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第30話 ネガティブ勇者、新しい魔法を作る
しおりを挟む翌朝。いつものようにレインズと朝食を済まし、テオのところへと向かった。
少しずつ、ここでの生活にも慣れてきた。
ナイは今日も剣を手に取り、全身を魔力で強化する。まだレインズやアインのようにカッコよく剣を振るうことは出来ないが、テオの攻撃を目で追えるようにはなってきた。
ナイが召喚された際に与えられたのは防御力のみ。攻撃に関してはまだまだ素人の域を超えれていない。元はただの中学生だったのだから当然だが。
せめて剣技は人並みに。あとは魔力量を活かして魔法を鍛え上げる。それがテオのプランだ。
「へぇー、異世界の文明は面白いね」
剣の訓練を終え、ナイとレインズは昨晩二人で話していた科学を魔法で代用出来ないかの相談をした。
この世界にない文明にテオも興味津々だ。
「いつでも情報を引き出せれば、無駄に長い術式が必要なら魔法だって簡単に使えるかもしれない。これは魔法文明に大革命が起きちゃうね」
「で、できそう?」
「出来るか出来ないかじゃない。やるのよ! こんな楽しそうなもの実現させるまでやるわよ」
レインズ以上に目を輝かせるテオに、ナイも胸を高鳴らせた。
大賢者であるテオがやる気に満ちているのだ。魔法の可能性はまだまだ広がる。
いまナイが夢中になれるもの。現状では魔法だけだ。
だから、今は自分に出来ることを考える。余計なことは考えない。
魔法に必要なのは集中力。心を乱していたら魔法は使えない。精神も安定できるので、これは丁度良いのかもしれない。
「術式を使って本の中身を魔力に写して、それを一つに纏める……とか」
「何にその魔力を蓄積させるかが問題ですよね。水晶では限界もありますし」
「そうねぇ。デッカイ水晶持ち出してたら本末転倒だし……もっと最小化させないと」
「電話……じゃなかった。思念通話? あれみたいに、大きな水晶に情報を纏めて、遠くからでも引き出せるように出来ないかな……」
「ほっほーう! 面白そうね、それ。でも術式がややこしくなりそうねぇ」
そう言いながらテオは宙に文字を書き始めた。
指先が光り、空になぞられた文字達はテオの周りを囲んでふわふわと浮いている。
そのうち部屋中を埋め尽くすのではないかと思うほど、テオは夢中になって術式を書いては消してを繰り返して形にしていった。
「うーん。問題は水晶ね。それもかなり純度の高いものじゃないと保存した魔力や術式を乱してしまうかもしれない」
「城にあるものでは無理でしょうか?」
「簡易魔法ならあれでもいけるけど、今回のは厳しいかな。特に親となる水晶はもっと大きさも必要だし」
テオが顎に手を当てて考える。
ナイは案を出せても、それを形にする方法はまだ分からない。術式の組み方も魔法陣の展開の仕方も。
だからテオがどんな風に形にしていくのか楽しみで仕方ない。自分でもやってみたくなる。
楽しいという感情が、心から溢れてくる。
「よし。こうしましょ」
テオが何かを閃いたのか、ポンと手を叩いた。
「アンタたちでリーディ鉱山に行ってきて」
「鉱山ですか? それは構いませんが……」
「あそこの奥深くにある地下水脈は誰もまだ手のつけてない天然の水晶があるのよ。それを取ってきて欲しいの。なるべく大きいのがいいわ」
「それなら兵を連れて……」
「必要ないわ。神聖な地下水脈に大勢で乗り込んでほしくないの。だから少人数でいい。あの辺の魔物は雑魚ばかりだし、ナイの訓練にもなるでしょ」
ポンと肩に手を置かれ、ナイは少し身を固くした。
ついに国の外に出る。魔物と戦うことになる。自動防御《オートガード》があるとはいえ、自分でも戦えるようにならなきゃレインズやアインの足を引っ張ってしまうかもしれない。
ナイは震える手をギュッと握りしめた。
「大丈夫よ、ナイ。簡単な攻撃魔法を教えてあげるから」
「テオ……」
「まずは魔法陣を展開させる方法ね」
それからナイは、テオに魔法の使い方を習った。
本の中身を具現化させるのとは違う。紛れもない、ナイ自身の魔法。
ナイはテオの言葉一つ一つを聞き逃さないように、しっかりと聞いた。
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