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◆直木理生の場合
第2話
しおりを挟むやわらかい。あったかい。
春待さんの頬は、すべすべしてて、気持ち良い。
ヤバい、もうダメ。
我慢?
理性?
なにそれ、おいしいの?
「……サボらせてもいい?」
「構わない」
春待さんが頷くと、チャイムが鳴り響いた。
どうしましょう。許可、下りちゃったよ。じゃあ、もう知らないよ?
どうなっても。
―――
――
スピーカーが近くにあるせいで、チャイムの音がいつもの数倍うるさい。でも、そんな音よりも俺の心臓の音の方がうるさい。
俺、今日で死ぬのかな。今日が、っていうか今この瞬間が峠なのかな。春待さんの頬を触りながら、俺は17年間の思い出を振り返ろうと思ったけど無理だった。
当たり前だ。こんな状況で何を思い出せるっていうんだ。俺が今思い出せるのは、春待さんが俺の上に乗っかっていた時の感触だけだ。あの感触は墓場まで持っていくぞ。あれだけで俺は抜ける。
「……もう一回聞くけど、本当にいいんだよね?」
「どうぞ……君の好きって気持ち、私に分けて。そしたら、私にも解るかもしれない……」
どんな理屈だ。
でも、本人が良いって言うんだ。だったら我慢なんてする必要ない。据え膳、頂こうじゃないか。
俺は、彼女の頬をゆっくり撫でた。そのまま親指で目元をなぞると、春待さんはそっと目を閉じた。そんな無防備にしないでよ。これでもまだ頑張って耐えてるんだから。
とりあえず、さっき彼女が触ったみたいに春待さんの唇にも触れてみた。ふにって、柔らかい感触が指に直接伝わる。暖かくて、ちょっと湿っぽくて、もっと奥にまで指入れてみたいなって思うのはかなり変態っぽいだろうか。
そんな風に言ったら嫌われるかも。さすがに引かれるかもしれない。でも、この雰囲気に乗じて言ってみてもいいんじゃないか。
「……春待さん、口……ちょっと開けられる?」
「く、ち……?」
春待さんは熱の籠った目で俺を見た。その目、かなりヤバい。その目だけでも俺はイケる自信があります。
ドキドキしながら彼女の反応を待ってると、春待さんは小さく「あ」と吐息交じりに言って口を開けた。
小さな口から覗く、赤い舌。恐る恐る、彼女の口の中に指を入れると、生温かくて湿った感触が纏わりついた。
凄い。語彙力なさ過ぎてこの気持ちをどう説明すればいいか分からないけど、とにかくこれは生まれて初めての感触だ。舌を触って、歯列をなぞって、思いきり春待さんの口の中を堪能する。
なんだろう。変な感触なのに、止められない。濡れた指に彼女の息がかかって、くすぐったい。春待さんの表情もどんどん色っぽくなってる。
口の中触られるのって、どんな感触なんだろう。痛いとかないかな。それとも、気持ちいいのかな。
そんなこと考えてたら、彼女の舌が俺の指をペロッて舐めてきた。
マジか。そんなことまでしちゃうんですか。背中がゾクゾクして、変な気分になってきたんですけど。
「……しょっぱい」
指を引き抜くと、彼女はボソッと呟いた。汗掻いてたのかな、でも春待さんは嫌な顔していない。
俺は、少しずつ彼女に顔を近付けた。ゆっくり、ゆっくり。彼女の顔に影が出来て、互いの額がくっつくくらい。
そこまで来ると、春待さんは目線を上に向けた。
その表情で上目遣いはダメ、絶対。だって、ほら。誘ってるみたいじゃん。現に、誘われちゃったじゃん。
互いの荒くなった息が交わって、視線が絡んで、引き寄せられていく。
いいのかな。
俺、告白はしたけど返事貰ったわけじゃないのに。でも、これで俺の気持ちが春待さんに分けられたら、彼女も気付くよね。俺が今どれくらい君のことを欲してるか。
気付かないなんて、言わせないから。
「……い、いい?」
「……うん」
春待さんが頷くのと同時に唇が重なった。
口を少し離したら、目を閉じていた彼女の瞼がゆっくり開いて俺を見る。そのまま、視線を合わせたまま、もう一度唇を重ねた。
キスって、こんなに気持ちの良いものだったか?
ただ唇を合わせるだけなのに、何度も何度も重ねる度に止まらなくなって、異常なまでに俺を興奮させる。
今度は息を吸うために薄ら開かれた春待さんの唇に、俺は自分の舌を挿し込んでみた。そしたら、春待さんも最初はビックリして舌を引込めたけど、ゆっくりと俺の動きに合わせてくれた。
みんなが授業を受けてる時に、何してるんだろう。悪いこと、してるよな。
でも、こんなところで止められる訳ない。やめる気なんてないし。春待さんも拒まないし。
行けるところまで行くと、俺は決めた。
「ん……」
触れあったままの唇から、春待さんの吐息が零れる。
気付いたら春待さんは俺の腕に掴まっていて、彼女も俺と同じなのかキスに夢中になってた。
キスっていうか、お互いの唇を食べてるみたい。この柔らかい口、もっと欲しいよ。
俺は頬を掴んでいた両手を、彼女の腰と後頭部に廻して互いの距離を限りなくゼロになるように抱きしめた。
細くて、力加減間違えたら折れちゃいそう。でも、もっと抱きしめたくて、つい力が入る。そしたら、春待さんも俺の背中に手を廻してきた。大丈夫、ってことだよね。訊いてる余裕ないから、勝手に解釈するよ。
それにしても、女の子の体って柔らかい。肩とか小さいし、さっきから俺の胸に柔らかい感触が当たってるんです。これ、あれですか。ヤバいですね、実は着痩せするタイプでしたか。最高です。
「……ね、なおきくん……」
「何……?」
唇が重なり合ったまま、彼女が話しかけてきた。
これじゃあ話しづらいだろうに。
でも離れようとはしないから、このままで聞こう。
「……わたし、こんなにドキドキしたの……はじめて……キス、はじめてなのに、もっとしたい」
「そう、なんだ?」
「……それで、考えたんだ。これがもし、直木君以外の人だったらどうだったかなって……」
「うん……」
「いやだなって、思った……想像、できないっていうか……とにかく、イヤだと思ったんだ……」
「それは、俺だから良いってこと……?」
「そう、捉えてくれてくれて、構わない……」
そう言って、春待さんは目を閉じて触れていた唇を少し力を入れて押し当てた。
つまり、ちょっとは俺の気持ちが伝わったってことなのかな。少しくらいは、俺に好意的なものを抱いてくれたのかな。だったら、いいな。
「ちょっと、ごめん」
俺はゆっくりと春待さんの体を後ろに倒して、地面に寝かせた。
さっきとは逆の体勢。誰かに見られたら言い逃れが出来ない体制。でもさ、俺は言い訳とかする気ないから。俺、誰に見られてもいい。
ハッキリ言ってやるよ。春待さんとやらしいことしてましたって。
「なおきくん……」
「大丈夫。別に、ここでやっちゃおうとか考えてないから……ただ、俺も春待さんにもっと触りたいだけ……ダメ?」
「……ううん」
春待さんは首を振って、俺に向かって両腕を伸ばした。俺は誘われるままに、彼女へと体を倒していった。
またキスして、口や頬、首筋にまで唇を這わして、さっき俺の体に当たってた柔らかな膨らみに触れてみた。
春待さんはビクッと震えただけで、拒まなかった。ちょっと拒んでくれた方が俺も歯止めが利いたのに。でも、嫌じゃないなら、このまま続けるよ。
セーラー服の上から、彼女の胸を触っていく。固い場所、これは下着のワイヤーか? これが彼女の胸の形を強調してるみたい。服の上からでもこんなに柔らかいのなら、直接触ったらどうなるんだろう。どんな反応を見せてくれるんだろう。想像しただけで、鼻血出そう。
もし嫌がったら止めよう。そう思って、俺は彼女の制服の裾から手を入れた。荒くなった呼吸のせいで上下に動くお腹に触れて、ゆっくりと胸に手を伸ばした。
「っ!」
俺、今、春待さんの胸、触ってる。下着が胸を寄せているんだろうか。谷間と言われる部分に触れるとふにふにして、気持ち良かった。本当に俺、下着の上からだけど触ってるんだ。
ズラせばもっと触れそうだけど、それはさすがにマズい。俺は胸の感触だけ堪能しながら、彼女の顔にキスをした。
「ひゃんっ!」
耳元でキスしたら、春待さんが今までで一番大きなアクションを起こした。耳? 耳が弱いとか?
俺は彼女の耳朶をそっと舌で触れてみた。そしたら、彼女の背中が少しだけ反り上がって、手の甲で口を抑えた。やっぱり、ここが春待さんの弱点か。これは良いことを知った。覚えておこう。
さっきので力が抜けたみたいで、口を抑えていた手もすぐに地面に落ちていった。
春待さん、顔真っ赤だよ。それに、足を曲げてるせいでいつもはスカートに隠れた太腿が見えちゃってるよ。普段日に当たってないのか、真っ白だ。無防備なのがいけないんだよ。俺、止まれないんだからね。
「っ、なお、き……くん……」
「……なに」
「くすぐったい、よ……」
白い足に手を這わせた。ちょっと冷たくて、触れたところから段々と暖かくなっていくのが解る。
どうしよう。止め時が解んない。俺、一生こうしていたいよ。彼女の足を触りながら、彼女の首筋に顔を埋めたまま、動きたくない。
「春待さん……」
「どう、したの……?」
「俺、このままでいたいよ……」
「……直木君……わたしも、このままでいたい、かも……」
「本当に? また、俺に触らせてくれる?」
「ああ。多分きっと、私も直木君に触れたくなるから……」
それは、どういうこと? そういうこと?
俺の考えてることと同じだと受け止めていいの?
君は、俺の気持ちを、理解してしまったの?
「マジで言ってる? 俺、その言葉都合よく解釈するよ」
「いいよ。私、直木君の気持ちが移ったんだと思う。正直、好きって何か答えは出てないけど……でも、これが好意だって思える。君に、私は好意を持っている。じゃなかったら胸なんて触らせない。それに今も君に欲情してるんだ」
「よっ!?」
言葉は選んでください。
でも、俺の一年間は無駄にならなかった。なんか、とんでもない子を目覚めさせたような気がするけど。
「じゃあ、俺と付き合ってくれるの?」
「そういうことになるのだろうか。うん、そう。君と付き合う。付き合いたい。だからね、直木君」
「なに?」
俺が聞くと、春待さんが思いっきり俺の首を自分の方に引き寄せてキスしてきた。
待って、待ってって。そろそろやめないと時間が。
またチャイム鳴るから。さすがに教室戻らないとマズいから。肩を叩いて止めるように言ってんのに一向に口を離してくれない。
ああ、もう。仕方ない子だよ。そんな君が好きな俺にも困ったものだよ。何で俺、こんなに君が好きなんだろうね。もう全然わかんないや。
でも、最高に好きだよ。
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