上 下
23 / 100

第23話 ネガティブ勇者、安心する

しおりを挟む

「こちらの部屋でどうでしょうか」

 ナイに新しく用意してもらったのは、元々使用人が使っていたという部屋だった。ナイはその丁度いい狭さに、これくらいで十分だとレインズに感謝した。
 レインズの部屋からは遠くなったが、二部屋挟んだ先にはアインの部屋がある。何かあれば彼を頼ってほしいとだけ伝え、レインズは自室へと戻っていった。

「……落ち着く」

 一人になり、ナイはシングルベッドにダイブした。
 適度にスプリングの効いたベッド。硬さも程よく、寝心地も悪くない。
 これなら安心して寝れる。ナイは籾殻の枕に頭を置いて、目を閉じた。

 部屋にはベッドと洗面台しかない。他にも何か必要なら用意するとレインズは言ってくれたが、ナイは断った。
 さすがに食事を取るためのテーブルくらいはないと困るだろうと、明日の朝持ってくると言っていた。

 やっと、この城での居場所が出来た気がする。
 ナイは深く呼吸をして、微睡む意識に身を委ねた。



ーーー

ーー


 そっと、音を立てずにドアを開ける。
 暗い部屋の中には、小さな寝息だけが聞こえてくる。その音に、彼は安堵した。

「……平気そうだな」

 ポツリと呟いたのは、アインだった。
 ナイの部屋を移動したと報告を受け、風呂場で倒れたときに魘されたこともあり少し心配になって様子を見に来たのだ。
 もしまた魘されているようなら主人であるレインズに伝えた方がいいと思っていたが、もう大丈夫そうだ。
 本当は風呂場でのことも悪夢に魘されていたことも報告すべきだと思ったが、ナイはあまり知られたくないと判断して伝えなかった。
 自分なら、あまり知られたくないと思ったからだ。

 アインはドアを閉じて自室へと戻った。
 レインズが勇者を常に気にしているから、自分まで心配になってしまったとアインは心の中で思う。
 レインズは勇者召喚を行うと決めてからずっと、どんな人が来るのだろうと目を輝かせていた。だが召喚されたのは自分とあまり歳の変わらない貧弱そうな少年。
 アインはガッカリしたが、レインズはそんな様子を見せなかった。
 正直、どんなに魔力が強大で防御力が高くても本人にその意思がなければ意味がない。アインは彼にこの世界が救えるのか今でも不安に思ってる。
 レインズが彼に何を期待しているのかも分からない。アインにとって主人の言うことは絶対。主人がイエスと言えばイエスと返す。
 だからレインズが勇者というなら彼は勇者だ。そこは間違いないのだが、自分の命を預けられそうには見えない。

 そして何より、ナイ自身に生きたいという思いがない。アインは昔の自分に良く似ているからこそ、ナイの思いが少しは理解できた。
 王族への劣等感。いつ死んでも良いという気持ち。アインにもそう思う時期があった。

 アインは部屋のベッドに横たわり、左胸に手を当てた。
 ナイがどう思おうと自由だが、レインズに何かあっては困る。

 自分の命より大事な主人。
 酷なことだが、勇者には世界を、この国を守ってもらいたい。そのために、ナイの心を利用したとしても、守らなきゃいけないものがある。

 アインは天井を仰ぎ、その覚悟を瞳に宿した。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

髪の色は愛の証 〜白髪少年愛される〜

あめ
ファンタジー
髪の色がとてもカラフルな世界。 そんな世界に唯一現れた白髪の少年。 その少年とは神様に転生させられた日本人だった。 その少年が“髪の色=愛の証”とされる世界で愛を知らぬ者として、可愛がられ愛される話。 ⚠第1章の主人公は、2歳なのでめっちゃ拙い発音です。滑舌死んでます。 ⚠愛されるだけではなく、ちょっと可哀想なお話もあります。

平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです

おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの) BDSM要素はほぼ無し。 甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。 順次スケベパートも追加していきます

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる

クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

戸森鈴子 tomori rinco
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

処理中です...