 。』
そもそも、【何か】だって僕に撫でられた所で何も感じない。
それでも、僕は愛しいという気持ちの表し方をこれしか分からなかった。
【何か】は何でも知っている。
【何か】はそれこそ、しようと思えばきっと何だって出来る。
『僕達の、可愛い天使。』
それでも、僕は【何か】の為に教えてあげたいと思った。
それでも、僕は【何か】の為になんでもしてあげたいと思った。
だって【何か】は、僕達の愛しい なんだから。
『………あの人達も、そう思ってる?』
『勿論!』
感情はない筈なのに、【何か】の声はひどく寂しげに聞こえた。
きっと、【彼ら】が忙しくしてなかなか会いに来れないから、飽きられたのではないかと不安に感じでいるんだろうと思った。
誰も彼も、【ソレ】はそんな事は感じないと笑うだろうけど、僕はそう思ったんだ。
『 も も、君を愛してるよ。』
『でも僕は、 だから………』
『それがどうしたの?それでも君は、ここに居るだろう?』
編みかけたセーターをテーブルに置いて、【何か】を抱き締める。
そこに意味なんて無いと、誰もが笑うだろう。
だって、 は何も感じないのだから。
それでも僕は、僕自身のエゴの為に抱き締めた。
『確かに存在する、僕達の愛しい子だ。』
その言葉は何の慰みも持たない。
それは分かっていたけれど、それでも少しでも【この子】に伝われば良いと思った。
僕のエゴも、愛も、何もかも。
『……… 。』
『なぁに?』
『もう一度、歌ってほしい………』
『うん、いいよ。可愛い子。』
僕の持ち得る、全ての感情を込めて。
僕は歌う。
誰も眠らない子守唄を。
ハロー、ハロー
君の愛を、献身を
ある人はままごとだと嘲笑い
ある人はただの自己愛だと蔑んだ
ハロー、ハロー
それでも君は笑ったね
それでも良いと
本当に分かって欲しい人だけ、分かれば良いんだって
僕が【何か】に対して子守唄を歌いながら、編み物をしている夢。
何に対してかは、見えない。
でもそれは【物体】であると、僕は理解していた。
『 は、その歌が好きだね。』
【何か】が僕にそう言った。
僕は編み物をする手を止めずに頷く。
その間、歌うのも止めなかった。
まるでその【何か】に歌って聞かせるように。
『それは何の歌?』
『子守唄だよ。子供をねかしつける時に歌うんだ。』
僕がそう言えば、【何か】は不思議そうに光を瞬かせた。
何の光かは分からない。
でも何の光か、僕は知っている。
そんな矛盾した考えを持ったまま、僕は目の前の僕と【何か】の会話を見る。
『では何故それを歌っているの?ここには僕と しか居ないのに。』
『だからだよ。 に聴かせているんだ。』
『僕は眠らないのに?』
【何か】が不思議そうに僕にそう言った。
何の感情も乗っていない淡々とした声だけなのに、不思議と【何か】の感情は手に取るように分かった。
僕はそんな【何か】に、穏やかな笑顔を浮かべてそうだよと頷く。
そんな笑みを浮かべた記憶なんてないのに、でも僕はすんなりと受け入れることが出来た。
『愛しいから、だよ。』
僕が笑う。
【何か】が照れたように光を一瞬だけ強くて、でも取り繕うようにゆっくりと瞬く。
そんな動作を見て、嗚呼、この子は本当に愛しいなと思った。
知らない筈の懐かしい愛しさに、涙が出てくる。
『可愛い子にも、歌ってあげたくなるんだ。』
『僕は なのに、可愛いの?』
『そうだよ。』
編み物をする手を止めて、僕は【何か】を撫でる。
掌から感じるじんわりとした温かさは、血が通っているからではない。
それでも、僕はその温かさが確かに愛しかった。
『可愛くて、愛おしい。 、僕の可愛い 。』
そもそも、【何か】だって僕に撫でられた所で何も感じない。
それでも、僕は愛しいという気持ちの表し方をこれしか分からなかった。
【何か】は何でも知っている。
【何か】はそれこそ、しようと思えばきっと何だって出来る。
『僕達の、可愛い天使。』
それでも、僕は【何か】の為に教えてあげたいと思った。
それでも、僕は【何か】の為になんでもしてあげたいと思った。
だって【何か】は、僕達の愛しい なんだから。
『………あの人達も、そう思ってる?』
『勿論!』
感情はない筈なのに、【何か】の声はひどく寂しげに聞こえた。
きっと、【彼ら】が忙しくしてなかなか会いに来れないから、飽きられたのではないかと不安に感じでいるんだろうと思った。
誰も彼も、【ソレ】はそんな事は感じないと笑うだろうけど、僕はそう思ったんだ。
『 も も、君を愛してるよ。』
『でも僕は、 だから………』
『それがどうしたの?それでも君は、ここに居るだろう?』
編みかけたセーターをテーブルに置いて、【何か】を抱き締める。
そこに意味なんて無いと、誰もが笑うだろう。
だって、 は何も感じないのだから。
それでも僕は、僕自身のエゴの為に抱き締めた。
『確かに存在する、僕達の愛しい子だ。』
その言葉は何の慰みも持たない。
それは分かっていたけれど、それでも少しでも【この子】に伝われば良いと思った。
僕のエゴも、愛も、何もかも。
『……… 。』
『なぁに?』
『もう一度、歌ってほしい………』
『うん、いいよ。可愛い子。』
僕の持ち得る、全ての感情を込めて。
僕は歌う。
誰も眠らない子守唄を。
ハロー、ハロー
君の愛を、献身を
ある人はままごとだと嘲笑い
ある人はただの自己愛だと蔑んだ
ハロー、ハロー
それでも君は笑ったね
それでも良いと
本当に分かって欲しい人だけ、分かれば良いんだって
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