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第85話 ネガティブ勇者、魔王城へ
しおりを挟む「すみません、お待たせしました!」
駆け足でこちらに向かってくるレインズ。遅くなってしまったことを詫び、いつも通りの笑顔を見せてくれた。
昨日のこともあって少しだけ気恥しさもあったが、ナイは彼の笑顔に安心していた。
いつも通り。それがいい。
いつもの探索のように普通に出発して、いつもの様にクタクタになりながら城に戻る。
そんな当たり前を、続けるのだ。
「じゃあ、行こうか」
「ええ」
転移魔法陣を使い、以前のようにロデルニア国を経由して北へと進む。
リーディ鉱山より先は国もなければ小さな村すらない。立ち止まって休む場所もないので、一気に目的地に行く必要がある。
ナイの空飛ぶ絨毯のおかげで豪雪地帯の手前まではすぐに着いた。
かなり速度を上げて飛ばしたせいで少し体に負担をかけてしまったが、これから先の戦闘を思えば微々たるものだ。
「……これ、は……怖いね」
初めて目にする豪雪地帯。本来なら雪で白く染まったはずのそこは黒い雪のようなものが空を舞っていた。
話に聞いた通りの恐ろしい場所。
踏み入れるのに、抵抗がある。一歩が重い。
「大丈夫ですか、ナイ?」
「う、うん。じゃあ、結界を張るね」
ナイは結界を張った。
今まで以上に強く、絶対に壊れないイメージを持って作り上げた。この黒い雪に耐えれるか分からないが、それでも前に進むしかない。
ナイ達は一歩踏み出した。
黒い吹雪の中を慎重に進んでいく。灯りを付けても前は全く照らされず、光は闇に飲まれてしまう。
ちゃんと前に進めているのか不安になるが、禍々しい力を感じる方向へと向かって歩いているので、迷うことはないはず。
「おい、大丈夫か」
「平気、だけど……なんか歩いてるのに進んでる感じがなくて、気持ち悪い……」
「確かに、これだけ視界が悪いと嫌になりますね」
「火山でやったみたいに斬撃で道を作るとか出来ないか」
「この雪みたいなのを払うってこと? 出来るのかな」
「悪くはないかもしれません。少しの間でも前に何があるのか見ることができれば……」
「それじゃあ、また俺が……」
「いえ。今回は私がやりましょう。闇を払うなら、やはり光で照らすべきです」
足を止め、レインズが魔法陣を展開した。
この身は宝剣。闇を裂く光の剣。
だったら、道を切り開くことだって出来るはず。
レインズは頭に強くイメージした。
空から差す光。暗雲を切り裂く天の剣、天使の梯子。どんな敵でも倒せると思ったあの頃の思いを今、形にする。
「はあぁああぁあ!」
魔法陣が強い光を放ち、それに応えるように天から光が差した。
いや、違う。あれは剣。天に大きな剣が現れ、目の前を一気に切り裂いた。
「す、すごい」
「レインズ様、大丈夫ですか!?」
「問題ないよ。それより、あれを」
レインズが指をさした方向。
切り裂かれた道の先、そこには黒く禍々しい雰囲気に包まれた城があった。
「あれが魔王城なのか……」
「ついに、辿り着いたのですね。巨悪の根源に……」
「あそこに、魔王が……」
ナイ達は真っ直ぐ、前に向かって歩き出した。
この戦いに勝てば、世界に平和が訪れる。
《魔王》を、倒すことが出来れば。
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