上 下
11 / 26
1章

レオ&ノアVSゴブリンズ

しおりを挟む
 そうして走ること数分。俺達はやっとゴブリンの居場所にたどり着いていた。今は様子を見るため、木陰からゴブリンの様子を窺っている。ゴブリン達は獲物を探しているのか、周囲をきょろきょろとしながら彷徨っていた。


「よし、こっちが察知した通り三体だな。三人とも、準備はいいか?」
「ああ、いつでもいいぜ!」
「私も大丈夫よ。でも……」


 ノアはそう言いながら不安そうな目をエリスの方へと向ける。当のエリスはここに来て少し青い顔をしていた。


「エリス、どうしたんだ?」
「ごめんなさい、ヴァン先生……」
「……?」


 俺は青い顔で申し訳なさそうに謝るエリスの行動の意味が分からず、困惑していた。

 あの時に森に居た、ということは、少なからずこういった敵との戦闘はあったはずだ。いくらレオとノアにおんぶにだっこだったとはいえ、全く戦えないなんてことは……え、まさかそうなのか!?

 俺ははっとした顔でノアに視線を向けると、ノアも少しすまなそうな顔で答えてくれた。どうやら、俺はとんでもない勘違いをしていたらしい。


「ええ、実はそうなのヴァン君。エリスには戦う力は無いのよ……。あの日も私達が先導してエリスを連れて行ったってだけ。この娘は戦ってないわ」
「そう言うことだったのか……」


 確かに思い返せば彼女は言っていたのだ。もう二度と足を引っ張りたくないと、守られるのではなく、守れるようになりたいと。それはこういう意味だったのだ。


「ごめんなさい、ヴァン君……私、何もできなくて……」
「いや、大丈夫だ。事情は分かった。エリスは後で別に俺と一緒に方針を考えよう」
「ありがとうヴァン君」


 俺は落ち込む彼女を元気づけるように言う。現状での実力はともかく、彼女の思いには共感できる面がある。それはないがしろにしていいものではなかった。

 でもそうすると、二人で三体のゴブリンを相手にすることになっちまうけど……大丈夫かな?


「エリスの事はわかった。でもそうすると二人だけになっちまうんだが……大丈夫か?」
「―――愚問ね」
「―――愚問だな」 


 俺の問いに対し、二人は自信たっぷりといった顔で、声を揃えて答えた。どうやらいらない心配だったようだ。


「そうか、じゃあ見せてもらおうかな」
「ええ、せいぜいそこでどっしりと構えてなさい。あなた程は無理でも、ある程度はやってみるわ」
「それじゃあ行って来るよ」


 二人はそう言うと、木陰から飛び出し、ゴブリンへと向かう。『キキッ!?』と動揺するゴブリンをよそに、二人はそれぞれの口から各々の魔術を開始した。


「―――炎よ! 我がエレメントを介し、我の剣に紅蓮の炎を纏わせよ―――ファイア・コーティング!」
「―――風よ! 我がエレメントを介し、敵を薙ぎ払う風弾を生み出せ―――エア・バレット!」


 直後、レオの剣は魔術により発生した業炎に包まれ、ノアの手元からは風弾がゴブリン達へと放たれる。ノアにより放たれた風弾は奇襲となってゴブリン達に襲いかかり、直撃。埒外の奇襲を受けたゴブリン達はまともにくらった一体は既に意識を無くし、残りの二体も大きくその体制を崩されていた。


「はぁぁぁあああッ―――!!」


 そこに、激しい気合の声と共に、炎剣を持ったレオが飛びかかる。レオは一体目を袈裟懸けに切り捨てた。


「よしっ! もう一体!」


 レオはそう声を上げるともう一体の方に向き直り、駆ける。彼はあっという間にもう一体との距離を詰めると、その勢いのまま炎剣でもう一体のゴブリンを串刺しにして見せた。


「グ、グギギ……」


 奇妙な声と共にこと切れるゴブリン。周囲には肉の焼けるにおいが漂い始めている。どうやら炎剣が貫いたゴブリンの肉を今なお焼き焦がしているらしい。

 時間にして数十秒。気がつけば三体はいたはずのゴブリンは三体とも地に倒れ伏していた。


「どうどうヴァン君!! 二人ともすごいでしょ!? もう同年代の中じゃぶっちぎり、将来、魔法学院に通って魔法の勉強したらきっと二人は凄いことになるわ!!」


 エリスがまるで自分の事のように自慢している。だが、確かに凄いな。まさかあの年でもうあれだけの戦いができるとは……これなら戦えないエリスを連れてこの森に入って来ちまうのもわかるかもしれない。


「ああ、確かに凄いな……正直俺もここまでできるとは思わなかった。だが……」


 俺はそこで言葉を切ると、懐に手を伸ばし、自分の記憶メモリー接続アクセスし、【記憶武装メモリーアサルト】から、武器を呼び出す。この世界にはない言葉だし、これが詠唱だとばれなければ問題ないだろう。


「―――combat-knife,Generate」
≪―――闘技用短剣、生成≫

 
 俺はそう考えながら、短い詠唱と共に生み出した無骨なナイフをいかにも懐から取り出したかのように持ち出し、先程ノアが最初に風弾で吹き飛ばしたゴブリンへと投擲する。俺が投げたナイフはつい先ほど意識を取り戻し、勝ったことで気を緩めていたレオに襲いかかろうとしていたゴブリンの額を的確に捉えた。


「……まだまだ詰めが甘いな。それに動きや詠唱、魔力の使い方にも無駄が多い」
「うわっ! ……あのゴブリンまだ生きてたんだ……ヴァン君は凄いね! 見てただけでそんなとこまで分かるなんて、私なんか二人はもう殆ど完璧なんだとばかり思ってたよ」
「はは、二人ともいくら優秀だからと言ってもまだ幼いんだ。まだまだこれからさ。でも、それは逆に言えば、これからの伸びしろがあるってことでもある。そして、それはお前も同じなんだぞ、エリス?」
「えっ?」


 ここでまさか自分の名前が出るとは思わなかったのか、驚いた表情でこちらを見るエリス。俺はそんな彼女に笑って答えてやった。


「君だってまだまだ幼いんだ。例え今、少しくらい要領が悪くたってどうとでもなるさ、そうだろ?」
「……そうだね、うん、そうだ。ヴァン君、ありがとう。私頑張るよ!」
「ああ、その意気だ。それじゃあそろそろいきなりナイフが飛んで来て驚いてるあいつらのとこへ行こうか?」
「うん!!」


 元気よく答えるエリス。俺達は二人そろって、バカ面をさらしている二人の元へと歩いて行った。さて、現状の実力は把握したし……これから忙しくなるな……。
 
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

性的に襲われそうだったので、男であることを隠していたのに、女性の本能か男であることがバレたんですが。

狼狼3
ファンタジー
男女比1:1000という男が極端に少ない魔物や魔法のある異世界に、彼は転生してしまう。 街中を歩くのは女性、女性、女性、女性。街中を歩く男は滅多に居ない。森へ冒険に行こうとしても、襲われるのは魔物ではなく女性。女性は男が居ないか、いつも目を光らせている。 彼はそんな世界な為、男であることを隠して女として生きる。(フラグ)

パーティを追い出されましたがむしろ好都合です!

八神 凪
ファンタジー
勇者パーティに属するルーナ(17)は悩んでいた。 補助魔法が使える前衛としてスカウトされたものの、勇者はドスケベ、取り巻く女の子達は勇者大好きという辟易するパーティだった。 しかも勇者はルーナにモーションをかけるため、パーティ内の女の子からは嫉妬の雨・・・。 そんな中「貴女は役に立たないから出て行け」と一方的に女の子達から追放を言い渡されたルーナはいい笑顔で答えるのだった。 「ホントに!? 今までお世話しました! それじゃあ!」  ルーナの旅は始まったばかり!  第11回ファンタジー大賞エントリーしてました!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

一人だけ竜が宿っていた説。~異世界召喚されてすぐに逃げました~

十本スイ
ファンタジー
ある日、異世界に召喚された主人公――大森星馬は、自身の中に何かが宿っていることに気づく。驚くことにその正体は神とも呼ばれた竜だった。そのせいか絶大な力を持つことになった星馬は、召喚した者たちに好き勝手に使われるのが嫌で、自由を求めて一人その場から逃げたのである。そうして異世界を満喫しようと、自分に憑依した竜と楽しく会話しつつ旅をする。しかし世の中は乱世を迎えており、星馬も徐々に巻き込まれていくが……。

処理中です...