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◆篁京香の場合
第1話
しおりを挟むこうなること、何となく分かっていた。
だからね、寂しくは思っても悲しくはないの。
———
——
駅前で弟に抱きしめられながら、私はさっきまでのこと思い出していた。
今日はなつ君の部屋に泊まっていこうと思って、わざわざ駅前まで迎えに来てくれる弟を待っていると、偶然にも元カレである瑛太と出逢ってしまった。
彼は私に何度も謝ってきた。こんなことになってしまって申し訳ないと。親にも少し責められたみたいで、こっちの方が逆に申し訳なく思う。私自身、こうなったことに疑問とか何もない。いつかはこうなるんだと、覚悟は出来ていた。
「心配しなくていいよ。私、本当に気にしてないから」
「……京香。君は、もっと怒っても良いんだぞ?」
「怒るとかないよ。それに、あの日常盤君に瑛太を迎えに来るように言ったのも私なのよ?」
「……カズから聞いた。君からメールがあったって。でも、何故?」
「こうなる日が来るって、思ってたからよ」
いつでも瑛太の一番は常盤君だった。付き合ってるとき、瑛太は私に優しくしてくれたけど、何となく踏み込めないところがあった。もしかしたら、時折香る、煙草の匂いのせいかもしれない。あれは常盤君が吸っていた煙草の匂い。この間コンビニで会ったときに確信した。
友達なんだから一緒にいても何にもおかしくはないけれど、この二人は昔から何か違ったの。それが、あの瞬間に分かってしまった。今まで不透明だったそれが、色を持って見えるようになったの。
二人の間にあった何か。踏み込むことが出来ないものが、そこには確かにあった。それが、私が抱く想いなんかじゃ太刀打ちできないものだって、ハッキリ分かっちゃったの。
「常盤君と仲良くね」
「……ありがとう、京香」
「いいえ。その代り、ちゃんと幸せにならないと許さないんだからね?」
「ああ」
そんなことを話していたら、私を迎えに来たなつ君が瑛太に食って掛かって、それを瑛太の天然振りで軽く受け流しちゃって。
で、なんでかこうなってしまった。
「なつ君?」
「……ゴメン」
そう言ってなつ君は私のことを離してくれた。その顔は何だか泣きそうで、物凄くツラそう。
いつもそう。なつ君は私の心配ばかり。小さい頃、泣いてばかりだった私を守ってくれたのもなつ君だった。そんなに私は姉として頼りないのかな。
私、本当に大丈夫だよ。なつ君、もう私のことばかり構わなくていいんだよ。
「なつ君、帰ろう? お姉ちゃん、もうお腹ペコペコ」
「ああ」
「なつ君、何食べたい?」
「……ハンバーグ」
「ふふ、なつ君は小さい頃から好きだよね」
「いいだろ、別に」
「うん、いいよ。寒いから煮込みハンバーグにしようか」
私はなつ君の手を握ってスーパーへと向かった。
もう、なつ君に迷惑を掛けてばかりじゃダメよね。弟離れしなきゃ。これじゃあいつまで経ってもなつ君が自由になれない。お姉ちゃんの世話ばかりじゃ、彼女も出来ないよね。好きな子がいるって言ってたし、私も新しい恋を見つけて、結婚も考えないと。
行き遅れになる前に。
「なつ君、ニンジンも買ってね」
「げ……」
「好き嫌いはダメだよ」
「……食えなくても死にはしないだろ」
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