上 下
14 / 24

第14話 俺、昔勇者だったんだぜ?

しおりを挟む



 夕飯の支度を手伝いながら、俺は横目でエイリを見る。
 さっきまで俺のを口でしてたくせに、こうも涼し気な顔が出来るとは。
 俺は弟に、そして魔王にイカされた敗北感に胸を心を締め付けられているのに。
 俺、こんなだけど昔は勇者だったのに。

 あ。今の俺って、昔の武勇伝を語るウザいジジイみたいじゃん。
 ダメダメ、もう勇者だったことを思い出すのは止めよう。悲しくなるだけだし。

「ただいまー」

 玄関の方から声がして、母さんがエプロンで濡れた手を拭きながらパタパタと歩いていった。
 俺も玄関の方へ向かうと、上着を脱いでる父さんがいた。

「おかえりなさい、あなた」
「ただいま、エルザ」

 二人は結婚して二十五年も経つのに相変わらず仲がいい。いってきます、おかえりなさいのキスは当たり前。見てるこっちが恥ずかしくなるほどだ。
 ちなみに、母さんの名前がエルザ。父さんがグローア。

「おかえり、父さん」
「ただいま、アルト。エイリ」
「お父さん。おかえり、お疲れ様」

 父さんは俺たちの頭をガシガシと撫でて、リビングへと向かっていった。
 最強の騎士団長とも言われた父はガタイも良くて俺たちよりもずっとデカい。基本的に豪快な人で、俺もエイリも尊敬してる。

「父さん、城に呼ばれたって……」
「母さんから聞いたのか? まぁ色々あってな。でもお前達は心配いらないから、安心しろ」
「でも、魔物が凶暴化してるんだろ。何か手伝えることとかないか?」
「大丈夫だ。アルトはここで弟を守ってやれ」

 やっぱり俺には何も教えてくれないか。
 てゆうか、その弟は守る必要ないんですけどね。俺より強いし、そもそも魔物に襲われないし。

「それにしてもアルト。お前は昔から人の心配をしてばかりだな。そろそろ良い歳なんだし、身を固めるのもいいんじゃないのか?」
「え、なんだよ急に」
「俺はお前くらいの歳で母さんと出会ったんだぞ。当時の母さんはそれはもう美しくてな……白いローブを身にまとったその姿は天使のようで……」
「やだ、あなたったら!」

 はいはい。その話は耳にタコが出来るくらい聞いたって。
 魔物の話がしたかったのに、なんか結婚の話に逸らされてしまった。
 そういう話題はコイツの前だとしにくいんだよ。俺もずっと弟がいるからって恋人とか作ってこなかったし。

「まぁ、お前はエイリの方が大事みたいだからまだそういう事は考えられないのかもしれないけど、いつまでも山暮らしも退屈だろうよ」
「いや、ここの暮らしは別に嫌いじゃないよ」
「そうか? エイリはどうなんだ。父さん、今日もまた司祭様から弟君を学園に入れないんですかって聞かれちゃったぞ」
「その話は何度も断ってるのに」
「ハッハッハ! それほどお前が逸材だということだ。まぁ、父さんはエイリがやりたいようにやってくれればいいと思うぞ」
「うん。ありがとう、お父さん」

 いい具合に話がまた逸れて助かった。
 父さんに頭を撫でられているエイリの表情は柔らかい。この世界では両親に恵まれて良かったな。
 これだけ優しい親に愛されてるのに、なんでコイツは俺にあんなに執着するんだろう。やっぱり山暮らしで他の人との交流がないからだろうか。やっぱりその一点に絞られるのか。
 困ったな。エイリは正体がバレないように人が多い場所に出ないようにしてる。無理に連れ出すのは良くない。
 俺だってアイツに無理を強いたくはない。エイリが望むように暮らしてほしいとは思う。でも、俺にもし彼女とか出来たらどうするんだろ。今までは俺が、というかアルトが尋常じゃないブラコンだったから作らなかったけど、今はもう俺だ。彼女くらいほしいさ。
 だけどコイツが昔、俺の彼女に手を出したりして無理やり別れさせたって話を聞いちゃったしな。今回も同じようなことされたら困るし、今のコイツは魔王だから何するか分からなくて怖いんだよ。

 俺、結婚も出来ないのかなぁ。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

食欲と快楽に流される僕が毎夜幼馴染くんによしよし甘やかされる

BL
 食べ物やインキュバスの誘惑に釣られるお馬鹿がなんやかんや学園の事件に巻き込まれながら結局優しい幼馴染によしよし甘やかされる話。 □食い意地お馬鹿主人公受け、溺愛甘やかし幼馴染攻め(メイン) □一途健気不良受け、執着先輩攻め(脇カプ) pixivにも投稿しています。

ヤンデレBL作品集

みるきぃ
BL
主にヤンデレ攻めを中心としたBL作品集となっています。

イケメン幼馴染に執着されるSub

ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの… 支配されたくない 俺がSubなんかじゃない 逃げたい 愛されたくない  こんなの俺じゃない。 (作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)

ヤンデレだらけの短編集

BL
ヤンデレだらけの1話(+おまけ)読切短編集です。 全8話。1日1話更新(20時)。 □ホオズキ:寡黙執着年上とノンケ平凡 □ゲッケイジュ:真面目サイコパスとただ可哀想な同級生 □アジサイ:不良の頭と臆病泣き虫 □ラベンダー:希死念慮不良とおバカ □デルフィニウム:執着傲慢幼馴染と地味ぼっち ムーンライトノベル様に別名義で投稿しています。 かなり昔に書いたもので、最近の作品と書き方やテーマが違うと思いますが、楽しんでいただければ嬉しいです。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

処理中です...