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前編
ゆめだとおもった?
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話は喧騒の中に戻る。
血を流して横たわる【彼】は確かに死んでいた。
「これ以上は庇いきれません!」
真っ先に金切り声を上げたのは、そこまでの騒動をただ黙って見ていたメイド長だった。
彼女は特に【彼】に対して何もしなかった。
そう、何もしなかったのだ。
【彼】に嬉々として危害を加える【彼女】や【彼女】の新派達を見ていても、何も。
それが罪だとも知らずに、何もしなかったんだ。
「何よ!今まで何もしなかったじゃない!」
それなのにメイド長は、直接手を下した【彼女】をキーキー言いながら責め立てた。
滑稽だね。
だからこそ、【彼女】もそれはおかしいと騒ぎ立てた。
しかしメイド長と同じように何もしなかった者達は、ここぞとばかりに【彼女】達を責め立てた。
するもしないも同罪なのにね。
誰も【彼】の遺体に駆け寄ろうともせず、自分保身ばかりを言い合った。
「何の騒ぎだ!」
そんな中、タイミング悪く【主人】が帰って来てしまった。
不機嫌そうにご自慢の美しい尻尾をゆっくりと振り、腹の底から響かせるような吼え声を屋敷中に響かせた。
そうして今まで言い合っていた者達は、まるで時が止まったかのようにピタリと言い合いを止めて【主人】を見た。
誰も【主人】の問いには答えない。
そのことに【主人】は苛立ち再び吼えようとした瞬間、ふと、鼻腔を擽る香りに気付いた。
食欲をそそる、甘美な香り。
それはけして【主人】に届く筈のない香り。
そのことに気付いた瞬間、【主人】は導かれるように香りの方向を見た。
嗚呼、何故、気付かなかったのだ。
【主人】は停止しそうになる思考の中でそう思った。
そう、【主人】は帰宅した瞬間に気付けた筈だった。
使用人達が集まる階段の下、つまり玄関入ってわりと直ぐの所で血塗れで横たわる【彼】の屍に。
「どういう、ことだ?」
ぐったりとしたまま動かない【彼】が既に息絶えていることを、【主人】は認めたくなかった。
【■しい■】が死んでいるなんて、そんなことを認めたくなかったのだ。
だから聞いた。
使用人達に、【彼女】に、そして【彼】に。
けれども誰も答えない。
答えることが出来なかった。
誰も彼もが、自分の罪と向き合うことが出来なかったのだ。
「おい、起きろ。」
【主人】はそっと【彼】の横に跪きながら、【■しい■】の背中に触れた。
そうは言えど、もう既に息絶えてしまっている【彼】の身体は屍に相応しい固さと冷たさだ。
死人に口なし
もう【彼】は【主人】にうんともすんとも言うことが出来なくなってしまっている。
【主人】が帰還する、ずっと前から。
「おい、なぁ、おい………」
先程までの勢いとは違い、まるで母犬を求める子犬のように頼りなく情けない声だ。
じわじわと、【主人】の視界が滲む。
こんなことに、どうして?
その考えだけが頭の中を回る。
新婚だというのに問答無用で告げられた急な出陣要請に、それでも【■しい■】に一秒でも早く会いたいと、おかえりと言って欲しいと、それだけを支えに今の今まで耐えてきた。
手紙のやり取りもしていたが、それだけでは足りないと。
嗚呼、でも、思ってたよね。本当は。
その手紙、本当に【■しい■】からなのだろうかって。
血を流して横たわる【彼】は確かに死んでいた。
「これ以上は庇いきれません!」
真っ先に金切り声を上げたのは、そこまでの騒動をただ黙って見ていたメイド長だった。
彼女は特に【彼】に対して何もしなかった。
そう、何もしなかったのだ。
【彼】に嬉々として危害を加える【彼女】や【彼女】の新派達を見ていても、何も。
それが罪だとも知らずに、何もしなかったんだ。
「何よ!今まで何もしなかったじゃない!」
それなのにメイド長は、直接手を下した【彼女】をキーキー言いながら責め立てた。
滑稽だね。
だからこそ、【彼女】もそれはおかしいと騒ぎ立てた。
しかしメイド長と同じように何もしなかった者達は、ここぞとばかりに【彼女】達を責め立てた。
するもしないも同罪なのにね。
誰も【彼】の遺体に駆け寄ろうともせず、自分保身ばかりを言い合った。
「何の騒ぎだ!」
そんな中、タイミング悪く【主人】が帰って来てしまった。
不機嫌そうにご自慢の美しい尻尾をゆっくりと振り、腹の底から響かせるような吼え声を屋敷中に響かせた。
そうして今まで言い合っていた者達は、まるで時が止まったかのようにピタリと言い合いを止めて【主人】を見た。
誰も【主人】の問いには答えない。
そのことに【主人】は苛立ち再び吼えようとした瞬間、ふと、鼻腔を擽る香りに気付いた。
食欲をそそる、甘美な香り。
それはけして【主人】に届く筈のない香り。
そのことに気付いた瞬間、【主人】は導かれるように香りの方向を見た。
嗚呼、何故、気付かなかったのだ。
【主人】は停止しそうになる思考の中でそう思った。
そう、【主人】は帰宅した瞬間に気付けた筈だった。
使用人達が集まる階段の下、つまり玄関入ってわりと直ぐの所で血塗れで横たわる【彼】の屍に。
「どういう、ことだ?」
ぐったりとしたまま動かない【彼】が既に息絶えていることを、【主人】は認めたくなかった。
【■しい■】が死んでいるなんて、そんなことを認めたくなかったのだ。
だから聞いた。
使用人達に、【彼女】に、そして【彼】に。
けれども誰も答えない。
答えることが出来なかった。
誰も彼もが、自分の罪と向き合うことが出来なかったのだ。
「おい、起きろ。」
【主人】はそっと【彼】の横に跪きながら、【■しい■】の背中に触れた。
そうは言えど、もう既に息絶えてしまっている【彼】の身体は屍に相応しい固さと冷たさだ。
死人に口なし
もう【彼】は【主人】にうんともすんとも言うことが出来なくなってしまっている。
【主人】が帰還する、ずっと前から。
「おい、なぁ、おい………」
先程までの勢いとは違い、まるで母犬を求める子犬のように頼りなく情けない声だ。
じわじわと、【主人】の視界が滲む。
こんなことに、どうして?
その考えだけが頭の中を回る。
新婚だというのに問答無用で告げられた急な出陣要請に、それでも【■しい■】に一秒でも早く会いたいと、おかえりと言って欲しいと、それだけを支えに今の今まで耐えてきた。
手紙のやり取りもしていたが、それだけでは足りないと。
嗚呼、でも、思ってたよね。本当は。
その手紙、本当に【■しい■】からなのだろうかって。
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