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前編
どれ程尊いものなのか
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「坊ちゃんはかれこれ三日間眠ったままだったんですよ。」
じいやはそんな僕に、目に涙を浮かべながらそう言った。
うん、そういうことを聞きたかった訳じゃなかったんだけどなと思うけど、仕方ない。
今何歳?なんて聞こうものなら、頭おかしくなったと思われて騒がれてしまうかもしれない。
それに、じいやに不要な心配はかけたくなかった。
「みっかも………」
「ええ。何の前触れもなく倒られたので、奥様も大慌てでして………ああ、いけません!奥様と旦那様にすぐに報せねば!」
なので話を合わせてみたら、じいやはそう言って普段のキビキビとした態度とは打って変わってバタバタと騒がしく部屋から出て行った。
こういうのを、嵐みたいって言うんだろうな。
小説ではよく見る表現だけど、実際には初めて見た。
ちょっと感動。
取り合えずじいやが母様と父様をすぐに連れてくるだろうから、その僅かな時間にもポンコツな脳みそを動かす為にベッドに座る。
………ちょっと高くて苦戦したのは内緒だ。
久しぶりにふわふわのマットレスに身を沈ませながら、僕は改めてすっかり小さくなってしまった掌をじっと見つめる。
―――今の僕は、一体何歳なんだろうか?
タイムリープだなんて小説でしか知らないし、小説でもどんなものなのか読んだことはなかった。
興味があまり湧かなかったというのも、大いにある。
でも実際、僕は小さくなっているから多分本当に時間は巻き戻ってしまったのだと思う。
というか、そうじゃないとこの現状が受け入れきれないので、もうそうだと仮定してしまおう。
で、仮にそうだとして、話を戻すけど今の僕は一体何歳なんだろうか?
子供の時の大きさなんて、当たり前だけど覚えてない。
だから姿見を見たって、掌を見たって、全然見当もつかない。
例えば誕生日が来れば分かるかもしれないけど、でももし今の僕が誕生日が来たばかりだとしたら、一年近く何も分からないままで過ごすことが出来るだろうか?
一瞬日記を読むという手も思い付いたが、日記を書き始めたのは学園に通い始めてからだ。
それも筆不精だったから、毎日じゃない。
「坊や!私の可愛い坊や!!」
「目が覚めたのか!?」
元々宜しくない頭をフルに動かしてうんうん唸っていると、父様と母様が部屋に入って来てしまった。
もうちょっと考えたかったという気持ちと、考え過ぎて頭痛いという気持ちが鬩ぎ合うが、到着してしまったのは仕方ないよね、うん。
そう思いながらベッドを降りて、父様と母様の前に行く。
嗚呼、会いたかった。
僕の、大好きな大好きな両親。
もう二度と会えない、抱き締めてもらえないと思っていた人達。
「とうさまっ、かあさまっ!」
「「坊や!」」
泣くな、泣いてはいけないと思う僕の意思に反して、ぽろぽろと涙が零れてくる。
勝手にしくしくと泣き出した僕の身体を、母様が優しく撫でてくれる。
その温かさが、柔らかさが。
どれ程尊いものなのか、今までの僕は知らなかった。
知ろうともしていなかった。
みっともないと思いながら、ぎゅっと母様のドレスを握り締める。
子供だから仕方ないと、どうか許して欲しい。
そんな卑怯で矮小なことを思う僕の頭を、父様が大きな掌で撫でてくれる。
嬉しい、嬉しい、嬉しい。
僕は最期の最期まで気付けなかったね。
これこそが、幸せなんだって。
じいやはそんな僕に、目に涙を浮かべながらそう言った。
うん、そういうことを聞きたかった訳じゃなかったんだけどなと思うけど、仕方ない。
今何歳?なんて聞こうものなら、頭おかしくなったと思われて騒がれてしまうかもしれない。
それに、じいやに不要な心配はかけたくなかった。
「みっかも………」
「ええ。何の前触れもなく倒られたので、奥様も大慌てでして………ああ、いけません!奥様と旦那様にすぐに報せねば!」
なので話を合わせてみたら、じいやはそう言って普段のキビキビとした態度とは打って変わってバタバタと騒がしく部屋から出て行った。
こういうのを、嵐みたいって言うんだろうな。
小説ではよく見る表現だけど、実際には初めて見た。
ちょっと感動。
取り合えずじいやが母様と父様をすぐに連れてくるだろうから、その僅かな時間にもポンコツな脳みそを動かす為にベッドに座る。
………ちょっと高くて苦戦したのは内緒だ。
久しぶりにふわふわのマットレスに身を沈ませながら、僕は改めてすっかり小さくなってしまった掌をじっと見つめる。
―――今の僕は、一体何歳なんだろうか?
タイムリープだなんて小説でしか知らないし、小説でもどんなものなのか読んだことはなかった。
興味があまり湧かなかったというのも、大いにある。
でも実際、僕は小さくなっているから多分本当に時間は巻き戻ってしまったのだと思う。
というか、そうじゃないとこの現状が受け入れきれないので、もうそうだと仮定してしまおう。
で、仮にそうだとして、話を戻すけど今の僕は一体何歳なんだろうか?
子供の時の大きさなんて、当たり前だけど覚えてない。
だから姿見を見たって、掌を見たって、全然見当もつかない。
例えば誕生日が来れば分かるかもしれないけど、でももし今の僕が誕生日が来たばかりだとしたら、一年近く何も分からないままで過ごすことが出来るだろうか?
一瞬日記を読むという手も思い付いたが、日記を書き始めたのは学園に通い始めてからだ。
それも筆不精だったから、毎日じゃない。
「坊や!私の可愛い坊や!!」
「目が覚めたのか!?」
元々宜しくない頭をフルに動かしてうんうん唸っていると、父様と母様が部屋に入って来てしまった。
もうちょっと考えたかったという気持ちと、考え過ぎて頭痛いという気持ちが鬩ぎ合うが、到着してしまったのは仕方ないよね、うん。
そう思いながらベッドを降りて、父様と母様の前に行く。
嗚呼、会いたかった。
僕の、大好きな大好きな両親。
もう二度と会えない、抱き締めてもらえないと思っていた人達。
「とうさまっ、かあさまっ!」
「「坊や!」」
泣くな、泣いてはいけないと思う僕の意思に反して、ぽろぽろと涙が零れてくる。
勝手にしくしくと泣き出した僕の身体を、母様が優しく撫でてくれる。
その温かさが、柔らかさが。
どれ程尊いものなのか、今までの僕は知らなかった。
知ろうともしていなかった。
みっともないと思いながら、ぎゅっと母様のドレスを握り締める。
子供だから仕方ないと、どうか許して欲しい。
そんな卑怯で矮小なことを思う僕の頭を、父様が大きな掌で撫でてくれる。
嬉しい、嬉しい、嬉しい。
僕は最期の最期まで気付けなかったね。
これこそが、幸せなんだって。
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