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第14話 俺、昔勇者だったんだぜ?
しおりを挟む夕飯の支度を手伝いながら、俺は横目でエイリを見る。
さっきまで俺のを口でしてたくせに、こうも涼し気な顔が出来るとは。
俺は弟に、そして魔王にイカされた敗北感に胸を心を締め付けられているのに。
俺、こんなだけど昔は勇者だったのに。
あ。今の俺って、昔の武勇伝を語るウザいジジイみたいじゃん。
ダメダメ、もう勇者だったことを思い出すのは止めよう。悲しくなるだけだし。
「ただいまー」
玄関の方から声がして、母さんがエプロンで濡れた手を拭きながらパタパタと歩いていった。
俺も玄関の方へ向かうと、上着を脱いでる父さんがいた。
「おかえりなさい、あなた」
「ただいま、エルザ」
二人は結婚して二十五年も経つのに相変わらず仲がいい。いってきます、おかえりなさいのキスは当たり前。見てるこっちが恥ずかしくなるほどだ。
ちなみに、母さんの名前がエルザ。父さんがグローア。
「おかえり、父さん」
「ただいま、アルト。エイリ」
「お父さん。おかえり、お疲れ様」
父さんは俺たちの頭をガシガシと撫でて、リビングへと向かっていった。
最強の騎士団長とも言われた父はガタイも良くて俺たちよりもずっとデカい。基本的に豪快な人で、俺もエイリも尊敬してる。
「父さん、城に呼ばれたって……」
「母さんから聞いたのか? まぁ色々あってな。でもお前達は心配いらないから、安心しろ」
「でも、魔物が凶暴化してるんだろ。何か手伝えることとかないか?」
「大丈夫だ。アルトはここで弟を守ってやれ」
やっぱり俺には何も教えてくれないか。
てゆうか、その弟は守る必要ないんですけどね。俺より強いし、そもそも魔物に襲われないし。
「それにしてもアルト。お前は昔から人の心配をしてばかりだな。そろそろ良い歳なんだし、身を固めるのもいいんじゃないのか?」
「え、なんだよ急に」
「俺はお前くらいの歳で母さんと出会ったんだぞ。当時の母さんはそれはもう美しくてな……白いローブを身にまとったその姿は天使のようで……」
「やだ、あなたったら!」
はいはい。その話は耳にタコが出来るくらい聞いたって。
魔物の話がしたかったのに、なんか結婚の話に逸らされてしまった。
そういう話題はコイツの前だとしにくいんだよ。俺もずっと弟がいるからって恋人とか作ってこなかったし。
「まぁ、お前はエイリの方が大事みたいだからまだそういう事は考えられないのかもしれないけど、いつまでも山暮らしも退屈だろうよ」
「いや、ここの暮らしは別に嫌いじゃないよ」
「そうか? エイリはどうなんだ。父さん、今日もまた司祭様から弟君を学園に入れないんですかって聞かれちゃったぞ」
「その話は何度も断ってるのに」
「ハッハッハ! それほどお前が逸材だということだ。まぁ、父さんはエイリがやりたいようにやってくれればいいと思うぞ」
「うん。ありがとう、お父さん」
いい具合に話がまた逸れて助かった。
父さんに頭を撫でられているエイリの表情は柔らかい。この世界では両親に恵まれて良かったな。
これだけ優しい親に愛されてるのに、なんでコイツは俺にあんなに執着するんだろう。やっぱり山暮らしで他の人との交流がないからだろうか。やっぱりその一点に絞られるのか。
困ったな。エイリは正体がバレないように人が多い場所に出ないようにしてる。無理に連れ出すのは良くない。
俺だってアイツに無理を強いたくはない。エイリが望むように暮らしてほしいとは思う。でも、俺にもし彼女とか出来たらどうするんだろ。今までは俺が、というかアルトが尋常じゃないブラコンだったから作らなかったけど、今はもう俺だ。彼女くらいほしいさ。
だけどコイツが昔、俺の彼女に手を出したりして無理やり別れさせたって話を聞いちゃったしな。今回も同じようなことされたら困るし、今のコイツは魔王だから何するか分からなくて怖いんだよ。
俺、結婚も出来ないのかなぁ。
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