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後編
貴方に幸せの花束を
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風を感じる。
穏やかな波の音も。
ゆっくりと目を開ければそこは、見たこともない美しい花と小さな紫色の花が沢山咲いた花畑。
「ここ………は………?」
「あっ!居たー!!」
どこだろうかと視界を彷徨わせていると、ずっとずっと聞きたかった愛しい声が聞こえた。
もうそんな風に俺を呼んではくれない筈の、声色。
驚いて声の場所に視界を移せば、彼が、ルイが、俺に向かって花畑の中を走って来る。
学生の頃と変わらない、優しい笑顔で。
けれど最期の頃に見た、成長した姿で。
矛盾した姿。
でもまるで、それが真実のようにそこに在った。
「………ル………イ………?」
「ねぇ!レオ、居ましたよ!」
そうしてルイは振り返って、後ろに居る誰かに大きく手を振る。
ルイの少し後ろを悠々と歩くその姿は、俺がずっとずっと、許しを乞いたかった人。
同じように最期に見た成長した姿で、それでも学生の頃みたいに穏やかな微笑みでこっちに歩いて来る。
「ドム………うわっ!」
思わず立ち上がろうとするよりも早く、ルイが俺に飛びついてきてまた花のベッドに埋もれた。
地面に頭をぶつけた筈なのに、不思議と痛みはない。
そこに違和感を抱くよりも、じかに感じるルイの熱が、柔らかさが、愛しくてしかない。
もう冷たくない、固くない。
そっと撫でた後頭部にもヘコみは無い。
じわじわと、自分の瞳に涙が滲んでいく。
「レオ捕まえた!」
「ルイ………ルイ………」
「やーっと見付けた。探してたんですよ、二人で。」
溢れる感情が耐えられなくて、俺はギュッとルイを抱き締めた。
嘘偽りない温もり。
そんな俺に降り注ぐ、二人の優しい声。
これはきっと幻想だ。
ヘクターが見せてくれた、淡く優しい夢だ。
でも、嗚呼、いつか覚めないといけないのならば、この温もりと優しさをもう少し味わいたい!
「ほら、ルイ。それじゃあレオがいつまで経っても起き上がれないから。」
ドムはぽんぽんとルイの肩を叩いて退くように促したかと思えば、俺に向かって手を伸ばす。
ドムが手を差し伸ばしてくれる。
そんな日なんて、もう一生来ないと思っていた。
その手をしっかりと握り、立ち上がる。
噎せ返る程の花の匂いに、これは現実なんだと縋りたくなる。
「ここはお花がいっぱいありますね!そうだ、勝負しましょう!」
「脈略。」
「何でだよ、何するんだよ。」
懐かしい、遠慮のない会話。
目的なんて何もなく。
果てが無いんじゃないかと思いたくなる程に広い花畑を、俺を間に挟んで三人で手を繋いでただ歩く。
じんわりと、移り合う熱。
愛しい、確かな幸せ。
「花束勝負!綺麗なの作った人が勝ち!」
「主観的だなー。」
「誰が審判なんだよ。」
「んー、ヘクターかな!公平なジャッジをー!」
キャッキャと、ルイが笑う。
そんなルイに、ドムが愛しそうに微笑む。
嗚呼、ずっとずっと見たかった。
俺が本当に欲しかった光景。
「でもヘクターは、ルイに甘いからなー」
くだらない、何の意味の無い会話。
三人で手を繋ぎながら、そんな会話に花を咲かせて。
そうして夕日が照らす中で俺達は―――
「ハロー、ハロー
ハロー、ハロー
ハロー、ハロー
グッナイ
大好きなお父さん
グッナイ
大好きなお母さん
グッナイ
大好きなもう一人のお父さん
眠りの小山で、ゆっくり休んで
優しい風が貴方達の不安も悲しみも吹き飛ばしてくれる
たくさんお喋りをして、たくさん遊んで
疲れたら貴方達のボートで、波と揺蕩いながら眠りについて
そうして私は沢山の幸せを花束にして、貴方達に贈ります
もう二度と、貴方達が悲しまなくて良いように」
穏やかな波の音も。
ゆっくりと目を開ければそこは、見たこともない美しい花と小さな紫色の花が沢山咲いた花畑。
「ここ………は………?」
「あっ!居たー!!」
どこだろうかと視界を彷徨わせていると、ずっとずっと聞きたかった愛しい声が聞こえた。
もうそんな風に俺を呼んではくれない筈の、声色。
驚いて声の場所に視界を移せば、彼が、ルイが、俺に向かって花畑の中を走って来る。
学生の頃と変わらない、優しい笑顔で。
けれど最期の頃に見た、成長した姿で。
矛盾した姿。
でもまるで、それが真実のようにそこに在った。
「………ル………イ………?」
「ねぇ!レオ、居ましたよ!」
そうしてルイは振り返って、後ろに居る誰かに大きく手を振る。
ルイの少し後ろを悠々と歩くその姿は、俺がずっとずっと、許しを乞いたかった人。
同じように最期に見た成長した姿で、それでも学生の頃みたいに穏やかな微笑みでこっちに歩いて来る。
「ドム………うわっ!」
思わず立ち上がろうとするよりも早く、ルイが俺に飛びついてきてまた花のベッドに埋もれた。
地面に頭をぶつけた筈なのに、不思議と痛みはない。
そこに違和感を抱くよりも、じかに感じるルイの熱が、柔らかさが、愛しくてしかない。
もう冷たくない、固くない。
そっと撫でた後頭部にもヘコみは無い。
じわじわと、自分の瞳に涙が滲んでいく。
「レオ捕まえた!」
「ルイ………ルイ………」
「やーっと見付けた。探してたんですよ、二人で。」
溢れる感情が耐えられなくて、俺はギュッとルイを抱き締めた。
嘘偽りない温もり。
そんな俺に降り注ぐ、二人の優しい声。
これはきっと幻想だ。
ヘクターが見せてくれた、淡く優しい夢だ。
でも、嗚呼、いつか覚めないといけないのならば、この温もりと優しさをもう少し味わいたい!
「ほら、ルイ。それじゃあレオがいつまで経っても起き上がれないから。」
ドムはぽんぽんとルイの肩を叩いて退くように促したかと思えば、俺に向かって手を伸ばす。
ドムが手を差し伸ばしてくれる。
そんな日なんて、もう一生来ないと思っていた。
その手をしっかりと握り、立ち上がる。
噎せ返る程の花の匂いに、これは現実なんだと縋りたくなる。
「ここはお花がいっぱいありますね!そうだ、勝負しましょう!」
「脈略。」
「何でだよ、何するんだよ。」
懐かしい、遠慮のない会話。
目的なんて何もなく。
果てが無いんじゃないかと思いたくなる程に広い花畑を、俺を間に挟んで三人で手を繋いでただ歩く。
じんわりと、移り合う熱。
愛しい、確かな幸せ。
「花束勝負!綺麗なの作った人が勝ち!」
「主観的だなー。」
「誰が審判なんだよ。」
「んー、ヘクターかな!公平なジャッジをー!」
キャッキャと、ルイが笑う。
そんなルイに、ドムが愛しそうに微笑む。
嗚呼、ずっとずっと見たかった。
俺が本当に欲しかった光景。
「でもヘクターは、ルイに甘いからなー」
くだらない、何の意味の無い会話。
三人で手を繋ぎながら、そんな会話に花を咲かせて。
そうして夕日が照らす中で俺達は―――
「ハロー、ハロー
ハロー、ハロー
ハロー、ハロー
グッナイ
大好きなお父さん
グッナイ
大好きなお母さん
グッナイ
大好きなもう一人のお父さん
眠りの小山で、ゆっくり休んで
優しい風が貴方達の不安も悲しみも吹き飛ばしてくれる
たくさんお喋りをして、たくさん遊んで
疲れたら貴方達のボートで、波と揺蕩いながら眠りについて
そうして私は沢山の幸せを花束にして、貴方達に贈ります
もう二度と、貴方達が悲しまなくて良いように」
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