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前編
まぁ、初対面なんだけど
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「………えっ、と………」
どうしよう。
どう接するのが正解なのだろうか。
目の前に居るのは確かにあの人………ドミニク・カタルシス様その人だ。
でもこの頃の僕は、ドミニク様がどういう人か知らない。
田舎の子だから、ご学友候補の挨拶の時に王子様から紹介されて初めて知ったのだ。
だから彼の名前を言うことは出来ない。
初対面だからだ。
「どうか、されましたか………?あ、ぼくはアルシェントけのじなん、ルイ・アルシェントともうします。こっちはいもうとのカノンノです。」
「カノンノ・アルシェントです………」
そんな彼が、どうして僕を見てそんな驚いたような顔をしているんだろう。
少し不思議な気持ちで、それでも初対面を装ってきちんとご挨拶をする。
まぁ、初対面なんだけど。
「あ、えっと、その、僕は、カタルシス家の三男、ドミニク・カタルシスだ。」
同じ年なのに未だ活舌が幼い僕と違って、ドミニク様は大人顔負けな発音でハキハキと喋っている。
まぁ、らしくなく出だしがどもってるのが気になったけど。
よし、ここで立場はドミニク様の方が上って分かったから頭を下げよう!って思ったけど、寸での所でドミニク様に止められる。
何でだ。
「あの、君はどうしてここにいるの?」
「えっ」
えっ、僕何もしてないのにそんなこと言われちゃう位には嫌われてたの?
最初から?
ファーストコンタクトからこの嫌われようって、そりゃあ結婚したら冷たく当たられる訳だ。
存在が嫌いとか、そういうやつだったのか………。
「あっ!違う!そうじゃなくて、その、アルシェントの子なら直ぐ順番が来るだろう?なのにどうしてここに居るんだろうって思って………」
あまりの嫌われように思わず妹を抱き締めて身を震わせると、ドミニク様が慌てたようにそう言ってハンカチを差し出してきた。
何だろうって思っていたら、どうやら僕は涙を流してしまったらしい。
恐る恐るといった感じで、目尻を拭ってくれながらそう言ってくれた。
なるほど?
確かにご学友候補の子達のご挨拶は、家柄の高い順だ。
田舎貴族とはいえそこそこ格式高い我が家は、そこそこ早かったのは確かに覚えている。
「あ、ありがとうございます。ぼくはじびょうがあるので、ごがくゆうにはなれないのです。」
「持病………?そんなはずは………どこが悪いの?」
「ルイ!」
僕が涙を拭われながらもたどたどしく説明しようとすると、今度は明確に僕の名前が呼ばれたから振り返る。
そこには学園の制服に身を包んだ兄さまが、ひどく慌てた様子で僕の方に駆け寄ってくれた。
ちょっと安心。
でも兄さま、マナーが………罰せられたり、しない?
「お話し中申し訳ございません、私はアルシェント家嫡男のリチャードと申します。ドミニク・カタルシス様とお見受けしますが、弟が何か?」
僕とドミニク様の間に割って入るように、兄さまがそう言った。
どうしよう。
兄さま爵位の高いお家の子だって分かってるのに………そんなことしたら、罰せられちゃう。
あの日みたいに殺されちゃう………!
「いや、すまない。僕が言い方を間違えて怖がらせてしまったから………」
ジッと兄の目を見て、ドミニク様はそう言った。
周りの人達も、僕達を見ている。
それもそうだ。
だってドミニク様は王子様の従兄弟………王弟の息子なんだから。
そんな尊い立場の人に、一介の田舎貴族が歯向かっている構図になっているこの状況は、誰も巻き込まれたくないから警戒するに決まってるだろう。
「に、にいさま!カタルシスさまは、ぼくがびょうきだからしんぱいしてくださっただけなんです!ね、カノンノ!」
ちょっと端折るけど、だいぶニュアンス違うけどでもそう!そういうことにしよう!
何が起きてるのか分からないカノンノを巻き込んで申し訳ないが、それでも圧をかけるように名前を呼べば分からないまま首を縦に振ってくれた。
本当にごめんね、カノンノ。
今度のデザートは全部あげるから許して欲しい。
「………そう、だったんですね。誤解してしまい申し訳ございません。」
「いや、こちらこそはいりょに欠けた態度をとってしまった。許してくれるかい、ルイ。」
ドミニク様に、名前を呼ばれる。
婚約が決まるまでは、よく僕の名前を呼んでくれた。
婚約がきまるまでは、笑ってくれた。
今更その時のことを思い出して、胸がときめいてしまう。
そんなの絶対駄目なのに。
「はい、だいじょうぶです。」
貴方の全てを、僕は許してしまうから。
どうしよう。
どう接するのが正解なのだろうか。
目の前に居るのは確かにあの人………ドミニク・カタルシス様その人だ。
でもこの頃の僕は、ドミニク様がどういう人か知らない。
田舎の子だから、ご学友候補の挨拶の時に王子様から紹介されて初めて知ったのだ。
だから彼の名前を言うことは出来ない。
初対面だからだ。
「どうか、されましたか………?あ、ぼくはアルシェントけのじなん、ルイ・アルシェントともうします。こっちはいもうとのカノンノです。」
「カノンノ・アルシェントです………」
そんな彼が、どうして僕を見てそんな驚いたような顔をしているんだろう。
少し不思議な気持ちで、それでも初対面を装ってきちんとご挨拶をする。
まぁ、初対面なんだけど。
「あ、えっと、その、僕は、カタルシス家の三男、ドミニク・カタルシスだ。」
同じ年なのに未だ活舌が幼い僕と違って、ドミニク様は大人顔負けな発音でハキハキと喋っている。
まぁ、らしくなく出だしがどもってるのが気になったけど。
よし、ここで立場はドミニク様の方が上って分かったから頭を下げよう!って思ったけど、寸での所でドミニク様に止められる。
何でだ。
「あの、君はどうしてここにいるの?」
「えっ」
えっ、僕何もしてないのにそんなこと言われちゃう位には嫌われてたの?
最初から?
ファーストコンタクトからこの嫌われようって、そりゃあ結婚したら冷たく当たられる訳だ。
存在が嫌いとか、そういうやつだったのか………。
「あっ!違う!そうじゃなくて、その、アルシェントの子なら直ぐ順番が来るだろう?なのにどうしてここに居るんだろうって思って………」
あまりの嫌われように思わず妹を抱き締めて身を震わせると、ドミニク様が慌てたようにそう言ってハンカチを差し出してきた。
何だろうって思っていたら、どうやら僕は涙を流してしまったらしい。
恐る恐るといった感じで、目尻を拭ってくれながらそう言ってくれた。
なるほど?
確かにご学友候補の子達のご挨拶は、家柄の高い順だ。
田舎貴族とはいえそこそこ格式高い我が家は、そこそこ早かったのは確かに覚えている。
「あ、ありがとうございます。ぼくはじびょうがあるので、ごがくゆうにはなれないのです。」
「持病………?そんなはずは………どこが悪いの?」
「ルイ!」
僕が涙を拭われながらもたどたどしく説明しようとすると、今度は明確に僕の名前が呼ばれたから振り返る。
そこには学園の制服に身を包んだ兄さまが、ひどく慌てた様子で僕の方に駆け寄ってくれた。
ちょっと安心。
でも兄さま、マナーが………罰せられたり、しない?
「お話し中申し訳ございません、私はアルシェント家嫡男のリチャードと申します。ドミニク・カタルシス様とお見受けしますが、弟が何か?」
僕とドミニク様の間に割って入るように、兄さまがそう言った。
どうしよう。
兄さま爵位の高いお家の子だって分かってるのに………そんなことしたら、罰せられちゃう。
あの日みたいに殺されちゃう………!
「いや、すまない。僕が言い方を間違えて怖がらせてしまったから………」
ジッと兄の目を見て、ドミニク様はそう言った。
周りの人達も、僕達を見ている。
それもそうだ。
だってドミニク様は王子様の従兄弟………王弟の息子なんだから。
そんな尊い立場の人に、一介の田舎貴族が歯向かっている構図になっているこの状況は、誰も巻き込まれたくないから警戒するに決まってるだろう。
「に、にいさま!カタルシスさまは、ぼくがびょうきだからしんぱいしてくださっただけなんです!ね、カノンノ!」
ちょっと端折るけど、だいぶニュアンス違うけどでもそう!そういうことにしよう!
何が起きてるのか分からないカノンノを巻き込んで申し訳ないが、それでも圧をかけるように名前を呼べば分からないまま首を縦に振ってくれた。
本当にごめんね、カノンノ。
今度のデザートは全部あげるから許して欲しい。
「………そう、だったんですね。誤解してしまい申し訳ございません。」
「いや、こちらこそはいりょに欠けた態度をとってしまった。許してくれるかい、ルイ。」
ドミニク様に、名前を呼ばれる。
婚約が決まるまでは、よく僕の名前を呼んでくれた。
婚約がきまるまでは、笑ってくれた。
今更その時のことを思い出して、胸がときめいてしまう。
そんなの絶対駄目なのに。
「はい、だいじょうぶです。」
貴方の全てを、僕は許してしまうから。
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