【加筆修正済】貴方に幸せの花束を

かかし

文字の大きさ
上 下
25 / 51
中編

あいをこめて

しおりを挟む
―――夢を、見た。

僕が【】に対して子守唄を歌いながら、編み物をしている夢。
何に対してかは、見えない。
でもそれは【物体】であると、僕は理解していた。

『  は、その歌が好きだね。』

【何か】が僕にそう言った。
僕は編み物をする手を止めずに頷く。
その間、歌うのも止めなかった。
まるでその【何か】に歌って聞かせるように。

『それは何の歌?』
『子守唄だよ。子供をねかしつける時に歌うんだ。』

僕がそう言えば、【何か】は不思議そうに光を瞬かせた。
何の光かは分からない。
でも何の光か、僕は知っている。
そんな矛盾した考えを持ったまま、僕はと【何か】の会話を見る。

『では何故それを歌っているの?ここには僕と  しか居ないのに。』
『だからだよ。    に聴かせているんだ。』
『僕は眠らないのに?』

【何か】が不思議そうに僕にそう言った。
何の感情も乗っていない淡々とした声だけなのに、不思議と【何か】の感情は手に取るように分かった。
僕はそんな【何か】に、穏やかな笑顔を浮かべてそうだよと頷く。
そんな笑みを浮かべた記憶なんてないのに、でも僕はすんなりと受け入れることが出来た。

、だよ。』

僕が笑う。
【何か】が照れたように光を一瞬だけ強くて、でも取り繕うようにゆっくりと瞬く。
そんな動作を見て、嗚呼、この子は本当に愛しいなと思った。
知らない筈の懐かしい愛しさに、涙が出てくる。

『可愛い子にも、歌ってあげたくなるんだ。』
『僕は  なのに、可愛いの?』
『そうだよ。』

編み物をする手を止めて、僕は【何か】を撫でる。
掌から感じるじんわりとした温かさは、血が通っているからではない。
それでも、僕はその温かさが確かに愛しかった。

『可愛くて、愛おしい。    、僕の可愛い    。』

そもそも、【何か】だって僕に撫でられた所で
それでも、僕は愛しいという気持ちの表し方をこれしか分からなかった。
【何か】は何でも知っている。
【何か】はそれこそ、しようと思えばきっと何だって出来る。

『僕達の、可愛い天使。』

それでも、僕は【何か】の為に教えてあげたいと思った。
それでも、僕は【何か】の為になんでもしてあげたいと思った。
だって【何か】は、僕達の愛しい       なんだから。

『………も、そう思ってる?』
『勿論!』

感情はない筈なのに、【何か】の声はひどく寂しげに聞こえた。
きっと、【】が忙しくしてなかなか会いに来れないから、飽きられたのではないかと不安に感じでいるんだろうと思った。
誰も彼も、【】はそんな事は感じないと笑うだろうけど、僕はそう思ったんだ。

『  も  も、君を愛してるよ。』
『でも僕は、  だから………』
『それがどうしたの?それでも君は、ここに居るだろう?』

編みかけたセーターをテーブルに置いて、【何か】を抱き締める。
そこに意味なんて無いと、誰もが笑うだろう。
だって、   は何も感じないのだから。
それでも僕は、僕自身のエゴの為に抱き締めた。

『確かに存在する、だ。』

その言葉は何の慰みも持たない。
それは分かっていたけれど、それでも少しでも【この子】に伝われば良いと思った。
僕のエゴも、愛も、何もかも。

『………  。』
『なぁに?』
『もう一度、歌ってほしい………』
『うん、いいよ。可愛い子。』

僕の持ち得る、全ての感情を込めて。
僕は歌う。
誰も眠らない子守唄を。


































ハロー、ハロー

君の愛を、献身を
ある人はままごとだと嘲笑い
ある人はただの自己愛だと蔑んだ

ハロー、ハロー

それでも君は笑ったね
それでも良いと
本当に分かって欲しい人だけ、分かれば良いんだって
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

もう遅いなんて言わせない

木葉茶々
BL
受けのことを蔑ろにしすぎて受けに出ていかれてから存在の大きさに気づき攻めが奮闘する話

恋愛対象

すずかけあおい
BL
俺は周助が好き。でも周助が好きなのは俺じゃない。 攻めに片想いする受けの話です。ハッピーエンドです。 〔攻め〕周助(しゅうすけ) 〔受け〕理津(りつ)

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます

まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。 貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。 そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。 ☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。 ☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

別れの夜に

大島Q太
BL
不義理な恋人を待つことに疲れた青年が、その恋人との別れを決意する。しかし、その別れは思わぬ方向へ。

諦めようとした話。

みつば
BL
もう限界だった。僕がどうしても君に与えられない幸せに目を背けているのは。 どうか幸せになって 溺愛攻め(微執着)×ネガティブ受け(めんどくさい)

弱すぎると勇者パーティーを追放されたハズなんですが……なんで追いかけてきてんだよ勇者ァ!

灯璃
BL
「あなたは弱すぎる! お荷物なのよ! よって、一刻も早くこのパーティーを抜けてちょうだい!」 そう言われ、勇者パーティーから追放された冒険者のメルク。 リーダーの勇者アレスが戻る前に、元仲間たちに追い立てられるようにパーティーを抜けた。 だが数日後、何故か勇者がメルクを探しているという噂を酒場で聞く。が、既に故郷に帰ってスローライフを送ろうとしていたメルクは、絶対に見つからないと決意した。 みたいな追放ものの皮を被った、頭おかしい執着攻めもの。 追いかけてくるまで説明ハイリマァス ※完結致しました!お読みいただきありがとうございました! ※11/20 短編(いちまんじ)新しく書きました! ※12/14 どうしてもIF話書きたくなったので、書きました!これにて本当にお終いにします。ありがとうございました!

愛する人

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」 応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。 三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。 『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。

処理中です...