あなたが私に惚れる理由がわかりません。

のがみさんちのはろさん

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◇佳山悠季の場合

第2話

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 何か、キッカケはないのだろうか。
 彼女と、話をするキッカケ。

 彼女のことを、もっと知るために。

 何か、何か……

———

——

 今日は日曜日。当然学校は休み。つまり、井塚さんには会えない訳ですよ。
 俺は自室のベッドで横になりながら今日の予定を考える。今日は約束も何もないし、どうしようかな。このまま家でのんびりするのも良いけど、せっかくだし出掛けようかな。丁度、今日はマンガの発売日だし。
 机に置いた財布を後ろポケットに入れて、俺は近所の本屋へと向かった。

 玄関のドアを開けて、無駄に眩しい太陽に外に出るのを諦めかけたけど新刊は買っておきたいから出よう。近所の本屋は歩いて十分程度のところにある。
 それにしても暑い。どうやら今年は猛暑らしくて、例年より気温が高いんだとテレビで言っていた。
 ちょっと外に出てるだけで汗が流れてきて、本屋に着くまでに背中に小さな滝が出来てしまう。夏限定の現象、俺の滝。いや、今のは無し。忘れてください。

 汗だくになりながら、俺はようやく着いた本屋へと入った。汗掻いてるせいで、クーラーの効いた冷たい室内は寒いくらいだ。でも外にいるよりかは全然いい。暫くはここで時間を潰すか。
 新刊はあとで見るとして、何か面白そうな本はないかな。
 マンガとラノベの棚を行き来しながら、俺は気になるタイトルの本を見ながら買う本を選ぶ。こういう表紙買いは一期一会なんだって誰かが言っていたような言ってなかったような。
 そんなこんなで、どれくらいそこに居ただろうか。ラノベの裏表紙に書かれたあらすじを読んでいると、隣に誰かが並んだ気がして、俺はチラッとだけ隣を見た。
 なんだ、井塚さんか。

「……い、井塚さん!?」

 思わず大きな声を出してしまい、俺は自分の口を手で塞いだ。だって、まさか井塚さんがいるとは思わないじゃん。
 井塚さんも俺の声に驚いて目を大きく見開いてる。本当にごめんなさい。売り場を整理していた店員さんに軽く見られてしまったけど、そんなことより今は井塚さんですよ。

「……佳山君。えっと、こんにちわ」
「あ、うん。こんにちわ……井塚さん、この辺に住んでるの?」
「うん。高校に入ってからこっちに引っ越してきたんだけど……佳山君は近所なの?」
「俺は、ガキの頃から……」
「そうなんだ」

 あれ、会話できてる。今までで最長だぞ。普通に話せてるよ俺、スゴイよ。芦原、お前の言うとおりだったよ。普通に話し掛ければ良いだけだったよ。
 それにしても、井塚さんの私服姿初めて見た。パーカーにデニムのショートパンツがよく似合ってます。夏らしくて素敵です。
 それにしても、本当に本が好きなんだな。井塚さんの手にはハードカバーの小説が数冊積み上がってる。重そうだな。

「佳山君も本を買いに来たの? って、本屋にいるんだから当然よね」
「え、ああ……新刊と、何か面白いのないかなって……」
「マンガ?」
「う、うん」
「今日発売って言うと……もしかして少年誌のヤツ?」
「そう。あれ、井塚さんもマンガとか読むんだ?」
「もちろん読むわよ。ジャンル問わず、気に入ったものは何でも読むわ」
「へぇ、ちょっと意外だな。井塚さんはマンガとか読むイメージじゃなかったから」
「あら、そんなの偏見だわ。ねぇ、これは読んだ?」

 井塚さんは棚から一冊のラノベを取り出した。表紙からしてファンタジーっぽい。そういえばこれ、前に見かけた時から気になってたやつだ。

「いや、読んでないけど気にはなってた」
「そうなんだ。これ、面白いわよ。私のオススメ」
「じゃあ、読んでみようかな」
「読んだら感想聞かせてね」

 そう言って、井塚さんはレジへと向かった。俺は小説を手に持ったまま会計を済ませる井塚さんを呆然と見てた。そして、会計を済ませて本屋から出ていく井塚さんは、俺の方を向いて手を振ってくれた。
 これは、思わぬ急展開ですよ。感想聞かせてねってことは話しかけてもいいってことだよな?
 てゆうか、井塚さんってあんなに喋る人だったんだ。それも意外だ。もっと大人しくて、口数少ない人だと思ってたけど……
 でも、悪くないです。全然好きです。そういう貴女も俺は好きです。ヤバいです。ますます好きになってしまいました。どうしたらいいですか。
 とりあえず、帰って芦原に電話しよう。こういうとき、どうしたらいいのか。

 本当にどうしよう。

 もっと君のことがもっともっと知りたくなりました。

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