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第96話 ネガティブ勇者、会いに来た
しおりを挟む暗い。
ドンドンと深い闇の中に体が沈んでいく。
魔法も使えない。光も灯せない。なんの気配も感じない。
本当にナイがここに居るのか不安になるほど、何もない。
「……どこだ。どこに居るんだ……」
周りを見回しても、暗闇が続くだけ。
こんな所に長くいたら精神が壊れてしまいそうだ。アインは気持ちを入れ直してナイを捜した。
必ず居る。ここに居ると信じて。
「……それにしても、嫌な場所だな」
ここは静かで、寂しい。
そこにいるだけで悲しくなってくる。魔王にさせられた少年達の思いがこの闇に詰まっているからだろうか。
こんな悲しみを一人で背負おうというのか。
ずっと一人で、こんなところで生き続けるというのか。
そんなのは嫌だ。
アインは初めて会った時のナイを思い返した。
ずっと何かに脅えて、心を閉ざして、何もかもを拒絶していた。
他人より、きっと親よりも、自分が大嫌いだったのだろう。
大切にされることを知らないから、誰からの厚意も受け止められなくて、優しさが怖かった。信じることが出来なかった。
それでも彼は、勇気を出して手を伸ばしてくれた。
怖いであろう他人の声に耳を傾けてくれた。
恐怖に向き合うようになった。
そんな彼の思いをここで終わらせるなんて、出来るはずがない。
彼はこの世界の未来を、大切なものを守ろうとしてくれた彼の未来がここで潰えていい訳がない。
「この世界には、お前の未来だってあるんだぞ……」
アインは闇に手を伸ばした。
闇雲に歩いていても見つからない。
そう。見つかるはずがなかった。
この場所が。この闇そのものが、魔王なんだから。
「ねぇ、お兄ちゃん」
「っ!?」
後ろから急に声をかけられ、アインは驚いて振り返った。
そこに居たのは見たことのない、幼い少年だった。
「き、君は?」
「ねぇ、お兄ちゃんは何でここにいるの?」
こっちの声を無視して、少年は質問してきた。
こんな小さなことで苛立っても仕方ない。それに、この場所に居るということは、普通の少年であるはずもない。
「お、俺は……人を捜してるんだ」
「あの子、もう戻るつもりないよ。それでも、無理やり連れていくの?」
「……ああ、そうだ。これは俺のワガママだ」
「あの子がそれを望まなくても?」
「俺は、アイツに言ったんだ。背中を預けろって、離れないからと……その約束を守るために、ここに来た」
「戦いは終わったよ?」
「そうだな。確かに魔王がいなくなれば、魔物も大人しくなる。俺たちが戦う理由もなくなる……それでも俺は、アイツが安心して前を見続けられるように、背中を守ってやりたいんだ」
後ろを振り向いて悲しい過去に涙することがあっても、すぐに拭ってあげられるように。
一人で立ち止まらないように。
アインの言葉に、少年は悲しそうな笑みを浮かべた。
「いいなぁ。僕も、そんな風に言ってほしかったな……僕も、あの子と一緒にいたかったなぁ……」
「……あの子?」
「助けてあげて。僕たちはみんな、ずっとそれを望んでいた。大好きなあの子が手を差し伸べてくれるのを待ってた……でも、何十年何百年待ってても誰も来てくれなかった。心がグチャグチャになって、この痛みから解放されたくて、世界も自分も壊しちゃいたかった……」
少年の瞳から涙が零れた。
想像も出来ないほどツラい思いをしてきたのだろう。彼の悲痛な笑みが、胸を締め付ける。
「でも、やっと来てくれた。あとは、あの子次第だけど……」
「……君は」
「どうか、僕たちを解放して。あの子の元に、いかせて……」
アインが手を伸ばすと、少年は消えてしまった。
彼もまた、この呪いの犠牲になった少年の一人だったのかもしれない。ずっとこの暗闇の中で、一人ぼっちで悲しみや痛みに耐えてきたのだろう。
「…………!」
アインが手を伸ばした先に、膝を抱えて丸くなっている少年の姿が見えた。
もういい。終わりにしよう。
一人でいる時間は、終わったんだ。
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