【BL】超絶ネガティブな僕が異世界で勇者召喚されました。

のがみさんちのはろさん

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第47話 ネガティブ勇者、覚悟を入れる

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 初めて会った時の彼は弱くて、すぐにでも折れてしまいそうな印象だった。

「レイ」

 そう呼ぶようになった彼は外見の華奢なイメージは残るものの、どこか頼もしくもも感じられるようになった。

 それがレインズが異界より召喚した勇者、ナイ。
 レインズは自室に戻り、寝間着に着替えてベッドに横たわった。

 さっきまでずっとナイと本や魔法の話をしていた。
 年の近い子とああやって普通の話をして時間を過ごすのは初めてだったレインズは、胸に充実感を得ていた。
 初めて会った時のナイに言われたことは今でも忘れられない。
 あの時のナイに抱いた罪悪感も忘れられない。
 レインズは額に手を当て、出逢った時のことを後悔する。もっと彼に対して気の利いたことを言えばよかったと。今更悔やんでも仕方ないが、そう思わずにはいられない。

 だが、最近の彼は表情が変わった。
 魔法の話を嬉々として語り、レインズに対しても少しずつ壁を作らなくなった。
 特に鉱山に行った後のナイは明らかに違う。
 素直に笑顔を見せるようになった。まだたどたどしい話し方が抜けてはいないが、自然と話しかけてくるようになった。

 彼の変わるキッカケになったのはアインだろう。
 レインズは彼と接するときのナイのことを思い出す。
 自分といる時より、ナイはアインと一緒の時の方が肩の力が抜けているように思う。
 それはとても良いことだ。だが自分といる時に緊張感を持たれているのは、少し悲しい。

 憧れの勇者。
 それは今も変わらない。最初こそ申し訳ない気持ちでいっぱいだったが、今はナイなら間違いなく魔王とも戦えるようになると信じてる。
 そんな彼と共に戦えるようになりたい。隣に並びたい。そう思うようになった。

 そして今は、もっと彼を知りたいと思うようになった。
 レインズは楽しそうに魔法の話をするナイを思い出す。年相応の可愛らしい笑顔。怯えた表情をずっと見ていたせいか、余計に笑顔が印象に残る。
 また見たい。どうしたら彼は笑うのだろうか。そんなことばかりを考えている。

 自分のせいでナイはずっと悲しんでいるのだとレインズは思っていた。
 勇者という重荷を背負わせた自分を恨んでいるだろうと。

 だけど、笑ってくれた。楽しく話をしてくれた。
 ほんの少しでも気を許してくれるようになったのだろうか。レインズはナイとの縮まった距離感に、心が僅かに高鳴ったような気がした。

「……ナイ」

 その名を声に出す。
 何度も呼んだ名前が、今は少し特別な響きを持つような気がした。


―――

――


 翌朝になり、ナイはいつも通り早く目を覚ました。
 やっぱり悪い夢は見なかった。気持ちの良い目覚めに、ナイはニヤけてしまいそうになる頬を両手でギュッと抑え、身支度を済ませた。

 今日もいつも通りの一日を過ごす。
 テオのところに行き、訓練をする。書物のデータ化により魔術書も簡単に調べられるようになったおかげで魔法の訓練も捗るようになった。

「うん。魔物との戦いを経験したことで動きも良くなってるわね。もう私が教えられることもないかしら」
「そんなこと、ないよ。まだ魔力の扱い方は、全然だし……宝剣だって、まだ……」
「うーん。そればかりは私にも分からないことだからなぁ」

 勇者にしか知ることが出来ない宝剣の在り処。未だにナイには何も感じ取れていない。
 何をすればいいのか、そのヒントすら分からない。
 この世界に来てようやく一歩を踏み出したばかり。宝剣への道はまだ遠いということだろうか。

「ナイ。焦らずに探しましょう。魔王の動向もまだ分からないことだらけですし」
「……そう、いえば……魔王って、なんで今襲ってこないんですか? ちゃんといるんですよね?」
「ええ。魔王城が出現していますので、それは間違いないです」
「今の僕ならさっさと倒せるはずなのに何もしないなんて、変じゃないですか?」
「きっと楽しんでいるんですよ。人に希望を与えてから、一気に絶望に落とす。それが魔王のやり方なんですよ」

 レインズが珍しく嫌悪を露わにしている。
 いつも優しい顔をしている彼がそんな顔をするなんてと、ナイは少しだけ怖くなった。

 何を考えているのか分からないが、早く魔王を倒さないと。
 ナイは改めて覚悟を入れ直した。



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