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第89話 ネガティブ勇者、闇に捕まる
しおりを挟むそうして生まれたのが、最初の魔王。彼は牢獄を魔王城へと変え、世界を滅ぼそうと動き出した。
全てを病みに飲み込もうとする闇の権化に、当時のダナンエディア国王は兵を総動員させて魔王と対峙した。
しかし、異界から来た少年にこちらの武器も魔法も通用しなかった。
異界の者には異界の者しか対抗できない。そう考えた国王は、王子に再び召喚魔法を使わせた。
そうして呼び出されたのが、またも同じように闇の力を秘めた少年だった。
国王は恐れた。上手いこと言いくるめ、魔王と戦わせ、相打ちにしようと考えたのだった。
そのために少年を勇者として持ち上げ、都合良く操れるように王子を利用して彼を洗脳しようと試みた。
最初に呼び出した少年のように彼も心に傷を負っていた。その傷を埋めるように甘い言葉をかけ、王子に好意を持たすようにした。
この時、王子は自らを剣に変える魔法を会得していた。それが今の宝剣。闇を裂く光の剣だ。
勇者の武器になる。共に戦う。そう告げれば、少年は容易く王子のことを信頼した。
国王の狙い通りに勇者は魔王を倒し、そして王子の甘事を聞き入れ、そのまま魔王城に閉じ込められた。
勇者は力づくで脱走することも出来ただろう。だがしなかった。裏切られ、心を折られ、絶望をしたから。あまりのショックに体が動かなかったのだ。
そんな彼の心に、魔王の呪いが発動した。
この世界は救うに値しない。滅ぼすべきだ。
魔王のその呪いは勇者の心を蝕み、体を乗っ取った。そうして、新たな魔王がまた生まれたのだ。
だが新たな魔王はすぐに行動できなかった。
新しい体に馴染むのに時間がかかったからだ。召喚された異界の少年は二人とも元の世界にトラウマがあり、精神が弱かった。
互いの闇が混ざり合い、深く深く闇に落ちていく。ドンドン色濃くなる闇の力に、その身が適応するまで何十年何百年と費やした。
そうして目覚めた魔王を倒すために、また新たな勇者が召喚される。
時空《とき》の大精霊は最初に呼んだ少年をベースとし、似たような境遇の子を勇者として選んだ。
闇に対抗できる闇。光は闇を濃くするだけ。召喚魔法の術式を組み上げた王子が、そう設定してしまったのだった。
そうして魔王より強い闇の力を秘めた子。前の勇者よりも心の傷が深い者が次々に召喚される。
そして魔王を倒し、呪いが発動し、勇者は魔王へとなる。
そんなことを、この国は繰り返してきた。
「馬鹿らしいと思わない? 初代魔王の意識はもう薄れているのに、呪いだけがこうして残っているんだ」
少年な声が響く。
もうナイは何も言葉を紡ぐ気にもならなかった。
自分がこの世界に呼ばれた理由。事の発端は、そもそもこの世界が原因だった。
レインズは先祖の罪を知り、ショックを受けた。闇を生み出したのは、遠い昔のダナンエディア国王。
そしてそれをずっと隠蔽し続けた。
「……まさか、そんな……」
膝から崩れ落ちるレインズに、アインが駆け寄る。
知らなかったとはいえ、ナイを巻き込んでしまった。そしてこのままいけば、彼は次の魔王になってしまう。
「っ、そんなこと、させる訳にはいかない!」
レインズがナイを救うために魔法を放つが、単身の力では太刀打ちできない。
宝剣でなければ、あの闇を払うことは出来ない。
「アハハ! 君はいいね、助けてくれる人に出逢えたんだ! 良いね、良いよ! それでこそ、壊しがいがある!」
少年の高笑いが響く。
姿かたちのない魔王が、勇者を取り込もうと闇をさらに広げる。
「魔王がこの世界を滅ぼすためには力が必要だった。何度も何度も勇者を取り込み、闇の力を深めていく必要があったんだ。だから魔王は何もしない。殺されるのを待ち続けた! そして、君が最後だ。君の強い魔力があれば間違いなくこの世界を壊せる!」
その声に反応し、黒い影は城全体を包み込んだ。
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