付与術師の異世界ライフ

畑の神様

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闘技大会編

エピローグ

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――――あの激闘の闘技大会から一週間が過ぎた。

 彰がチャンピオンになってからというもの、いろいろなことがあった。
 チャンピオンとなった彰が町の有名人となり、帰り道に大勢の人に囲まれてしまい、宿にたどり着くのも一苦労だったこと。
 チャンピオンとなった次の日、彰は無理が祟って体中の痛みに襲われ『うぉおォぉーー!?』というようなうめき声をあげながらベッドの上でもがき、ノエルもまた大会が終わってようやく気が緩んだのか遅れてやってきた≪超過駆動オーバーロード≫を無理に使用した影響でベッドから起き上がれなくなってしまい、『うにゃぁあぁぁッ!?』と普段のノエルからは想像しにくい声を上げることになった結果、一人残されたリンが一人で二人のお世話に四苦八苦したこと……。

 三人ともあまりにも有名になり過ぎてしまったがために、街を歩くにも彰が付与術を使用しなければ人だかりが出来るようになってしまったことなどと、それはもう大変な一週間だったのだ。

 だが、そうはいっても、彰の優勝や三人の活躍がが引き起こした出来事はなにも悪いことばかりではない。

 まず、武装や必要品をほぼ無料同然でそろえられるようになったことがその一つとして挙げられるだろう。
 店の人曰く、チャンピオンと、そのパーティーメンバーが自分の店の武器を使っているというだけで箔が付き、宣伝効果があるとかなんとか……。
 とにかく、これからも長旅を続けなければならない彰達としても、願ったりかなったりだったので是非とも甘えさせてもらった。

 次に、戦闘訓練の相手に事欠かなくなったことだ。
 彰達は基本的に三人のみの旅だったので、訓練相手も自分達三人だけであり、特定の相手としか訓練ができないのがネックだったのだが、それがこの街にチャンピオンやそのパーティーとしている場合は解消されていた。なにしろ腕試しだなんだと言って相手の方からかって出てきてくれるのである。
 とは言っても、彼らの実力は遠く三人に及ばず、いつもボコボコにされてしまうのだが……。
 しかし、ノエルに関してはレオンが毎日のように獣人の戦い方をノエルに教えてくれていたため、飛躍的にその実力が伸びてきている。
 最初の数日こそうまく使えず、あちこち限界が来ていたようだが、要はコツの問題だったらしい。今ではかなり≪超過駆動オーバーロード≫を自分のものにできていて、彰も訓練中にかなり冷や汗をかくシーンも増えてきていた。
 リンもそれに触発され、順調に体術面と魔法面の両方の力を伸ばしてきている。おかげで彰も今まで程二人との組み手には余裕がなくなって来ており、最近は結構本気で戦っていたりする。

 因みに、王者チャンピオンであるイーヴァルディはあれ以来ウォードラスから姿を消した。彼は誰にも知られないまま、ひっそりと町を去ったのだ。
 恐らくは旅に出たのだと思うが、今のところその消息は不明だった。

 まぁなにはともあれ、三人は何とか平和にウォードラスでの生活を送っていた。
 今日も三人で宿から出たところで、今日はどうするのかと話し合っていたのだが……。


「アキラぁ~~!! 今日はボクとお店回ろうよ!!」
「違う……アキラは今日は私と回る、リンは大人しく修業してるといい……」
「いや、なんで俺がもう店回ること前提なんだ? 買い物ならもう散々しただろうが、大体お前ら修業は……」
「「アキラは黙っててっ!!」」


 二人はそう叫んで彰を黙らせると、再びやれボクが行くだのと、私が行くだのと言い合いを始めた。
 どうやら彰はこの言い合いには干渉してはならないらしい。先日も似たようなやり取りがあり、『ならみんなで一緒に行けばいいんじゃないか?』と言った結果、とんでもない目にあわされたのだ。
 それ以来、彰はこの手の戦いには不干渉と心の中で決めていた。
 何せ初めてこうなった日も結局みんなで行くことになったのはいいものの、あれやこれやと連れまわされ、下手な訓練より疲れたのは記憶に新しい。
 二人は彰の事そっちのけ何やら言い合っていたかと思うと、訓練用の短剣を取り出し、何故か模擬戦を始めてしまった。

 
「……逃げるか」


 三十六計逃げるに如かず。ここは面倒事に巻き込まれる前に逃走するに限る。
 俺は二人の激しい模擬戦を見て集まってきた人たちに紛れてばれないように逃走を図った。
 因みに、“透明化”を発動するほどの気合の入れ具合である。
 今の二人は既に僅かな気配等でも人の位置を察知できるため、気休め程度なのだが、やらないよりはいい。
 彰は一歩一歩に細心の注意を払いながら、何とか二人の元から逃走することに成功した。


「ふぅ~何とか逃げ切れたか……と言っても、今日は……というか、これからどうしようかね?」


 彰はひとまず町を散策しながら、これからのことについて思考を巡らせる。
 そう、最近思ったのだが幾ら見て回りたいとはいえ、目的が無ければ正直あての無い旅過ぎて困るのだ。せめて何か指針とするものが欲しいなとは常々思っていた。

 
「う~~ん、一応元の世界に帰る方法とかでも探してみるかな? 父さんはともかく母さん達には何も言ってないわけだし。まあ見つけても当分帰る気はないんだが」

 
 それでもいったん帰れるのであれば、その旨を皆に伝えることができるわけだし、それもいいかもしれないと思った。
 彰の頭には見つけても行き来できるかどうかはわからないということは頭にないのだ。


「うん、それがいいかな? よし、決定! 当面の目標は帰る方法探しっと、後であいつらにも言っとくか」


 彰の散歩は続く、町の様子はいつも通りで何も変わらない。あちこちで闘ってる人や、それを見て賭けに興じている人がいる以外はなんの変哲もないいつもの風景だ。いや、その賭けなどの光景すらもいつも通りの風景か。

 やはりこの町には闘技大会の影響で根っからのバトルジャンキーが多く集まっているのだろう。これだけ聞くと物騒に聞こえるがここに来る者の多くは自分の高めた技術を確認したいという者達が多い、そう言う人達は決まって道徳的な人がほとんであり、その道から外れたただの荒くれものはそう言う人達によってすぐに淘汰される傾向にあるので基本的に治安はむしろいいくらいだ。

 先日のイーヴィディルは例外中の例外と言っていいだろう。あれは性格が酷いくせに変なプライドと負けず嫌いが絶妙に災いした希少な例である。

 彰は微笑ましい思い、もとい、時にうずうずしながら町を回っていた。


「あ、そうだ……あいつらの故郷も探してやらないとな……」


 リンは攫われたエルフだ。できれば故郷に連れて行き、自分達についてくるかはまたそこで決めて欲しいと彰は常々思っていた。この前リンが言っていたがエルフの集落である森は厳重な魔法が掛けられ、どこにあるかわからないようになっているらしい。彼女自身も基本的に森から出たことが無かったため、その森がどこにあるかは知らないそうだ。

 彼女を攫った者達も偶々そこに入り込んだだけのやつらだったと聞く。連れて行ってやりたいの山々なのだが、これは後回しになりそうだった。

 次にノエルだ。彼女の場合はさらに困難である。何しろ彼女は幼いころから奴隷としてひどい扱いを受けていたので、故郷の記憶が無いのだ。これも結局後回しになってしまうが、いずれは見つけてあげたいと彰は思う。


「どうするにせよ、そろそろ出発したいところだな。この町は居心地が良すぎて少し留まり過ぎちゃったし、まあみんなそれぞれ強くなれたからいいけどな」


 そう決まったのなら、出発は早いほうが良い。後で二人に会ったら早速このことを話してゆっくり出発の準備を整えよう。そう彰が思っていた、その時だった。

 彰は二人の男がこの町に似合わない不安そうな顔をしながら話していたところに通りかかった。二人はあまり周りに聞かれたくない話をしていたようだが、流石に"透明化"している彰には気づかなかったらしく話を続けていた。二人の会話はこうだ。


『おい、知ってか? 何でも王都の辺りに魔物の大群が向かってるって噂』
『ああ、それか、本当かどうかは知らんがあの魔族がそいつらを率いてるかもしれないって話だろう……』
『王都っていえばこの間もバンデットオーガが出たばかりだろうに、本当に大丈夫なのかね? その時は勇者のおかげで難を逃れたらしいが……』
『なんでも、周囲の村を見捨てて王都の門を閉ざし、増援を待ちながら助けに備えようとしてるって話だから近々ギルドあたりで召集か、依頼が出るんじゃねえか?』
『へえーおっかねえこって、どうかこっちに飛び火してこないことを祈らなきゃな……』


――――そんな会話が聞こえてきてしまったのだ。

 彰はそれを聞いた直後、ノエルとリンの元へと走り出した。助けに向かうことを伝えるために。

 そう、助けなければならない。確かに王都にはジャックも一応あの勇者もいるし心配いらないだろう。だが、彼らは聞き捨てならないことを一つ言っていたのだ。


『なんでも、王都の門を閉ざし、増援を待ちながら助けに備えようとしてるって話だから近々ギルドあたりで召集か、依頼が出るんじゃねえか?』


――――タール村に、彰のもう一つの家族に、危機が迫っていた。
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