35 / 91
勇者編
訓練、そして……
しおりを挟む
「はぁ、はぁ、何で…当たらない…のさ!」
「……リン…しっかりして…」
「ボクのせいなの!?」
「……何か…反論が…あるの……?」
「……ないです……」
ということで、いくらやっても彰に攻撃が当てられない二人は絶賛仲間割れ中だった。リンに至っては疲れて座り込んでしまっている。
「お前ら……何で仲間割れしてんだよ……」
「うぅ~もとはといえばアキラのせいだよ!? というか、獣人のノエルちゃんはともかく、なんでアキラはそんな元気なのさ!?」
「なんでって言われてもな……鍛えかたが違うんだよ、鍛え方が」
「もう結構な時間、ボクたちの攻撃を避け続けているのに息を一切切らさないだなんて鍛え方が違うってレベルじゃないよっ!」
「……リン…なさけない…まだ始まったばかり……」
「おかしいよ! キミ達絶対おかしいよ!」
実際、リンも魔法使いとはいえ、冒険者、体力はある方である。そのリンですらかなり息切れしている状態なのだ。
よって数時間近く避け続けたり、攻撃し続けたりしているのに息がまったく切れない彰とノエルがおかしいという意見は何も間違っていないのだが……残念ながらそれを指摘してくれる常識人はここにはいなかった。
「ほらほら、リン、嘆いたって攻撃が当たるわけじゃ無いぞ?」
「……リン…サボらないで……」
「も~う! わかったよっ! こうなったら意地でも当てるからね!」
そう彰に告げるとリンは再び立ち上がって、彰に向かって行き、短剣をふるい始める。
がむしゃらに短剣を振るうリン、その一振り一振りを彰は最小限の動きでスラスラと避けていく。
リンの振るう短剣は彰に当たらず、どれも彼に当たるすれすれを通り過ぎていく。
「それっ それっ うう~避けないでよ!」
「避けなきゃ訓練にならないだろーが!」
と、そこで彰がリンの攻撃を避けながらそんな会話をしている間にノエルは息を殺して彼の背後に回り、素早い動きで斬りかかる。
彰の死角から一気に迫り、絶妙のタイミングで繰り出された一撃。
しかし、彰はそれを背中に目でもついているかのように軽々と躱した。
「おっと危ねっ! 今の攻撃はなかなかだったぞ、ノエル」
「……ありがとう…でも…次は当てる」
そう言って素早い動きで短剣をあらゆる方向から振るうノエル、しかし、こちらはリンとは違い、剣筋を描いている。やはり獣人だからだろうか? ノエルは何をやっても呑み込みがいい。
だが、それも彰には当たらない、彼はその鋭い剣線それを完全に見切り、リンの時より余裕はないものの、それでもあっさりと躱している。
「むぅ~ボクも負けないよ!」
「……アキラに…先に当てるのは…私」
そう言いながら彼女たちは二方向から短剣を振り続ける。
それを彰は時には身を捻り、時には体を反らし、時には飛び上がったりしながら躱していく。
しかし、幾ら彰といえ、果たしてそんなことが軽々とできる物なのだろうか? いや、確かに彰ならやってのけてしまいそうなものだが、今回は実は少しズルをしているのだ。
(いや~リンはともかくノエルの上達速度は予想外だな、こりゃあ”五感強化”使ってなかったら少し危なかったかも……念のため使っといてよかったわ)
そう、今彰は付与術により五感を強化している。
これは聴覚などの一点に絞っていないため、広範囲の探知はできないものの、彰は目をつぶっていても、自分の周囲の状況なら手に取るようにわかるのである。
先程のノエルの奇襲を避けられたのもこのためだ。
しかし、この状態でも、彰には特に目に見える変化はないので、リンとノエルは気づけない。
そんなことを知らない二人は彰に向かって短剣を振り続ける。
だが、それらは当たらないどころか、彰は宣言通り、しっかりと偶にデコピンを挟んだりしながら鼻歌交じりに余裕をもって避けていく。
そのまま二人のどちらも彰に一撃を当てられないまま、時間は過ぎて行った。
◆◆◆◆
「むぅ~結局一発も当てられなかったぁ~」
「……くやしい」
「ハハハ、まぁ、おぬし等がまだまだ未熟だということだよ! また次回頑張りたまえ!」
「そうだね……え…?―――これ、次回あるの?」
「……初耳」
「当然、というか、明日から依頼受けるの一旦休んでこっちな? 今のままだと連携が酷過ぎてどっかで痛い目見るのが目に見えてるしな……」
「うそっ!? これを毎日なんてやったらボク死んじゃうよ!!」
「……むぼう」
「大丈夫! なにせ、そう言ってても実際に死んだやつはいないからな……いや、マジで……」
彰達は少し暗くなってきたので森での訓練を切り上げると、そんな会話をしながら王都に向かっていた。因みに、彰の最後の発言は彼の父である厳の受け売りである。当然の如く、それを言われたのは修業中の彰に対してだったので、彼のこの発言には妙な実感が籠っていた。
彰が一体何をされたのかはあえて語るまい……。
二人もそんな彰の様子を察したのか、それ以上そこに言及はしなかった。
「それにしても、一体アキラって何者なの?」
「何者って言われてもな……俺は普通の一般人だし、あえて言うなら……秀才…?」
「そんな冗談で誤魔化せると思ったら大間違いなんだからね!」
「……アキラ、面白くない」
「俺、冗談言ったつもり一切ないんだが……。っていうかノエル、結構傷つくからジト目でこっち見ながらそう言うこと言うのはやめてくれ……」
「ほら、そう言うのはいいから早く本題に入ってよ!」
「リン、お前はもう少し俺のメンタル的な方面のダメージを気遣ってくれてもいいんじゃないかと思う……」
「ティターン相手に接近戦できる人がなにを言ってるのさ?」
「うっ……まぁ、それもそうか……別に隠す必要もないしな、リン俺はな―――ッ!」
彰が諦めて自身のことを話そうとした時だった。彰は近くに誰かの気配を感じ取った。
「―――――誰だ、出てこい」
「お~お~、怖い怖い、そんなに睨まないでくれよ」
そう言いながら物陰から姿を現したのは、荘厳な装備を見に纏う、異世界より召喚された勇者―――藤堂 結城だった。
「……リン…しっかりして…」
「ボクのせいなの!?」
「……何か…反論が…あるの……?」
「……ないです……」
ということで、いくらやっても彰に攻撃が当てられない二人は絶賛仲間割れ中だった。リンに至っては疲れて座り込んでしまっている。
「お前ら……何で仲間割れしてんだよ……」
「うぅ~もとはといえばアキラのせいだよ!? というか、獣人のノエルちゃんはともかく、なんでアキラはそんな元気なのさ!?」
「なんでって言われてもな……鍛えかたが違うんだよ、鍛え方が」
「もう結構な時間、ボクたちの攻撃を避け続けているのに息を一切切らさないだなんて鍛え方が違うってレベルじゃないよっ!」
「……リン…なさけない…まだ始まったばかり……」
「おかしいよ! キミ達絶対おかしいよ!」
実際、リンも魔法使いとはいえ、冒険者、体力はある方である。そのリンですらかなり息切れしている状態なのだ。
よって数時間近く避け続けたり、攻撃し続けたりしているのに息がまったく切れない彰とノエルがおかしいという意見は何も間違っていないのだが……残念ながらそれを指摘してくれる常識人はここにはいなかった。
「ほらほら、リン、嘆いたって攻撃が当たるわけじゃ無いぞ?」
「……リン…サボらないで……」
「も~う! わかったよっ! こうなったら意地でも当てるからね!」
そう彰に告げるとリンは再び立ち上がって、彰に向かって行き、短剣をふるい始める。
がむしゃらに短剣を振るうリン、その一振り一振りを彰は最小限の動きでスラスラと避けていく。
リンの振るう短剣は彰に当たらず、どれも彼に当たるすれすれを通り過ぎていく。
「それっ それっ うう~避けないでよ!」
「避けなきゃ訓練にならないだろーが!」
と、そこで彰がリンの攻撃を避けながらそんな会話をしている間にノエルは息を殺して彼の背後に回り、素早い動きで斬りかかる。
彰の死角から一気に迫り、絶妙のタイミングで繰り出された一撃。
しかし、彰はそれを背中に目でもついているかのように軽々と躱した。
「おっと危ねっ! 今の攻撃はなかなかだったぞ、ノエル」
「……ありがとう…でも…次は当てる」
そう言って素早い動きで短剣をあらゆる方向から振るうノエル、しかし、こちらはリンとは違い、剣筋を描いている。やはり獣人だからだろうか? ノエルは何をやっても呑み込みがいい。
だが、それも彰には当たらない、彼はその鋭い剣線それを完全に見切り、リンの時より余裕はないものの、それでもあっさりと躱している。
「むぅ~ボクも負けないよ!」
「……アキラに…先に当てるのは…私」
そう言いながら彼女たちは二方向から短剣を振り続ける。
それを彰は時には身を捻り、時には体を反らし、時には飛び上がったりしながら躱していく。
しかし、幾ら彰といえ、果たしてそんなことが軽々とできる物なのだろうか? いや、確かに彰ならやってのけてしまいそうなものだが、今回は実は少しズルをしているのだ。
(いや~リンはともかくノエルの上達速度は予想外だな、こりゃあ”五感強化”使ってなかったら少し危なかったかも……念のため使っといてよかったわ)
そう、今彰は付与術により五感を強化している。
これは聴覚などの一点に絞っていないため、広範囲の探知はできないものの、彰は目をつぶっていても、自分の周囲の状況なら手に取るようにわかるのである。
先程のノエルの奇襲を避けられたのもこのためだ。
しかし、この状態でも、彰には特に目に見える変化はないので、リンとノエルは気づけない。
そんなことを知らない二人は彰に向かって短剣を振り続ける。
だが、それらは当たらないどころか、彰は宣言通り、しっかりと偶にデコピンを挟んだりしながら鼻歌交じりに余裕をもって避けていく。
そのまま二人のどちらも彰に一撃を当てられないまま、時間は過ぎて行った。
◆◆◆◆
「むぅ~結局一発も当てられなかったぁ~」
「……くやしい」
「ハハハ、まぁ、おぬし等がまだまだ未熟だということだよ! また次回頑張りたまえ!」
「そうだね……え…?―――これ、次回あるの?」
「……初耳」
「当然、というか、明日から依頼受けるの一旦休んでこっちな? 今のままだと連携が酷過ぎてどっかで痛い目見るのが目に見えてるしな……」
「うそっ!? これを毎日なんてやったらボク死んじゃうよ!!」
「……むぼう」
「大丈夫! なにせ、そう言ってても実際に死んだやつはいないからな……いや、マジで……」
彰達は少し暗くなってきたので森での訓練を切り上げると、そんな会話をしながら王都に向かっていた。因みに、彰の最後の発言は彼の父である厳の受け売りである。当然の如く、それを言われたのは修業中の彰に対してだったので、彼のこの発言には妙な実感が籠っていた。
彰が一体何をされたのかはあえて語るまい……。
二人もそんな彰の様子を察したのか、それ以上そこに言及はしなかった。
「それにしても、一体アキラって何者なの?」
「何者って言われてもな……俺は普通の一般人だし、あえて言うなら……秀才…?」
「そんな冗談で誤魔化せると思ったら大間違いなんだからね!」
「……アキラ、面白くない」
「俺、冗談言ったつもり一切ないんだが……。っていうかノエル、結構傷つくからジト目でこっち見ながらそう言うこと言うのはやめてくれ……」
「ほら、そう言うのはいいから早く本題に入ってよ!」
「リン、お前はもう少し俺のメンタル的な方面のダメージを気遣ってくれてもいいんじゃないかと思う……」
「ティターン相手に接近戦できる人がなにを言ってるのさ?」
「うっ……まぁ、それもそうか……別に隠す必要もないしな、リン俺はな―――ッ!」
彰が諦めて自身のことを話そうとした時だった。彰は近くに誰かの気配を感じ取った。
「―――――誰だ、出てこい」
「お~お~、怖い怖い、そんなに睨まないでくれよ」
そう言いながら物陰から姿を現したのは、荘厳な装備を見に纏う、異世界より召喚された勇者―――藤堂 結城だった。
0
お気に入りに追加
605
あなたにおすすめの小説
異世界転移したロボ娘が、バッテリーが尽きるまでの一ヶ月で世界を救っちゃう物語
京衛武百十
ファンタジー
<メイトギア>と呼ばれる人型ホームヘルパーロボット<タリアP55SI>は、旧式化したことでオーナーが最新の後継機に買い換えたため、データのすべてを新しい機体に引継ぎ、役目を終え、再資源化を迎えるだけになっていた。
なのに、彼女が次に起動した時にいたのは、まったく記憶にない中世ヨーロッパを思わせる世界だった。
要人警護にも使われるタリアP55SIは、その世界において、ありとあらゆるものを凌駕するスーパーパワーの持ち主。<魔法>と呼ばれる超常の力さえ、それが発動する前に動けて、生物には非常に強力な影響を与えるスタンすらロボットであるがゆえに効果がなく、彼女の前にはただ面倒臭いだけの大道芸に過ぎなかった。
<ロボット>というものを知らないその世界の人々は彼女を<救世主>を崇め、自分達を脅かす<魔物の王>の討伐を願うのであった。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
かの世界この世界
武者走走九郎or大橋むつお
ファンタジー
人生のミス、ちょっとしたミスや、とんでもないミス、でも、人類全体、あるいは、地球的規模で見ると、どうでもいい些細な事。それを修正しようとすると異世界にぶっ飛んで、宇宙的規模で世界をひっくり返すことになるかもしれない。
チート狩り
京谷 榊
ファンタジー
世界、宇宙そのほとんどが解明されていないこの世の中で。魔術、魔法、特殊能力、人外種族、異世界その全てが詰まった広大な宇宙に、ある信念を持った謎だらけの主人公が仲間を連れて行き着く先とは…。
それは、この宇宙にある全ての謎が解き明かされるアドベンチャー物語。
特典付きの錬金術師は異世界で無双したい。
TEFt
ファンタジー
しがないボッチの高校生の元に届いた謎のメール。それは訳のわからないアンケートであった。内容は記載されている職業を選ぶこと。思いつきでついついクリックしてしまった彼に訪れたのは死。そこから、彼のSecond life が今始まる___。
婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです
青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています
チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。
しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。
婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。
さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。
失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。
目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。
二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。
一方、義妹は仕事でミスばかり。
闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。
挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。
※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます!
※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
絶対婚約いたしません。させられました。案の定、婚約破棄されました
toyjoy11
ファンタジー
婚約破棄ものではあるのだけど、どちらかと言うと反乱もの。
残酷シーンが多く含まれます。
誰も高位貴族が婚約者になりたがらない第一王子と婚約者になったミルフィーユ・レモナンド侯爵令嬢。
両親に
「絶対アレと婚約しません。もしも、させるんでしたら、私は、クーデターを起こしてやります。」
と宣言した彼女は有言実行をするのだった。
一応、転生者ではあるものの元10歳児。チートはありません。
4/5 21時完結予定。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる