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第5話 弟は完璧超人だけど正体は魔王

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「……お前、普通の兄弟はこんなことしないぞ」
「母さんは僕が兄さんにキスするの見て可愛いわねって言ってたよ?」
「それはガキの頃だけだろ!」
「兄さんだって嫌がっていないし」
「とっさのことで反応できなかっただけだ!」

 くそ。幼い時に甘やかしすぎた。
 俺は冷静になろうと家の外に出た。そう言えば俺、急に記憶を思い出したせいで忘れてたけど親に頼まれて薪割りをしないといけないんだった。
 なんでリビングでお茶飲んでるときに思い出したんだろう。特にキッカケになるような出来事があったわけでもないのに。

「手伝うよ、兄さん」
「あ、ああ……」

 エイリは俺の後ろを付いてきた。こうしていれば普通の弟なんだけどな。
 頭も良くて、容量も良くて、自慢の弟。勉強も運動もなんでもそつなくこなせる完璧な奴だ。そういえばコイツは昔からそうだったな。前世のときから何でも出来る奴だった。だからよく宿題とか見せてもらってたな。
 大学に入ってからも色々と頼ってた。まさか俺に気が合ったとは知らなかったけど。しかも彼女も取られてたし。

「……そういえば。お前、前に中央の学園《アカデミー》から招待受けてたよな。断ったのって、やっぱり魔王だから?」

 ふと思い出し、俺は薪を運んでるエイリに問いかけた。
 学園《アカデミー》はずっと遠くの大陸、中央大陸《セントラル》にあるミルディア国が世界中から優秀な魔導士や騎士を育てるために運営している教育機関のこと。
 俺たちの父親は元々中央の騎士団長で俺らが生まれた時に子育てに集中したいとかで現役引退したんだ。そんで戦争とかが少ない山奥の田舎に引っ越した。おかげで俺は仕事に行くにもいちいち山を下りなきゃいけなくて面倒くさい。
 エイリが生まれたばかりのとき、父の知り合いの魔導士がコイツの魔力値が凄いって言ってたのは覚えてる。大きくなってから何度か学園に来ないかって推薦状が毎月来てたけど、僕は興味ないって断り続けてたんだよな。当時の俺は勿体ないってずっと言ってたけど、今なら納得する。

「その通りだよ。今は魔力を隠してるけど、勘の良い人には気づかれちゃうし、魔法なんて使ったら一発でバレちゃうよ。この世界で混沌の魔力を持っているのは魔王だけだもんね」
「だよな。でも、小さい頃はよくバレなかったな」
「一応生まれてくる直前に隠ぺいの魔法をかけておいたからね。いくら僕でも赤ん坊の時に高度な魔力操作は出来ないから。ただ魔力資質は隠せても魔力量までは抑えられなかったね」

 なるほどな。俺も一度だけ誘われたけど、あれは単純に父の子供ってだけのコネ入学だったから断った。俺は軍人になるつもりも魔法を学ぶつもりもない。勉強嫌いだし。そこはアルトも俺も一緒だな。
 てゆうか、やっぱりアルトとして生きてきた時間を思い出しても、ほぼ俺なんだよな。名前が違うだけ。魂が同じだからだろうか。それとも。

「なぁ、エイリ」
「なぁに?」
「俺とアルトの性格が同じなのってお前が何かしたの?」
「何かって? 魂を弄ったとかそう言いたいの?」
「別にそんな嫌な言い方するつもりはねーよ」
「ふふ。残念ながら、僕は何もしてないよ。てゆうか、何もしていないからこそ、君は君のままなんだよ。育った環境が違うってだけで、基本的な性格は魂に刻まれる。僕は寸分の狂いもなく君の魂を修復したからね」
「ふーん」
「だって、僕は君のことが好きだから。少しでも変わっちゃたら困るもの」
「ふ、ふぅーん」

 いちいち好きとか言うのやめてくれないかな。もう兄弟としての好きって意味に聞こえないから困る。


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