【BL】超絶ネガティブな僕が異世界で勇者召喚されました。

のがみさんちのはろさん

文字の大きさ
上 下
82 / 100

第82話 ネガティブ勇者、愛されることを知る

しおりを挟む
 国王陛下の生誕の式典の晩餐会も無事に終わって、わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんは部屋に下がっていた。クリスタちゃんは王族の席でほとんど料理は食べられなかったようでお腹を空かせていた。

「クリスタ様、ハインリヒ殿下より言付かっております」
「ありがとうございます」

 王宮の召使が持って来てくれたのはクリスタちゃんのための軽食だった。サンドイッチとキッシュという簡素なものだが、夜遅くに食べるのでこれくらいがちょうどいいのだろう。
 紅茶も添えられていて、クリスタちゃんは椅子に座ってサンドイッチとキッシュを食べていた。

「わたくしも来年社交界デビューを果たしますが、昼食会や晩餐会に出るのを楽しみにしていましたが、楽しいことばかりではないようですね」
「レーニちゃんは楽しんだらいいと思います。わたくしはハインリヒ殿下の婚約者なので王族の席に座って皆様をもてなさなければいけませんから」
「クリスタちゃんだけ大変で申し訳ないですわ」
「ハインリヒ殿下は式典とは別の日に式典の料理を用意させて食べさせてくれることがあるのです。わたくしにはわたくしの楽しみがあるので、レーニちゃんは気にしなくていいのですよ」

 自分だけ食べるのは申し訳ないと思っているレーニちゃんに、クリスタちゃんは明るく答えていた。
 順番に部屋についているお風呂に入って、わたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんは休んだ。
 朝になってふーちゃんとまーちゃんとデニスくんとゲオルグくんが部屋のドアをノックするまで、わたくしたちはぐっすりと眠っていた。

「エリザベートお姉様、クリスタお姉様、レーニちゃん、お散歩に行きましょう!」
「お姉様たちの準備が終わるまでいい子で待っていますわ」
「おねえさま、あさのおさんぽです」
「きょうもゆきがっせんがしたいの」

 元気な声に起こされて準備をして庭に出て行くと、エクムント様の姿があった。

「エクムント様!?」
「王宮では毎朝この時間に散歩に出ているのですね。ご一緒したくて私も散歩に出てみました」
「朝からお会いできて嬉しいですわ」

 エクムント様はわたくしたちを待っていてくれたようだ。
 細身の長身の体にブルーグレイのロングコートがとてもよく似合う。マフラーと手袋は白で格好よく決まっている。

「エクムントさま、わたしたち、フランツどのとマリアじょうとゆきがっせんをします!」
「みていてください!」
「今日は負けません!」
「お兄様、頑張りましょう!」

 雪合戦を始めるデニスくんとゲオルグくんとふーちゃんとまーちゃんを見ながら、わたくしはエクムント様に問いかける。

「王宮の庭を散歩されるのは初めてですか?」
「早朝に起きて散歩するのは初めてですね。王宮の庭は雪が積もっていない時期は美しいのでしょうね」
「季節の花々が咲いてとても美しいのですよ」
「次回から私も散歩をご一緒してもいいですか?」
「喜んで」

 次に王宮に招かれるのはハインリヒ殿下とノルベルト殿下のお誕生日の式典だろうが、そのときにはエクムント様と朝の散歩をご一緒できる。わたくしは今からそれが楽しみだった。

「エリザベート嬢の見る景色を私も一緒に見てみたいのです」
「嬉しいことを言ってくださいますね」
「エリザベート嬢は私の婚約者ですからね」

 わたくしの見る景色を見たいというのは、わたくしに興味があるということに他ならなかった。
 胸がときめいていると、雪合戦が中断されている。

「おねえさま、おてあらいにいきたくなっちゃった」
「どうしましょう。部屋まで我慢できますか、ゲオルグ?」
「がまんできない! もれちゃうー!」

 半泣きになっているゲオルグくんに、動いたのはエクムント様だった。

「ここからだと私の部屋が一番近いですね。私の部屋においでください」
「おねえさまといっしょじゃないといやー!」
「皆様でおいでください」

 さすがに未婚の妙齢のレーニちゃんを部屋に招くのはよくないと思ったのか、エクムント様はわたくしとクリスタちゃんとレーニちゃんとふーちゃんとまーちゃんとデニスくんとゲオルグくんの全員を部屋に招いてくれた。
 大急ぎでエクムント様の部屋に行くと、ゲオルグくんはお手洗いを貸してもらっていた。
 ゲオルグくんが手を洗って出て来ると、恥ずかしそうにデニスくんも申し出る。

「じつは、わたしもおてあらいにいきたくなって」
「私もです」
「わたくしも」

 寒い中外に出たのでゲオルグくんだけでなくデニスくんもふーちゃんもまーちゃんもお手洗いに行きたくなっていたようだ。

「どうぞ、お使いください」
「ありがとうございます、エクムントさま」
「使わせていただきます。マリア、先に使っていいからね」
「お兄様、ありがとうございます」

 エクムント様の部屋のお手洗いに並んで、デニスくんとまーちゃんとふーちゃんが順番にお手洗いを使っていた。
 手を洗って一息つくと、デニスくんとゲオルグくんはエクムント様の部屋の中が気になっているようだ。

「おおきなまどがあります」
「このまどからテラスにでられるのですね」
「テラスに出てみますか?」
「いいのですか?」
「テラスにゆきがつもっています」

 興味津々のデニスくんとゲオルグくんにもエクムント様は優しかった。
 エクムント様の部屋に入ってみたいが、それを口に出すのははしたないと思っていたわたくしは、思わぬところでエクムント様のお部屋を訪問できて嬉しく思っていた。
 テラスからは庭が見下ろせる。
 デニスくんとゲオルグくんとふーちゃんとまーちゃんが雪合戦をしていた場所も見えていた。

「おねえさま、おにわがみえるこのおへやにとまれませんか?」
「ここは辺境伯家の方が泊まる部屋なので、無理ですね」
「そうですか。とまりたかったな」

 デニスくんとゲオルグくんは庭に面したこの部屋が気に入ったようだった。
 客間にもランクがあって、辺境伯家はここ、公爵家はここというのが決まっている。
 辺境伯家の割り当てられた部屋にリリエンタール家が泊まるのは難しかった。

 庭に戻ると再び雪合戦の続きが行われた。
 今回はふーちゃんとまーちゃんも作戦を立てて、ふーちゃんが雪玉を丸めて、まーちゃんが元気いっぱい投げていた。
 デニスくんとゲオルグくんは昨日と同じ、ゲオルグくんが雪玉を丸めて、デニスくんが投げている。

「これは勝負がつきませんわね」
「同点ということにしましょう」

 いつまで経っても終わらない雪合戦に、レーニちゃんとクリスタちゃんは同点だということにしてデニスくんとゲオルグくん、ふーちゃんとまーちゃんに雪合戦を終わらせていた。

「朝食の時間になるので失礼します。楽しい朝のお散歩でした」
「またお会いしましょう、エリザベート嬢」

 エクムント様にお辞儀をして部屋に戻ると、エクムント様は手を振って見送って下さっていた。
 レーニちゃんとデニスくんとゲオルグくんはリリエンタール家の部屋で、わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんはディッペル家の部屋で朝食を取る。
 朝食が終われば、荷物を纏めて王宮から帰る時間になる。

 身分からいってディッペル家が一番最初に馬車を用意される。
 わたくしとクリスタちゃんとふーちゃんとまーちゃんと両親が馬車に乗り込んでいると、国王陛下と王妃殿下が両親に話しかけている。

「今年も無事に生誕の式典が終わってよかった。ディッペル家のエリザベートも正式に社交界デビューを果たせてよかったな」
「ありがとうございます、国王陛下」
「ハインリヒとノルベルトの誕生日のときには、またマリア嬢のお誕生日のお茶会を開きましょうね」
「そのときにはよろしくお願いいたします、王妃殿下」

 両親が頭を下げて挨拶をしていると、ハインリヒ殿下がクリスタちゃんに声をかける。

「冬休み明けに、また学園でお会いしましょう」
「はい、ハインリヒ殿下」

 手を振るハインリヒ殿下に、クリスタちゃんは馬車の中からずっと手を振っていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。

蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。 此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。 召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。 だって俺、一応女だもの。 勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので… ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの? って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!! ついでに、恋愛フラグも要りません!!! 性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。 ────────── 突発的に書きたくなって書いた産物。 会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。 他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。 4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。 4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。 4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました! 4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。 21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

おだししょうゆ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...