36 / 100
第36話 ネガティブ勇者、鉱山探索をする
しおりを挟むそれから歩くこと数十分。
段々と雪が強くなっていき、視界も悪くなっていく。
こまめに鉱山へのルートを確認しながら、ナイ達は進んでいった。
「着きました、ここです」
雪に覆われた鉱山。入口は厳重に封鎖されているが、レインズが手を翳すと南京錠が外れた。
この鍵も魔法で出来ているのかとナイは感心する。
「ある程度は探索も済んでいるのですが、地下は危険も多いということであまり発掘も進んでいないのです。だからテオ様が仰っていた水脈も順路が分からないんですよね……」
「とりあえず地下へ行きましょう。地下にも魔物がいたという報告があるので、気をつけてください。お前もあまり魔法を使うなよ。特に重力系は崩落する可能性がある」
「わ、わかった」
ナイは改めて気を引き締め、レインズ達の後ろを付いていった。
順路を辿って地下へ降り、水晶のある水脈を探す。穢れのない水には力があるらしく、それを辿れば見つかるとテオが言っていた。
「丁度いい。お前の察知能力を使えば分かるんじゃないか?」
「う、うん。やってみる」
ナイは目を閉じ、無心になる。
神経を澄まし、周囲の気配を感じ取る。
外と違い、鉱山内は道も狭く障害物も多い。地下にある他の鉱石も微々たるものだが力を秘めている。さらに下の方からも森で出会ったような邪悪な気配がある。数は多くないが、森にいた魔物よりも強い魔力だ。その中から水脈を探すのは少々難易度が高い。
「……下で、何か動いてる」
「魔物でしょうか」
「うん……その、もっと下でも何か動いてる……」
「思ったより深いんだな……報告書に書いておきます」
「うーん……立ったままだと集中できない」
ナイはその場に座り、改めて周囲を察知する。
姿勢を楽にしたことと、地面に近いおかげで地下の気配をさっきよりも鮮明に感じられるようになった。
動いてる魔力の数。動かない無数の微弱な魔力。その下にある、静かに流れる綺麗な力。これが水脈だろうか。近くに澄んだ力を感じる。これが探している水晶かもしれない。
「っ、ふう。多分見つけた」
「本当ですか」
「空気の流れ的に、下に降りる道はあっちかな」
ナイが指さす方向へと歩き出した。
未探索エリアに入り、段々と足場も悪くなっていく。ナイ達は周囲に気を配りながら地下に巣くう魔物を倒し、水晶を探す。
地下で大きな魔法は使えない。激しい動きで技を繰り出せば天井が落ちてくる可能性もある。そこを気を付けながら戦うのは相当難しい。加減をしつつも確実に勝たねばならないのだから、ここでの戦闘はナイにはキツイ。
ナイはまだ自分の力を加減しながら魔法を使うことに慣れていない。まだ使い慣れていない刀で何とか魔物を倒していく。
想像以上に、この人数での地下探索はかなり厳しい。
三人ともかなり体力と神経をすり減らしていた。
「レインズ様……だ、大丈夫ですか」
「あ、ああ……だが、ちょっと、いや、思ってたより大変だな。ナイ、お怪我はありませんか?」
「ぼ、僕は、大丈夫、です……怪我、しません、から……」
周囲に魔物の気配が無くなったのを確認し、三人は少し休憩する。
地下は空気が澄んでるおかげで消耗した魔力も回復できる。ナイは深く深呼吸をして乱れた呼吸を整えた。
「ど、どうだ。水源は、近くにありそうか」
「うん……水の流れ、感じるよ。この、真下にある……」
「もっと下なんですね。鉱山には何度か来たことがありますが、ここまで深くまで潜ったのは初めてですね……」
各々体を休めながら、周囲を見渡す。
壁に埋まる鉱石。まるで星空のようで美しいと、ナイは思った。
「……不思議な場所、だね」
「そうですか?」
「うん……僕、山とかも登ったことないから分かんないけど……空気が、澄んでる、というか……優しい、というか……」
「水脈のおかげでしょうね。水が綺麗だから、空気も澄んでいるんだと思います。外はどこも少なからず空気が汚れます。魔物の影響だとも言われていますが、ここの水源は地下深くにあることで何の影響を受けずにいるんです」
「確かに、この下には魔物の気配を感じない……近付けない、のかも……」
「それも水晶の力か……」
「多分……まだ遠いのに、力を感じる……穢れを寄せ付けない、そんな雰囲気……」
ナイは地面に横たわり、目を閉じた。
耳を澄ませると水の流れる音が聞こえる。聞いているだけで、心が洗われるような気がする。
「この場所にいると、私も落ち着きます。鉱石には光が宿っているせいかもしれませんね」
「だったら、僕が落ち着くのは何でかな……」
ナイは体を起こし、グッと腕を伸ばす。
体を休めることが出来たので、地下探索を再開することにした。
0
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました
akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」
帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。
謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。
しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。
勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!?
転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。
※9月16日
タイトル変更致しました。
前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。
仲間を強くして無双していく話です。
『小説家になろう』様でも公開しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。
蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。
此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。
召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。
だって俺、一応女だもの。
勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので…
ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの?
って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!!
ついでに、恋愛フラグも要りません!!!
性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。
──────────
突発的に書きたくなって書いた産物。
会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。
他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。
4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。
4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。
4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。
21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる