男装オメガと獣人アルファ~純白の聖女と漆黒の暗殺者は何色の花を咲かす~

のがみさんちのはろさん

文字の大きさ
72 / 78

第72話「終焉」

しおりを挟む



 アンジュの足は一度もその速度を緩めることもなく、悠然とした様子で歩んでいく。
 一歩一歩と進んでくる姿は、まるで聖母のよう。真っ暗な地下のはずなのに、彼女自身が輝いて見える。バレックはその光景に、リーヴェの姿を重ねた。
 目の前まで近付かれ、全身に痛みが走る。それでも、目を離すことが出来なかった。自分がアンジュに抱きしめられたことに気付いたのも、少し遅れてからだった。

「…………何、してるの?」
「……癒しているんですよ」
「あー、そういうことぉ」

 アンジュから放たれる光がバレックを包む。
 聖女の癒しの力が、彼の呪いを解こうとしている。そして、彼に憑いているリーヴェの魂も全て、癒していく。
 バレックは聖女の心臓を食べたことで若返った。それも全て浄化すれば、本来の姿に戻る。

「……先に俺も返してもらうぞ」

 アンジュの行動に気付いたフローガは、彼女を後ろから抱きしめてバレックの腹に思い切り手を突き刺した。
 ずっとバレックの腹の中から先代の魔力を感じていた。体の中に留まっている命の石さえなければ、彼はもう強い洗脳も使えない。
 フローガはイデアを抱き上げ、ゆっくりとその場を離れた。

「あーあ、終わりかぁ」
「……そうですね」
「本当に聖女って嫌だね。やることなすこと、聖女って存在に邪魔される。君にイデアのこと報告しに行った教師もさん、そのまま君を連れてくる予定だったんだよ……でも、君の魔力に当てられて俺の洗脳解けちゃったみたいだし」
「そうだったんですか……」
「本当……聖女なんて大嫌いだよ……」

 バレックの腹の傷はすぐに塞がったが、彼はもう指先一つ動かない。
 全身の痛みが少しずつ引いていく。だけど、一気に老化が進み、命の石や聖女の心臓で魔力を増やしたことで掛かっていた負荷が、老いた体を蝕んでいく。

「…………私は、アルクス国なんて知らないです。つい最近まで何も知らなかったんです」
「へぇ……じゃあ、俺は無駄なことしてたのかな」
「それは、私には判断しかねます。あなたの話を聞いて、私も聖女一人が支える国なんて嫌だと思いました。私だったら……フローガさんの手を取って、逃げていたかもしれないです」
「……いいなぁ、俺もリーヴェにそう言ってほしかったなぁ……」

 温かな光に包まれながら、バレックは目を閉じる。
 バレックはアンジュがここに辿り着いた時点でもう、こうなることを予想していたのかもしれない。無駄なことをしている自覚はあった。だけど、聖女という存在を許せない気持ちが膨れ上がって、止められなかった。
 だけど、イデアとも話をして彼らがアルクス国のことを知らなかったことで、オリビアがアルクス国のことも聖女のことも消し去ろうとしていたのかもしれないと、気付いていた。
 それでも、リーヴェが望んでいないことだとしても、彼女を苦しめた要因をこのまま残しておくことは出来なかった。

 ボロボロと崩れていく体に、自分の最後を悟る。
 リーヴェの心はずっと傍にいてくれたのに、こんな暗闇に閉じ込めてしまったことを、今更ながら後悔した。こんなことなら、もっと色んなところを見せてあげれば良かった。
 そう思いながら天を仰ぐと、目の前にリーヴェの姿が見えた気がした。ただの幻か、死に際に都合のいい夢を見てるだけなのか、それでも優しく微笑んでくれている彼女が会いに来てくれたのなら、何でもいい。
 バレックはそっと手を伸ばして、彼女の手を取った。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

【完結】たれ耳うさぎの伯爵令嬢は、王宮魔術師様のお気に入り

楠結衣
恋愛
華やかな卒業パーティーのホール、一人ため息を飲み込むソフィア。 たれ耳うさぎ獣人であり、伯爵家令嬢のソフィアは、学園の噂に悩まされていた。 婚約者のアレックスは、聖女と呼ばれる美少女と婚約をするという。そんな中、見せつけるように、揃いの色のドレスを身につけた聖女がアレックスにエスコートされてやってくる。 しかし、ソフィアがアレックスに対して不満を言うことはなかった。 なぜなら、アレックスが聖女と結婚を誓う魔術を使っているのを偶然見てしまったから。 せめて、婚約破棄される瞬間は、アレックスのお気に入りだったたれ耳が、可愛く見えるように願うソフィア。 「ソフィーの耳は、ふわふわで気持ちいいね」 「ソフィーはどれだけ僕を夢中にさせたいのかな……」 かつて掛けられた甘い言葉の数々が、ソフィアの胸を締め付ける。 執着していたアレックスの真意とは?ソフィアの初恋の行方は?! 見た目に自信のない伯爵令嬢と、伯爵令嬢のたれ耳をこよなく愛する見た目は余裕のある大人、中身はちょっぴり変態な先生兼、王宮魔術師の溺愛ハッピーエンドストーリーです。 *全16話+番外編の予定です *あまあです(ざまあはありません) *2023.2.9ホットランキング4位 ありがとうございます♪

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ちょっと不運な私を助けてくれた騎士様が溺愛してきます

五珠 izumi
恋愛
城の下働きとして働いていた私。 ある日、開かれた姫様達のお見合いパーティー会場に何故か魔獣が現れて、運悪く通りかかった私は切られてしまった。 ああ、死んだな、そう思った私の目に見えるのは、私を助けようと手を伸ばす銀髪の美少年だった。 竜獣人の美少年に溺愛されるちょっと不運な女の子のお話。 *魔獣、獣人、魔法など、何でもありの世界です。 *お気に入り登録、しおり等、ありがとうございます。 *本編は完結しています。  番外編は不定期になります。  次話を投稿する迄、完結設定にさせていただきます。

処理中です...