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第51話 ネガティブ勇者、生きがいを見つける
しおりを挟む買い物を済ませて城に帰ると、丁度レインズも話を終えて部屋に戻るところだった。
「おや。お二人共、今お帰りですか?」
「はい。レインズ様の方はお話はもうよろしいのですか?」
「ええ。父上に許可を貰いましたので、いつでも出発できますよ」
あとはテオの連絡待ちだと言うことで、今後の予定を立てようとレインズの部屋へと集まることにした。
久々に入ったレインズの部屋は相変わらず物で溢れ返っていた。
この部屋の本も書庫と同じように情報《データ》化すればいいのにと思いながら、ナイはソファに腰を下ろした。
「レインズ様。キチンと片付けてくださいっていつも言ってるじゃないですか」
「ゴメンゴメン、落ち着いたら片すから」
アインに窘められるレインズに、ナイはクスリと笑った。
二人は本当に仲がいいなと、少し羨ましく思う。ここまで気心が知れた相手などナイにはいない。
二人のことは前より信用できるようにはなったが、それが信頼に繋がるとは今のナイには到底思えない。相手がナイのとこを信じてくれていても、ナイの方が歩み寄れなかったら意味がない。
「そ、それはそうと……次に行く砂漠地帯、フローア地方ですが、向こうは魔力の乱れが多くて転送魔法を使えないんです。なので、近くまでは馬車を使います」
「魔力の、乱れ?」
「ええ。砂嵐が魔力の流れを邪魔しているんです。魔法が全く使えないという訳ではないのですが、転送魔法陣のように空間を繋ぐものは安定した状態で行わないと危険ですので……」
「そっか……じゃあ、今回は前よりも長旅になる、の?」
「そうなりますね。なので準備は万端にしておかないといけません」
ナイは二人に旅支度を手伝ってもらいながら、フローア地方の話を色々聞いた。
そこは各地に点在する集落があり、独自の発展をしているという。その地に根付いた魔法文明などもあり、きっとナイも楽しめるだろうとレインズは言う。
「古代魔法というものもあって、ロッサという集落の長がその手の話に詳しいですよ」
「へぇ。確か本で読んだ気がする……古の魔法は扱える人がすごく少ないって」
「古代文字を読める人が限られてますからね。私もまだ勉強中です」
「ぼ、僕にも覚えられるかな……」
ナイはまだ知らぬ魔法に、目を輝かせた。
この世界にはまだまだ知らないものが沢山ある。本で見たものを実際に見ることが出来る。
魔王を倒さなきゃいけない。宝剣を見つけなきゃいけない。やることは沢山あって、そのための道程を進んでいくための障害は多く、常に高い壁を乗り越えていかなきゃいけない。
それでも、何かを知ること。知識を得ることは、ナイにとってとても有意義なものになっている。
身につけた魔法の力が、一歩踏み出すことの喜びが、ナイの心境を大きく変えてくれている。
「楽しそうですね、ナイ」
「え?」
「魔法の話をしてる時のナイが、一番楽しそうです」
「そ、そうかな……」
「ええ、とても良い事だと思います。貴方がそうして笑ってくれることが、私はとても嬉しい」
そう言うレインズの微笑みは、いつもと少し違って見えた。
それが何の違いなのかナイには分からなかったが、ずっと傍で見てきたアインは主人の小さな変化も見逃さない。
レインズはここ最近、明らかにナイに対して接し方が変わった。
誰に対しても分け隔てなく優しい彼だが、ナイに対してはどこか躊躇いを感じる時がある。
レインズ自身もその感情を自覚していない。今はただナイが笑うようになったことに喜んでいるだけ。
王子として勇者の助けになれることに喜んでいるだけ。
だからアインは口にはしない。
気付いて欲しくない。どちらにも。自分自身ですら、その感情に名前をつけたくはないと思っている。
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