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王都編
リン
しおりを挟む翌日、二人は集合場所に指定されたギルド前に向かった。
どうやらFランクからEランクへの昇格試験を受ける人は少なくはないようでその場にはかなりの人が集まっていた。
待っている人の中にはいかにも初心者っぽい人や、何人かで一緒に行動している人達もいればローブのフードを目深にかぶって顔を隠している怪しい人もいた。
「……いっぱいいる」
「そりゃまだ最初のランクの昇格試験だからな、受験者も多いんじゃないか?」
「……ライバルが多くて…大変」
「いやいや別に合格者数が決まってるわけじゃ無いだろうから別にライバルでもないと思うぞ?」
「……やっぱり…先に始末して―――」
「何物騒なこと言ってんのッ!?だめだからな、そんなことしちゃだめだからな!!」
「……仕方ない…我慢する」
そんな会話をしながらそこで待っているとギルドの中から監督官らしきおじさんが出てきた。いかにもベテランといった感じだ。
おじさんは受験者たちの前に立つと話し始めた。
「えぇ~諸君、これからEランク昇格試験を行う、よってこれから西の森の奥にある洞窟へと向かうのだが、その前に君達にはそこにいるメンバーで3人パーティーを作り、以後、試験中はそれで行動してもらいたい。
これはこの先のランクの依頼からは他の冒険者と協力することが必要になる場合があるからだ。それではこれから少し時間をやる。その間にギルドカードを見せ合ったりして三人パーティーを作りたまえ。では始め」
それを聞いた受験者たちは所々不満を出しながらも周りとギルドカードを見せ合い、パーティーを組み始めた。
「よし、ノエル、俺達も早速あと一人探そうぜ」
「……私達だけでも…十分…なのに」
「ルールなんだから仕方ないだろ?ほら行くぞ」
「………わかった」
ということで二人ももう一人の仲間を探し始めた。
~~~~5分経過~~~~
「なぜだ…どうしてこうなった…」
彰がそうぼやくのも無理はない、ほとんどの受験者が3人パーティーを組み終わる中、彰達はあと一人がいまだに見つかっていなかったのだから。
ではなぜこうなったのかというと、それは彰が安直に選んだギルドカードの職業が関係していた。組もうとしてギルドカードを見せた途端、
『えっ君エンチャンターなのに魔力100しかないの!?ごめん、他を当たってくれないか?』
と言われて断られてしまうのだ。また、
『もしかしてその子獣人?やめてくれよ、獣人となんて組みたくないよ、他を当たってくれ』
と、露骨にノエルを嫌がる人もいた。どうやらこの国では獣人は差別されているらしい。
だが、これには彰も薄々気づいてはいた。というのも、今までもノエルと一緒にいるとき、やたらと周りの人物が彰達をみられたり、こっちをちらちら見ながらひそひそと何かを話されたりしていたのだ。
もちろん全員がそうというわけではない、宿屋の女将さんやギルドの受付嬢、武具屋の店主など、例外はたくさんいたが、それでも、その数は少なくなかった。
この二つの理由で二人はまだ3人パーティーを組めないでいた。
「これは監督官に二人でできるよう頼むしかないかな…」
「……ごめん…私のせいで…」
「別にノエルは悪くないよ、俺が調子に乗ってこの職業を選んだのが悪いんだ。ノエルはなんも気にすることない」
「……うにゃぁ~~」
彰が慰めるように撫でてやるとノエルは嬉しそうな声を上げ、少し元気になった。
「さあ、そうと決まったら早く監督官に言いに行くぞ?」
「……うん」
そうして監督官の方に向かう彰達。しかし、そこには先客がいた。さっきのローブのフードで顔を隠している怪しい人だ。その人は監督官に何かを訴えていた。
「だから、ボクは一人でも大丈夫だって言ってるじゃんか!なんで駄目なのさ!」
「それはさっき、説明しただろう、これに納得できないなら即失格にするぞ?」
「なんでそうなるのさ!」
そんな訴えを彰達は少し後ろで聞いていた。彰が少しびっくりしたのは聞こえるその怪しい人の声が女性の物だったことだ。彰はあんな怪しい人がまさか女性だとは思っていなかったのだ。
だが、それはともかく、こうしていては埒が明かないので彰はその言い合いの中に介入することにした。
「何度言ったらわかってくれるのさ!ボクには仲間なんて―――」
「あの~すいません監督官さん、ちょっといいですか?」
彰がそう言って介入すると怪しい人は不満げな顔をしながらも一旦訴えを止めてくれた。
「ん?どうしたのかね?君も仲間はいらないっていう口かね?」
「いや、違います。ちょっと諸事情でパーティーのあと一人が見つからないんですよ、二人じゃダメですかね?」
「ん?諸事情?」
「はい、ちょっと俺の職業のせいで…」
「ふむ、ならちょうどいい、この者を3人目に入れなさいそれでいいだろう」
「え?この人を?」
「なッ!?ちょっと何言ってるのさ!!ボクは仲間なんて―――」
「それ以上言ったら失格にするぞ?」
「…………」
その言葉になおも食い下がろうとした怪しい人だったが流石に失格にはなりたくなかったらしく、結局彰のパーティーに入ることになった。
ひとまず集まってギルドカードを見せ合う3人。
彰達が怪しい人から見せてもらったギルドカードはこうなっていた。(日本語翻訳済み)
―――――――――――――――――――――――――――――――
【名前】 リン(18) 【ランク】《F》
【職業】 魔法使い
【魔力】 10000/10000 【依頼達成数】《10》
―――――――――――――――――――――――――――――――
それを見て彰とノエルは驚く、彼女―――リンは魔力10000の魔法使いだったのだ。
これはラッキーだったなと思う彰達。対してリンの方はというと、
「なんなのキミ達!?キミはエンチャンターなのに魔力100で全然使えないし、そっちの子は職業奴隷ってどうなってんのさ!?」
「……アキラは使えなくなんてない…撤回して」
「嫌だよ! だって魔力100だよ? これじゃあ筋力アップのエンチャント一瞬を発動できるかどうかってとこじゃないか! 役立たず以外の何者でもないよ!」
「まあまあ、ちょっと待てって…」
彰はすでに喧嘩し始めていた二人を止めるとノエルに小声で話しかける。
『俺は別に気にしてない、客観的に見たらそう見えるだろうしな、それよりもここで喧嘩される方が俺は嫌だぞ?』
「……わかった、アキラがそう言うなら…我慢する」
「ああ、もう何でもいいけどとにかくボクの邪魔だけはしないでよね?わかった?」
(これ、大丈夫なのか?…)
と、すでにこのパーティーに不安を感じ始める彰だった。
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