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第73話 ネガティブ勇者、相談する

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 どうにか結界の範囲を広げることが出来たナイ。今回はイメージの構築に大分時間をかけた。
 ナイにとって自分を守るもののイメージが押し入れだったせいでどうにも狭い空間から抜け出せなかったが、ナイがこの世界で最初に割り当てられた部屋のクローゼットを思い出したことで解決できた。
 クローゼットも押し入れも似たもの同士。この世界で初めて落ち着けた場所がクローゼットだった。だからクローゼットを思い浮かべてからはイメージするのも難しくなかった。

「うん。強度は申し分ないし、これなら大丈夫かな。あとはどれだけ熱に耐えられるかだけど……まぁ、ナイの魔力なら大丈夫かな」
「だと、いいけど……」
「うん。ただ、前みたいに精霊の言葉に心を揺さぶられてりしたら結界が消えるかもしれない。そこだけは気をつけてね」
「……うん」

 また精霊が何か言ってきたり、昨日のように心を乱されるようなことがあったら共に行動するレインズやアインまで巻き込んでしまう。
 下手したら大怪我を負う可能性だってある。
 気を付けなきゃいけない。ナイは不安から少し心が揺れたが、ギュッと拳を握りしめて気を強く持った。

「ねぇ、ナイ。レインズから話は聞いたんだけど、何か悪い夢を見たって……」
「え、あ……うん、どう言葉にしていいか分からないんだけど」
「もし良かったら私にも教えてくれない? 思い出すのがツラかったら、無理しなくてもいいんだけど……」
「ううん、大丈夫。僕にもよく分かってなくて……」

 ナイはテオに夢の話をした。
 いまいち掴みどころのない話で、テオも少し困惑しているようだった。

「うーん……召喚のときに似た状況と、謎の声か……勇者召喚は光の力を持つ王子によって行われ、時空《とき》の大精霊が勇者を選抜する。確かに再送還なんて話は聞いたことないし、貴方の世界に召喚が可能な人間がいなければ儀式は成り立たないとは思うけど……もしかしたら時空《とき》の大精霊ならそういう理を覆して出来ちゃうのかもしれないわね……」
「そんな……」
「でも時空《とき》の大精霊は召喚魔法陣を起動させなきゃ現れないはずよ。キチンとした手筈を踏まないと召喚なんて高度な魔法は使えない。私たちが、そんなことさせないわ」
「テオ。ありがとう……」
「でも、その夢の原因が何なのか分からない以上、用心は必要よ。なるべくレインズから離れないようにしてね」
「レイ? なんで?」
「あの子のオーラは人の感情を穏やかにしてくれる。それは分かってるでしょう?」

 ナイは黙ったまま頷いた。
 レインズの魔力。光の属性は心を落ち着ける作用がある。レインズ本人の柔らかい雰囲気も相まって、そばにいるだけで気持ちが安定できる。

「一緒にいれば少しはマシになるだろうし、もし悪夢を見た時もすぐ起こしてもらえた方がいいでしょ? なんなら普段から誰かと同室になってもらうとか」
「ど、同室……それは、ちょっと……」
「あら、イヤ? 一番手っ取り早い方法だと思ったんだけど」
「うーん……まぁそうかもだけど……アインの部屋で一回だけ寝させてもらったこともあるけど……やっぱり部屋は一人の方がいいかなぁ」

 ナイは腕を組んで視線を泳がせている。
 確かにテオの言う通り、誰かが一緒にいた方が心配は減るかもしれない。これはただのワガママだ。
 分かってはいるけど、少し落ち着かない。

「まぁ慣れもあるわね。とりあえず、そういう方法もあるってことだけ考えておきなさい」
「わかった」

 ナイが頷くと、テオはいつもの笑顔を向けてくれた。
 今後のこと。自分のこと。考えなきゃいけないことは山積みだ。

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