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第54話 ネガティブ勇者、砂漠へ行く

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 ドラゴンで移動すること数時間。予定よりも早く目的の砂漠地帯、フローア地方へと入った。
 穏やかな気候のダナンエディア国と違い空気も乾燥していて、照り付ける太陽と高い気温がナイの体力を奪う。

「あ、あつい……」
「さすがにキツイな……お前、これ羽織れよ」

 アインがナイの頭に長袖の上着を放り投げた。
 特にナイの肌は白い。この日差しではすぐに真っ赤になってしまうだろう。現にもう慣れない気温にフラフラしている。

「この地帯は上手く魔法が発動できないから魔力で体温調節するのもキツいのよね……」
「そうですね……常に集中させなきゃいけないから、余計な魔力を消耗しますし」
「この辺の砂漠の砂には微量の魔力が含まれているせいでこっちの魔法を妨害するのよねぇ……原因を調べてはいるけど全然分からなくて……」
「そう、なんだ……なんか、気持ち悪いところだね」

 ナイの顔色がどんどん悪くなっている。
 誰よりも多い魔力量のせいで、この地帯の乱れた魔力の流れの影響を受けやすくなっている。
 簡単に言えば低気圧などで体調を崩すような感覚と似ている。

「もうすぐ集落に着くわ。そしたらナイを一旦休ませましょう」
「ご、ごめん……なさい……」
「大丈夫ですよ、ナイ様。私も初めてこの地帯に来たときはまともに動けませんでしたし」
「この地方だけ特殊なんだ。少し休めば慣れるだろ」

 それから数分後、目的の集落のそばに到着した。
 転送魔法で地上に降り、アインがナイを背負って移動をした。

 突然のドラゴンの来訪に驚いた集落の人々が集まってこちらの様子を窺っていたが、テオの姿を見つけた途端に皆が笑顔で迎え入れてくれた。

「テオ様! お久しゅうございます!」
「テオ様! 長がお待ちですよ。会いに行ってください!」

 テオはこの集落の皆に慕われているようで、一気に人に囲まれた。
 ここでは一国の王子様より賢者様の方が人気なのかと、ボーっとする頭でナイは思った。



―――

――


「テオ! よく来たな!」
「リオ兄! お久しぶり!!」

 長がいるという家に案内されて暖簾を潜ると、部屋の奥で隻腕の青年が豪快な笑い声と共に出迎えた。
 彼の姿を見るや否やテオは駆け足で飛び込んでいった。

「相変わらずチビだな、お前は」
「そういうリオ兄こそ、相変わらず元気そうで安心したよ」
「おうよ。砂漠の民がそう簡単にへばるかよ。それより、後ろでくたばってるのは何だよ」

 リオと呼ばれた青年がナイを見る。
 忘れてたと小さく呟いて、テオはナイのことを説明した。

「へぇ。これが勇者様か。随分とペラッペラだけど、大丈夫かよ」
「あら。人を見かけで判断するなって言ったのはリオ兄でしょ」
「まぁ、そうだな。とりあえず、そこの部屋で休ませておけ。この辺の気候はよそ者にはキツいだろうしな」

 召使の女性に案内され、アインはナイを寝床へと運んだ。
 正直、アインもこの地帯の乱れた魔力に参っている。ナイを寝かせるついでに自分も少し休ませてもらおうと、レインズに軽く耳打ちだけしておいた。

 アインとナイが席を外し、部屋を去っていく後姿をジッと見ていたリオはふーんと小声で呟く。

「あれが勇者ねぇ」
「族長様は、ご納得いただけないのでしょうか?」
「いやいや、王子様。俺は内に秘めた力も見抜けないほど落ちぶれてねぇーぜ? 表面に漏れた力だけでも十分ヤバいのは分かる。俺が言いたいのは、アイツの影だ」
「影、ですか?」
「おうよ。ここ数年でようやくこの地の力が何なのか解明した。おかげで、魔力とは違う人の力も判別できるようになっちゃった」
「え、なにそれなにそれ! なんで教えてくれなかったの!」
「お前なぁ、この地に連絡手段がないの分かってんだろ。教えてほしかったらもっと頻繁に来いっての」

 リオはテオの額を軽く指先で小突いた。
 ここは魔力の乱れが影響して水晶による通信も届かない。手紙のやり取りも可能だが、時間が掛かるから嫌いだとテオはやらないでいた。

「それで、魔力とは違う力とは?」

 レインズが訊くと、リオは愉快そうな笑みを浮かべた。
 
「霊力だよ。この地に根付いた、地を這う霊脈が砂漠の粒子に混じってる。それが魔力を打ち消してしまうせいで、この地ではロクな魔法が使えないのさ」
「霊、力……古代、その力を用いて死者と話をすることが出来た者がいたとは聞きますが……」
「その通り。霊力とはその人の魂の力。魔力よりもずっと命に近い力さ」
「そんな力があったなんて、知らなかった。リオ兄は霊力が見れるの?」

 テオの問に、リオは腕を無くした右肩をグッと掴んだ。

「あぁ。この腕を無くした時、俺は生死をさ迷った。そのせいか、いやそのおかげか……霊気を感じ取ることが出来るようになってしまった」
「……それで、ナイに見えた影とは?」
「おお、それか。あのガキ、とんでもない影が付いてたぞ。真っ黒で、おぞましい影。その内、堕ちるぞ」

 その言葉に、レインズは背中が震えた。
 テオも言っていた。ナイは不安定で、いつ心の闇に飲まれるか分からないと。

 ナイの笑顔が、いつ消えるか分からない。
 それを想像して、怖くなった。


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