【BL】超絶ネガティブな僕が異世界で勇者召喚されました。

のがみさんちのはろさん

文字の大きさ
上 下
8 / 100

第8話 ネガティブ勇者、戦う理由を求める

しおりを挟む


 いつも、寝るときも起きるときも体の痛みと全身のだるさで目が覚めていた。
 また起きなきゃいけない。また一日が始まってしまう。
 そんな憂鬱な気持ちで目覚めていたのに、今日は違った。

「……ん、うん?」

 生まれて初めて十分な睡眠をとれた感覚。体のどこも痛くない。気持ちもどこかスッキリしてる。
 ふと、頭に違和感があった。枕なんて持ってきた覚えはないのに、何かを敷いてる。視界には綺麗な布地が見えるだけ。ナイが顔を上にあげると、そこには自分に膝枕をしたまま眠ってしまったレインズの姿があった。
 いつの間にいたんだろう。人の気配に全く気付かないほど熟睡していたのだろうか。

「……変な人」

 ナイは小さな声で呟いた。
 いくら自分が勇者として喚ばれたからってここまですることないのに。ナイはレインズの優しさが不思議で仕方なかった。
 漫画やアニメでの王様や王子様はお城で勇者の帰りを待ってるだけの存在。
 こんな自分に尽くすことないのに。ナイはそう思いながらも、頭に乗せられた掌の温かさに少しだけ安心感を得る。
 他人の体温に優しさを感じることなんてなかった。
 人の体温なんて気持ち悪いとしか思わなかった。
 ナイにとって体温を感じるときは暴力を振るわれるときだけ。それは肉体的にも、精神的にも。
 今のナイの体にその痛みはない。だけど、ナイ自身は覚えてる。全て鮮明に。
 この綺麗なものにだけ囲まれた王子様には理解できないんだろうな、とナイは深く息を吐いた。
 羨ましい。ただただ幸せを当たり前に過ごしてる彼が。
 愛されることが当たり前だと思ってる彼が。
 ナイはまた胸にジリジリと痛みを感じる。
 嫉妬や劣等感。今までだってクラスメイトの子たちに何度も感じてきた。あの子は家に帰っても親に殴られたりしないんだろうな、と。誕生日には生まれてきてくれたことに感謝されて、みんなから祝われる。家族みんなで食卓を囲める。些細なことで喧嘩して、仲直りしたり。

「……いいなぁ」

 何もかもが遠い世界。
 異世界に来たのに、何も変わらない。
 場所が変わっても、立場が変わっても、人が変わるのはそんな簡単なことじゃない。
 他者への救いが、自分の救いに繋がるのだろうか?
 戦えば、何か変わるのだろうか。

 ナイは再び目を閉じた。
 とりあえず、レインズは自分の敵ではない。自分に良くしてくれてる。
 たとえそれが、勇者だからという理由であっても。
 初めての人から与えられた優しさを、もう少し感じていたい。

「……そうか」

 勇者であり続ければ彼が自分へ優しさをくれるのであれば、勇者として振る舞えばいいのか。
 この優しさを、手放したくない。ナイはレインズの服の裾をぎゅっと握り締めた。
 優しくされたい。あの世界で得られなかったものを、手にしたい。

 今まで感じたことのない感情に、ナイは少しだけ戸惑った。
 レインズに対しての劣等感は消えないけど、でも彼が自分に優しさをくれるのなら、それに縋りたい。
 そのために、戦えばいいのか。
 ナイは勇者としての役目を、自分なりに納得させた。
 死ぬ気で戦えばいい。それが勇者なら、それに対する見返りを求めていいのなら。

 今までだって我慢さえしていれば良かった。そうすれば、酷いこともされない。殴られても、我慢すればいつか終わった。痛みも耐えればいい。
 今回だってそう。嫌なことも何もかも我慢すればいい。そうすれば、優しくしてくれる。


 戦えば。
 我慢すれば。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜

天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。 彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。 しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。 幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。 運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

うっかり女神さまからもらった『レベル9999』は使い切れないので、『譲渡』スキルで仲間を強化して最強パーティーを作ることにしました

akairo
ファンタジー
「ごめんなさい!貴方が死んだのは私のクシャミのせいなんです!」 帰宅途中に工事現場の足台が直撃して死んだ、早良 悠月(さわら ゆずき)が目覚めた目の前には女神さまが土下座待機をして待っていた。 謝る女神さまの手によって『ユズキ』として転生することになったが、その直後またもや女神さまの手違いによって、『レベル9999』と職業『譲渡士』という謎の職業を付与されてしまう。 しかし、女神さまの世界の最大レベルは99。 勇者や魔王よりも強いレベルのまま転生することになったユズキの、使い切ることもできないレベルの使い道は仲間に譲渡することだった──!? 転生先で出会ったエルフと魔族の少女。スローライフを掲げるユズキだったが、二人と共に世界を回ることで国を巻き込む争いへと巻き込まれていく。 ※9月16日  タイトル変更致しました。 前タイトルは『レベル9999は転生した世界で使い切れないので、仲間にあげることにしました』になります。 仲間を強くして無双していく話です。 『小説家になろう』様でも公開しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻き込まれ召喚された上、性別を間違えられたのでそのまま生活することにしました。

蒼霧雪枷
恋愛
勇者として異世界に召喚されチート無双、からのハーレム落ち。ここ最近はそんな話ばっか読んでるきがする引きこもりな俺、18歳。 此度どうやら、件の異世界召喚とやらに"巻き込まれた"らしい。 召喚した彼らは「男の勇者」に用があるらしいので、俺は巻き込まれた一般人だと確信する。 だって俺、一応女だもの。 勿論元の世界に帰れないお約束も聞き、やはり性別を間違われているようなので… ならば男として新たな人生片道切符を切ってやろうじゃねぇの? って、ちょっと待て。俺は一般人Aでいいんだ、そんなオマケが実はチート持ってました展開は望んでねぇ!! ついでに、恋愛フラグも要りません!!! 性別を間違われた男勝りな男装少女が、王弟殿下と友人になり、とある俺様何様騎士様を引っ掻き回し、勇者から全力逃走する話。 ────────── 突発的に書きたくなって書いた産物。 会話文の量が極端だったりする。読みにくかったらすみません。 他の小説の更新まだかよこの野郎って方がいたら言ってくださいその通りですごめんなさい。 4/1 お気に入り登録数50突破記念ssを投稿してすぐに100越えるもんだからそっと笑ってる。ありがたい限りです。 4/4 通知先輩が仕事してくれずに感想来てたの知りませんでした(死滅)とても嬉しくて語彙力が消えた。突破記念はもうワケわかんなくなってる。 4/20 無事完結いたしました!気まぐれにオマケを投げることもあるかも知れませんが、ここまでお付き合いくださりありがとうございました! 4/25 オマケ、始めました。え、早い?投稿頻度は少ないからいいかなってさっき思い立ちました。突発的に始めたから、オマケも突発的でいいよね。 21.8/30 完全完結しました。今後更新することはございません。ありがとうございました!

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...