22 / 100
第22話 ネガティブ勇者、気持ちを伝える
しおりを挟む「それでは、私は部屋に戻りますね」
「え。あの、王子……レイ、は、何しに来たんですか」
何か用事があったから部屋を訪ねてきたのではないか。何もせず帰ろうとするレインズにナイは慌てて聞いた。
目的をすっかり忘れていたのか、レインズは「あぁ」と小さく呟いてナイの元へ戻る。
「すみません。用事がないのに来てしまって……」
「え?」
「今日の夕食、ご一緒できなかったので寝る前に少しでもお話しできればと思って……」
「あ、いや……」
まさか自分と話がしたかっただけだとは思わなかった。どう言葉を返していいのか分からず、ナイは目をパチパチと瞬きをした。
「お邪魔して申し訳ありません」
「いや、全然……何もしてなかった、から……」
「そうですか? それは良かった」
ホッとしたように笑顔を浮かべるレインズ。
名前を呼んでほしいと言ったり、自分と話がしたいだけと言ったり。ナイには理解できない感情だった。決して悪い気はしないが、レインズが何の目的で自分との仲を深めようとしているのかは分からない。
レインズは別に裏があってナイと接している訳ではないが、友達がいたことも作ろうと思ったこともないナイにはその意図を汲むことはできなかった。
「……あ、あの」
「はい?」
「……えっと。あ、あの、魔法……」
「魔法?」
わざわざ自分と話をしようと部屋に来てくれたレインズをこのまま帰すのも悪いと思ったナイは、何か話そうと必死に頭を絞って話題を引っ張り出した。
「あの、テオ、様? のところでやってたやつ。光る剣、どうやって出したの?」
「ああ。あれは自分の魔力を具現化させたんですよ。昨日本のページを表示させたのと一緒です。一度魔法陣を構築させれば、あとはイメージだけで出現させられます」
「……難しい?」
「そうですね。魔法陣の構築は少々手間ですが、覚えれば色んな魔法を使えるようになりますよ」
「…… 僕にも、出来るようになりますか?」
「ええ。ナイ様なら出来ますよ。私もお教えしますし、テオ様は様々な魔法を知っています」
ナイは少しだけワクワクした。
魔法のない世界にいたからこそ、輝きに満ちたそれは心を掴まれる力だ。
欲のなかったナイが、今一番欲するものかもしれない。
「魔法はお好きですか?」
「……えっと、ちょっと興味、ある」
「魔法は必ずナイ様を守る力になります。何でも出来るものではないですが、きっと貴方の勇気になります」
勇気。その言葉に、ナイはピクッと肩を跳ね上がらせた。
ナイの中にないもの。縁の遠いもの。それが勇気だ。魔法を覚えていくことで、それが身に付くのだろうか。
「……ま、魔王にも、勝てる?」
「ええ。ナイ様なら必ず」
「そうすれば、みんな喜んでくれるんだよね……?」
「勿論です」
「……うん。がん、ばる」
ナイはキュッと唇を噛みしめた。
自身も勇気もない自分は、まだみんなに誇れるような勇者にはなれない。だからもっと力を付けないと。期待に応えないと。
ナイは遠くに見える街の灯りを見る。
そういえば、あそこにいる人たちは、勇者のことを知っているのだろうか。
自分のことを見て、勇者だと思ってくれるのだろうか。まだ見たこともない人のことを守れるのだろうか。ナイはどこか他人事のような気持ちでいた。
でもレインズは彼らを守りたいと思ってる。そう思っているレインズを守れさえすればいいのだろうか。
世界を守るということがどういうことなのか、規模が大きすぎてナイの頭ではキャパオーバーしてしまう。だから今は、深く考えないことにした。
今はそれより、大事なことがある。
「……あの、レイ」
「なんですか?」
「……へ、部屋」
「部屋?」
「……もっと、狭い部屋が……いい。ベッドも、あんなに大きいの、いらない」
「分かりました。では別の部屋を用意いたしましょう」
レインズはニコッと笑って、部屋の手配をしてくれた。
アインの言った通り、素直に言葉にすることが出来た。小さな一歩だけど、ナイにはこんな我儘さえも言うのが怖くて仕方ない。
だけど言えた。ナイは嫌な顔もせずに応えてくれたレインズに、安堵した。
だから、もう一つだけ小さい我儘を言いたい。
「あの、レイ」
「はい」
「な、名前……」
「名前?」
「僕のことも、ナイでいい。様付けられるの、なんか嫌……好きじゃない」
ずっと思っていた。自分なんかが様付けされることの違和感。
まだ何もなせてない。勇者として何も出来ていない。出来るかどうかも分からない。そんな自分に敬称なんか付けてほしくない。
「……分かりました、ナイ」
「ありがとう、レイ」
すぐに受け入れてくれたことに、ナイは胸を撫で下ろした。
思いを伝えることの大切さが、少し分かったような気がする。
0
お気に入りに追加
184
あなたにおすすめの小説
巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。
蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。
此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。
召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。
だって俺、一応女だもの。
勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので…
ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの?
って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!!
ついでに、恋愛フラグも要りません!!!
性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。
──────────
突発的に書きたくなって書いた産物。
会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。
他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。
4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。
4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。
4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。
21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!
レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~
喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。
おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。
ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。
落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。
機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。
覚悟を決めてボスに挑む無二。
通販能力でからくも勝利する。
そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。
アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。
霧のモンスターには掃除機が大活躍。
異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。
カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

オッサン、エルフの森の歌姫【ディーバ】になる
クロタ
BL
召喚儀式の失敗で、現代日本から異世界に飛ばされて捨てられたオッサン(39歳)と、彼を拾って過保護に庇護するエルフ(300歳、外見年齢20代)のお話です。
神様に加護2人分貰いました
琳太
ファンタジー
ある日白い部屋で白い人に『勇者として召喚された』と言われたが、気づけば魔法陣から突き落とされ見知らぬ森の中にポツンと1人立っていた。ともかく『幼馴染』と合流しないと。
気付けばチートで異世界道中楽々かも?可愛いお供もゲットしたフブキの異世界の旅は続く……
この世界で初めて出会った人間?はケモ耳の少女いろいろあって仲間になり、ようやく幼馴染がいると思われる大陸へ船でやてきたところ……
旧題【異世界召喚、神様に加護2人分貰いました】は改題され2018年3月書籍化、8巻まで発売中。
2019年7月吉祥寺笑先生によるコミカライズ連載開始、コミック1巻発売中です。
ご購入いただいた皆様のおかげで続刊が発売されます。
男装の麗人と呼ばれる俺は正真正銘の男なのだが~双子の姉のせいでややこしい事態になっている~
さいはて旅行社
BL
双子の姉が失踪した。
そのせいで、弟である俺が騎士学校を休学して、姉の通っている貴族学校に姉として通うことになってしまった。
姉は男子の制服を着ていたため、服装に違和感はない。
だが、姉は男装の麗人として女子生徒に恐ろしいほど大人気だった。
その女子生徒たちは今、何も知らずに俺を囲んでいる。
女性に囲まれて嬉しい、わけもなく、彼女たちの理想の王子様像を演技しなければならない上に、男性が女子寮の部屋に一歩入っただけでも騒ぎになる貴族学校。
もしこの事実がバレたら退学ぐらいで済むわけがない。。。
周辺国家の情勢がキナ臭くなっていくなかで、俺は双子の姉が戻って来るまで、協力してくれる仲間たちに笑われながらでも、無事にバレずに女子生徒たちの理想の王子様像を演じ切れるのか?
侯爵家の命令でそんなことまでやらないといけない自分を救ってくれるヒロインでもヒーローでも現れるのか?

僕のユニークスキルはお菓子を出すことです
野鳥
BL
魔法のある世界で、異世界転生した主人公の唯一使えるユニークスキルがお菓子を出すことだった。
あれ?これって材料費なしでお菓子屋さん出来るのでは??
お菓子無双を夢見る主人公です。
********
小説は読み専なので、思い立った時にしか書けないです。
基本全ての小説は不定期に書いておりますので、ご了承くださいませー。
ショートショートじゃ終わらないので短編に切り替えます……こんなはずじゃ…( `ᾥ´ )クッ
本編完結しました〜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる