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勇者編
エピローグ
しおりを挟む―――――そして、彰達が王都から出ることを決めた日の夜、彰は一人、騎士団の詰所に来ていた。
「さて、まだ残ってるかな……」
彰はそうつぶやきながら自身に透明化をかけ、詰所の中に入る。
どうやら一般の受付は終わっているようだが、戻ってくる人のためにドアを開放しているらしく、鍵はかかっていなかった。まったく不用心な話である。
詰所の中は一応所々にランプの明かりがあるものの、人はいなく、静まり返っていた。
「こりゃ、やっぱダメかな……最後に一つ聞いておきたいことがあったんだけどなぁ……」
そう言って引き返そうとした彰の耳に、かすかに物音が聞こえた。訓練場の方からだ。
「まだ訓練してる人がいるのかな? ……ちょっと見て見るか」
彰はそう決めると、訓練場の方へと向かった。訓練場では男が一人、素振りをしていた。
彼の素振りの音は一体どんな速度で剣が振られているのだろうか? 訓練場に壮大な音を響かせている。
彰の耳元届いた微かな音はこの音だったのだ。
彰はこっそりと中に入ると、近くの観覧席に座って、少しの間その姿を眺める。
男の素振りは鋭かった、まるでそこに本物の敵がいるかのようだ。
一振りするたびに剣が風を切り裂く音が響き渡る。
彰はそれを少しの間、座って、ただ黙って聞き続けた。
男のまっすぐな性格がにじみ出るような、そんな音。
それはとても心地のいい音であった
しかし、その音が突然止まる。
男が剣を振るうその手を止めたからだ。
「―――そこにいるんだろう、アキラ君」
「気付かれちゃってましたか―――ジャックさん」
そう言って付与術を解いて姿を現す彰。
「一体いつから?」
「最初、この訓練場に入って来た時からさ」
「それ、最初からじゃないですか……ちょっとへこむなぁ~」
「君の気配は独特で、かなり変わってるからね、いやでも気づくさ、まあ流石に透明だったのは予想外だったけどね」
「……驚かないんですね」
「何というかな……それをやったのがアキラ君だからかな? 不思議と納得できてしまってね、ハハ、変な話だよ、まったく」
「ええ、まったくそうですね、はははっ」
何がそんなにおかしいのか、二人して心から笑っていた。
「それで、今日はどうしたんだい、アキラ君、何もないってことは無いんだろう?」
「はは、本当にお見通しなんですね。そうです、実は俺、明日この王都を出るんですよ、それでその挨拶に」
「明日とは……また急な話だね?」
「ええ、ちょっと勇者様と一悶着起こしちゃったんで、それで……」
「はは、本当に君はいつもトラブルに巻き込まれてるね、それで、要件は出発の挨拶だけじゃないんだろう?」
「ええ、ジャックさんに聞きたいことがありまして」
「聞きたいこと?」
「はい」
「わかった、君には私に勝ったことを黙ってもらってる件もあるし、私に答えられることならなんでも答えよう」
「それじゃあジャックさん、無系統の魔法の使い方、教えてもらえませんか?」
「……驚いた、気づいていたのかい、でもアキラ君も魔法なら使ってるじゃないか?」
「あぁ~これは厳密には魔法とはちょっと違うんですよ、同じようなことはできますけどね」
「そうなのかい? とにかくわかった、教えよう……と、言いたいとこなのだがね……」
「だめなんですか?」
「だめというよりも無系統の魔法は人によってできることがそれぞれ違う、私に教えられることはほとんどないんだよ」
「そうなんですか……」
「そう、だから私から言えるのは一つだけ、自分の欲(ほっ)する魔法の形を強くイメージしろってことだけだ」
「イメージ……ですか」
「そう、無系統の魔法は全ての系統の中で、できることの自由度が最も高いんだ、だから、常識に縛られず、自分の最も求める魔法の形を強くイメージしてみるといい、そうすれば、君ならきっと使えるさ」
そう言って彰に笑いかけてくるジャック。
「ありがとうございます、参考になりました。それじゃあ最後に一つ」
「ん? まだあるのかい?」
「勇者に負けたって本当ですか?」
「ああ、それなら全くのでたらめさ、どうやら王様はどうしても早く勇者の知名度を上げたかったみたいだね、でも実際にやっても勝てるかどうかはちょっとわからないかな?」
「―――そうですか、それだけ聞ければ十分です。ではジャックさんまたどこかで」
「―――ああ、また会おう」
ジャックがそう言ったときにはすでに、そこに彰の姿はなかった。
―――――そしてこの次の日、彰達が王都を発った直後、彰達は王都で指名手配された。
――――勇者編【完】――――
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