上 下
78 / 100

第78話 ネガティブ勇者、宝剣を見つける

しおりを挟む

 皆が言葉を失った。
 精霊の言葉に当てはまる存在は確かに一人しかいない。だが、彼は人だ。剣じゃない。

「どう、いう、ことでしょうか」
「むしろ私の方が聞きたいわ。本来ダナンエディアの王子はそうなるために生まれ、そうなるように育てられる。それを知らないはずがないのに……この150年の間に何が起こったというのー?」

 精霊が少し怒ったような顔をしていった。
 だがそれを言われても、答えを出せる人などここにはいない。テオですら知らぬ歴史があるというのか。

「…………じゃあ、今までの勇者が宝剣の居場所を知っていたのは、最初から目の前にいたから」
「ですが、国王はレインズ様にそのようなこと一度も仰ったことはありません。そんな重要なことを黙っているはずは……」
「だからおかしいのよ。私たち精霊は勇者が召喚されるまで眠りにつく。だからその間に何が起きたのかは知らないわよー」

 つまり本来勇者やその代の王子に伝えられなきゃいけない伝承が受け継がれていないということ。
 水の精霊も不思議なことを言っていたのを思い出す。ダナンエディアの王子が温厚な性格であることに驚き、優しい子に育ててどうするつもりなのかと。
 今までの王子は勇者の剣になるために育てられた。きっと余計な感情を持たぬようにしていたのかもしれない。だからレインズを見て不思議がっていた。

「でも、君はまだ剣として目覚めていない。その鍵となる勇者の意志が貴方の中にない」
「鍵? 僕が?」
「……ちょっと喋りすぎたかしら。まぁいいわ。どうにも歴史がおかしいことになっているようだし、これくらいは許される範疇ということにしましょう」

 精霊は肩をすくめ、一呼吸おいてから話を続けた。

「光の力を持つ子の本来の力を引き出すためには、勇者の意志が鍵になる。それは守るための剣。その心が宝剣を目覚めさせる。君自身が宝剣を起こす鍵なの」
「僕の、心……」
「王子様は既にその片鱗を見せている。あとは貴方の心次第よ」

 確かに、レインズ自身がすでに光の剣を扱っている。何も知らないながらも、その答えを無意識に導いていた。
 あとは勇者であるナイの心が彼を武器として認め、本来の力を引き出せるかどうか。

「ま、私に言えるのはここまでよー。これでも出血大サービスしてるんだからね? あとは勇者である貴方が何を思うか。どう答えを出すかよ。あとは、これを渡しておこうかしら」

 精霊は指をくるんと回した。
 するとレインズの前に赤く光る宝石が現れた。

「私の力が込められた宝玉よ。貴方が力に目覚めた時、私の加護が働くわ。勇者の武器たる貴方が持つのに相応しいでしょう」
「…………わかりました。責任もって私がお預かりします」

 レインズはその宝玉を掴み、精霊の目を真っ直ぐ見つめてそう言った。
 彼はこの事実を受け止めた様子だった。というよりも、ナイの力になれるのであればどんな形でもいいと思っている。
 今までレインズは王に無理を言って旅に同行していた。次期国王である王子に何かあったらどうするのだと、何度も言われてきた。だかレインズは世界を、国を守るのはこの世界の人間である自分たちの役目だと言って無理を通してきた。
 しかし、これでナイと共に戦う理由が出来た。魔王との戦いに自分も付いていける。宝剣として行かねばならない。

「この身が、世界を救う力になるのなら……」


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

願いの守護獣 チートなもふもふに転生したからには全力でペットになりたい

戌葉
ファンタジー
気付くと、もふもふに生まれ変わって、誰もいない森の雪の上に寝ていた。 人恋しさに森を出て、途中で魔物に間違われたりもしたけど、馬に助けられ騎士に保護してもらえた。正体はオレ自身でも分からないし、チートな魔法もまだ上手く使いこなせないけど、全力で可愛く頑張るのでペットとして飼ってください! チートな魔法のせいで狙われたり、自分でも分かっていなかった正体のおかげでとんでもないことに巻き込まれちゃったりするけど、オレが目指すのはぐーたらペット生活だ!! ※「1-7」で正体が判明します。「精霊の愛し子編」や番外編、「美食の守護獣」ではすでに正体が分かっていますので、お気を付けください。 番外編「美食の守護獣 ~チートなもふもふに転生したからには全力で食い倒れたい」 「冒険者編」と「精霊の愛し子編」の間の食い倒れツアーのお話です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/2227451/394680824

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。

蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。 此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。 召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。 だって俺、一応女だもの。 勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので… ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの? って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!! ついでに、恋愛フラグも要りません!!! 性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。 ────────── 突発的に書きたくなって書いた産物。 会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。 他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。 4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。 4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。 4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました! 4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。 21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

異世界ぼっち暮らし(神様と一緒!!)

藤雪たすく
BL
愛してくれない家族から旅立ち、希望に満ちた一人暮らしが始まるはずが……異世界で一人暮らしが始まった!? 手違いで人の命を巻き込む神様なんて信じません!!俺が信じる神様はこの世にただ一人……俺の推しは神様です!!

男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~

さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。 そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。 姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。 だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。 その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。 女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。 もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。 周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか? 侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

処理中です...