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第45話 ネガティブ勇者、笑う
しおりを挟む城に戻り、すぐに馬車を用意してテオの家へと出発した。
近くまで来ると、玄関の前でテオが待っているのに気付く。
馬車から降りたナイが駆け寄ると、テオが今にも泣きそうな顔で抱きついてきた。
「え、え?」
「ごめんね」
開口一番に謝られ、ナイは意味が分からず慌てふためくばかり。
この状況を説明してほしてレインズとアインに視線を送るが、二人とも理解出来ず唖然としている。
「て、テオ?」
「報告、読んだわ。辛い思いをさせたわね」
「え、あー……」
何故こんなにもテオが落ち込んでいるのかナイには分からない。
だがテオは謝らずにはいられなかった。まさか水晶の力が予想以上に強まっていたなんて思いもしなかった。
ナイの過去に触れたことがあるのは、テオだけ。だからこそその不可抗力だったとはいえ過去を突きつけてしまったことを深く詫びた。
「あ、あの。僕、大丈夫ですから」
「ナイ……」
テオはナイの顔を見て、ハッとした。
表情が違う。弱々しい印象はまだあるが、人の目を見て話せるようになっている。
報告書にはナイが倒れたことしか書かれていなかったため、何があったのかは分からない。だが、あの二人が何かしてくれたのだろう。
結果的にあの三人に取りに行かせて良かった。テオは笑顔を浮かべ、もう一度ナイに抱きついた。
「よかった。貴方が、笑えるようになって」
「……テオ?」
「ううん、なんでもない。それより、早く水晶を見せてよ」
パッといつもの子供のような笑顔を見せて、ナイの腕を引っ張って部屋の中に入った。
ーーー
ーー
「おおー、これまた立派な水晶ね!」
アインが取り出した水晶に、テオは目を輝かせた。
自身の顔よりも大きな水晶の塊。これくらいの大きさがあれば、十分な魔力を蓄積できる。
「これに情報を収集できるように紋章を刻印すれば、完璧!」
テオはナイ達がリーディ鉱山に行ってる間に組み立てておいた術式を水晶へと転写させた。
これが成功すれば、ナイの世界でいうところのインターネットのようにいつでも情報を引き出すことが出来る。
「あとは、情報を写すだけなんだけど……あとで私とナイで書庫にでも行こうか? 二人でやれば一気に出来そうだし」
「で、でもどうやって?」
「本の情報を読み取って具現化する方法は知ってるでしょ。読み取った情報をそのまま水晶に取り込むだけよ」
「そんな簡単に言われても……」
「いけるいける。ナイなら余裕だって」
ケラケラと笑うテオに、ナイはため息を吐いた
それからテオを連れ、ナイ達は城の書庫に向かった。
あらゆる書物、古い歴史書などが保管されていて、その蔵書の数は世界随一とも言われている。
「魔法陣は私が展開するわ。ナイはサポートに入って」
「う、うん」
「貴方の魔力があれば書庫全体を包み込めるはず。ナイもちゃんと魔法の使い方を見て感じて覚えるのよ」
「わかった」
書庫の真ん中に立ち、ナイはテオと向かい合う。
二人は手を繋ぎ、目を閉じた。
「魔法陣、展開」
その声に反応するように、足元に青白い光が円を描いた。
手を繋いでるせいか、テオの組み上げた魔術式がナイの頭の中に入り込んでくる。
膨大な量の言葉が一気に流れ込み、ナイは少しだけ眉間に皺を寄せた。こんなにも複雑な魔術を作れるなんて、さすがは大賢者と呼ぶべきなのだろうか。ナイは心の中で感心した。
「ナイ。貴方の魔力を私の力で引き出すわ。ちょっとビックリするかもしれないけど、落ち着いてね」
「うん……」
目を閉じたまま、ナイは頷いた。
お互いにゆっくり深呼吸をして、テオはナイの魔力に干渉し始める。
「……っ」
胸の中に何かが入ってきたような感触がして、ナイはピクリと肩を震わせた。
落ち着け。ナイは自分に言い聞かせる。これは悪いものじゃない。テオの魔力に自分も合わせる。
同調させ、自分の魔力をテオが使えるように。
ナイがそう意識した瞬間、一気に魔力が流れ出した。
その波動に書庫全体が地震のようにガタガタと揺さぶられる。
離れて二人を見ていたレインズとアインは慌てて体勢を建て直した。
「ほっほー。これは予想以上ね。でもテオ様の力はこの程度じゃ負けないわよ」
テオは心を整え、ナイの魔力を受け入れる。
テオの属性は水。どんな濁流だって扱うことが出来る大賢者であり、魔術師。
嵐のように荒ぶる魔力を巧みに扱い、書庫全体の書物を読み取ってみせた。
「……スゴい」
繊細な魔力操作にナイは言葉を漏らす。
情報を読み取った魔力を一つに纏め、それを水晶へと転写させた。
膨大な量に水晶はガタガタと揺れる。
透明な水晶の色は段々と青くなり、情報を読み込んでいるのが目に見えて分かる。
揺れが収まり、全てを収集し終えた時には水晶は真っ青だった。
「っ、ふぅ!」
「で、できた?」
「完璧ね!」
足元の魔法陣を消し、テオは水晶に触れた。
すると宙に光の板が表示され、そこに文字がズラーっと並んだ。
「す、凄いですね。本当にこの書庫全ての情報がこの中に入ってるんですか」
「ええ。該当する言葉をイメージして引き出す感じかな」
「本当にインターネットみたい……スゴい、テオ」
「凄いのはナイよ! あんなに大きな魔力、初めて! 私感動しちゃった!」
テオはナイの手を使ってピョンピョンと飛び跳ねた。
ナイも自分では出来そうにもない魔法に触れて、心が弾んでいた。
本当に魔法は、思い描いたものを形にしてくれる。
まだ見ぬ可能性に、ナイは自然と笑みを浮かべた。
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