付与術師の異世界ライフ

畑の神様

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勇者編

VS勇者、決着

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「貴様―――どういうつもりだッ!!」
「どういうって……なにがだよ?」


 二本の訓練用の短剣を両手でもてあそびながらそう答える彰。


「何がもくそもあるものかっ!! 
 いつまでも剣を抜かないと思えば、剣を抜くどころかそんな木製の短剣を取り出して、いったいどういうつもりだと聞いているんだッ!!」
「だからさっきも言ったろ? お前にはコイツで十分なんだよ。剣を抜くまでもない」


 そう言うと、二本の短剣をそれぞれ両手に一本ずつ逆手に持ち、構えをとる彰。


「来な―――少し訓練つけてやる」


 そしてそれは自尊心の塊と言える勇者を怒らすには十分すぎた。


「――――貴様ぁぁぁぁッ!!」


 そう叫びながら勇者は再び剣閃を飛ばしてくる。
 彰はもう一度付与術で五感を強化するとさっきまでとは違い、今度は止まらずに剣閃に向かって走っていく。


「―――その技はもう見切った」


 彰はそうつぶやくと左手の短剣を逆手から順手に持ち替えると自身の体を剣閃の少し左に寄せ、二刀を剣閃に合わせる。
 ぶつかり合う二刀と剣閃、本来なら一瞬で寸断されてしまうであろうそれは斬られることなく、一瞬とはいえしっかりと剣閃を受ける。
 だが、それはあくまで一瞬のみ、数瞬後にはあっさりと両断されてしまうだろう。
 しかし、彰はその一瞬の間に、短剣を繊細に動かし、攻撃を後ろに流す。
 そして、同時に、その際に生じた反動を利用し、体を軸にして回転し、前に向き直るとそのまま走り出す。


「なっ!? 私の剣閃を木刀で受け流しただとッ!?」
「同じ手が何度も通用するかバカ野郎、こいつが一瞬ならお前の剣と渡り合えることはすでに確認済みなんだよ」


(それに、予定通りいい感じにイラついてくれてるみたいだしな、全くありがたい限りだぜ)


 そう、彰も考えなしで木製の短剣を取り出したわけではない、一つは力の差を見せつけるため、二つ目が、相手を怒らせて動きを単調にさせるため、三つ目が受け流すのに一本しかない長剣よりも二本ある短剣の方が都合がよかったからである。
 そのために少し前、硬化をかけた短剣を投げ、勇者の斬撃に耐えられるかどうかを確認していたのだ。
 そうとは知らず、勇者はがむしゃらに剣閃を出し続けるが、それを彰は器用に両手の短剣を順手と逆手に持ち替えながら受け流し、あっという間に再び勇者の懐に入り込む。


「おいおい、勇者様、攻撃がワンパターンすぎるんじゃないか?」
「―――――ッ!!」


 それに対し、焦りながらも勇者は超速度で反応し、彰に向かって剣を振り下ろそうとするが、しかし―――遅い。
 彰はそれよりも早く、付与術を怪力化に切り替え、逆手に持っている右手の短剣をまるでアッパーを打つかのように振りぬく。
 硬化と、怪力化、二つの付与術に支えられた斬撃、否、打撃は鎧の防御力を容易く凌駕する。


「―――クッ!」


 あまりの威力に苦悶の表情を浮かべる勇者、しかし、彰はそこで止まらない、振りぬいた右手の短剣を即座に順手に持ち替えると今度はそれを袈裟懸けに振り下ろし、その次は左手で剣筋が交差するように同様の動きをを繰り返し、壮絶な連撃を加える。
 留まることなく、息もつかせぬ壮絶な連撃を繰り返す彰。
 為す術もなく、それらの一撃一撃が必殺の力を持つ打撃を受ける勇者、彼が勇者の鎧を着ていなければ今頃肉塊になっていたことだろう。
 そして彰はとどめとばかりに両手を後ろに回し、力を溜めると、両サイドから衝撃を逃がさずぬよう、両手の短剣を同時に振りぬいた。
 その、破壊の権化のごとき一撃を受けた勇者は当然その場に留まることなどできず、無抵抗に後方へと吹き飛ばされ、彼の後ろにあった木を三本程なぎ倒してやっと静止した。


「ば、バカな……勇者たるこの私が……何故、こんな……こんなただのモブキャラに……」
「へぇ、あれくらってまだ意識あんのか、まあ、流石は勇者ってとこか?」
「私はもう、あそこに……あの世界に居た頃とは違うはずだ……この世界に来て、私は圧倒的な力を手に入れた! 他者を凌駕する力を!!
 なのに、なのに何故だッ! 何故、その私が負けなければならないのだッ!!」
「はは、だからお前は弱いんだよ」
「なんだと?」
「お前は、その力を自分の物だと思ってるようだが、そうじゃない。
 確かに、今のお前は剣を人並み以上に使いこなせるだろうし、圧倒的な身体能力もある、特殊な技も打てるだろう、もしかしたら勇者の得た経験なんてものも持ってるのかも知れない……。

―――――だが、それだけだ。

 お前のその技術や経験、それはただの借り物だ。他人の物だ。どれ一つとしてお前自身の物じゃないッ!
 どんなに優れた技術でも、どんなに優れた身体能力でも、他人から与えられたものをそのまま使ってるようじゃ、いつまでたってもお前は何も変わらない。お前はいまだに弱いままなんだ。
 だから言ったろ? 『これは訓練だ』って」
「クソッ……わかったような口をききやがって、貴様、名は?」
「―――――鬼道きどう #彰__あきら__#だ」
「その名、覚えたぞ。私はあきらめない、絶対に……絶対にお前に復讐して、あの娘達を手に入れてやるから…な……?」


 それを最後に勇者は意識を失った。


「はは、やれるもんならやってみやがれ、変態野郎」


 彰は意識を失った勇者にそう吐き捨てるように告げる。


「にしても、とんだ勇者もいたもんだぜ、まったく……。
 でも理由はともかく、勇者様ボコっちゃったわけだし、こりゃ早めに王都出た方がいいかなぁ……。  はぁ~憂鬱だわ、せっかくここでの生活に慣れてきたってゆうのにさ」


 彰はそんなことを呟きながら、奥に隠れているリン達の元へと向かおうとする。


「……アキラッ!!」
「おっと! あぶないだろ? ノエル」


 しかし、それは戦闘が終わったのを確認して一目散にやって来て、彰に飛びついたノエルによって遮られてしまった。


「ハハハ、ノエルがそんな大声出すなんて、珍しいな」
「……笑い事じゃない…今回は…ちょっと心配した……」
「ああ~そっか、心配させちゃったか、ゴメン」
「……アキラは…いつも…無茶し過ぎ……」


 そう言うとノエルの抱きつく力が少し強くなる。


「……無茶…し過ぎ……」


 彰は本気で心配してくれるその姿を不謹慎にも少し、いや、かなり可愛いな、と思ってしまい、少しドキリとする。

「わ、悪かった……これからは気を付けるよ。……で、リンはそこで両手広げて何してるんだ?」


 と、彰。当のリンは彰の少し手前で両手を広げて、まるで飛び込むかのような姿勢で固まっていた。


「ぇ……いや、あの……これはーほらっ ちょっとしゃがみっぱなしだったからちょっと屈伸運動をねっ!! あははっ!!」


 そう言って、何かを誤魔化すかのように屈伸運動を開始するリン。


(言えないっ!! アキラに飛びつこうとしたら後ろから来たノエルちゃんに先越されて、固まってただなんて絶対に言えないよっ!!)


 と、実は内心焦っているリン、だが、本人はそれを誤魔化せているつもりらしいが、表情やら、だめだめな言い訳やらで全く誤魔化せていない。


「あ~その、リン……どんまい、気持ちだけは伝わったぜ?」
「なんか慰められたっ!? やめてよっ! 逆に傷つくよっ!!」
「……リン…気持ち悪い……」
「こっちはダイレクトに傷つけて来たっ!? やめて、もうボクのライフはゼロだよっ!!」
「ノエル、やっぱりだんだんドSに……一体どこで間違えたんだろうか……」


 そして、それから心のライフポイントをゼロどころかマイナスにまで削られてしまったリンを何とか慰めると、彰はこれからの方針を二人に告げるため、真剣に話を始めた。


「ノエル、リン、ちょっと聞いてくれ」
「どうしたの、アキラ、突然かしこまっちゃって」
「……アキラ…変…具合…悪い……?」
「お前ら俺が真面目に話すのがそんなにおかしいかっ!?
 しかもノエルに至ってはガチで心配してるし……逆にこっちが罪悪感湧いてくるわ!!
―――――っじゃなくて、だな、これからの話だ」
「これから?」
「そうだ、俺は仮にも勇者をボコっちまったからたぶんこの王都には長居しない方がいいと思うから明日には王都を出ようと思う、それで、二人はこれからどうするのか、意見を―――――」
『―――アキラについて行く(よ)!!』


 恐る恐る聞く彰の声を遮るように、リンとノエルは即答した。


「……即答だな……ははは……それでいいのか?」
「いいのかも何も、ボク達も勇者に狙われてるんだからどのみちここにはいられないよ、それにどうせいつかは出ていくつもりだったしね、それがちょっと早まっただけだから気にしないで?」


(それに……二人とまだ離れたくないしね……)

 
 と、リンは思っているが口には出さない。


「ノエルは……それでいいのか?」  
「……良いも何もない……私はアキラについて行く……それだけ」
「はは、まったく、二人には敵わないな……」


 こうして、彰達が王都を出ることが決定したのだった。

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