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第2話 長々話したけど忘れていいと言われました
しおりを挟むまたしても話が分からない。コイツは何を言っているんだ。
「この世界に来て僕は魔術師として色んな魔法を調べた。君をサポートするための魔法や……禁術とかね」
「なんで、そんなものを……」
「僕は元の世界に帰りたいとは思ってなかったから、どうにかして君とこの世界に留まれないかって考えていたんだ。それで旅の途中で寄った遺跡の中で禁術の書かれた魔導書を見つけてね、役に立つか分からないけどいくつか覚えておいたんだ」
「遺跡……って、いつの間に? どこの遺跡だよ」
「まぁそれはどうでもいいじゃない。でね、その禁術の一つが相手の体を乗っ取るもので、俺は魔王の力を利用してやろうと思って魔王が消える前にその体を乗っ取ったんだ」
「……なんで」
「言っただろ。僕はこの世界に残りたい。君のことも助けたい。だから魔王の力を使って、僕たちの魂を転生させることにしたんだよ。結果、僕たちはこの世界で兄弟として生まれた。君や僕の魂と体を作り替えるのに結構な時間を消耗しちゃったけどね。特に僕は人間から魔王になったわけだから、体の再構成に時間かかっちゃった。だから君より産まれてくるのが少し遅くなったんだ。本当は双子が良かったんだけどね」
高藤は肩をすくめて言った。
とりあえず俺の置かれた状況は分かった。分かったけど、余計に頭がおかしくなりそうだった。
待ってくれよ。ずっと俺が弟だと思っていた奴はかつての幼馴染で、この世界に一緒に召喚されて魔王と戦った仲間で、今ではその魔王だっていうのか。
駄目だ。もう全然分からない。
「白瀬。何を悩んでるの?」
「何をって……悩まない訳ないだろ!」
「だってさっきまでは普通に生活していたじゃないか。僕たちはこの家で優しい両親と一緒に暮らしてる。今はもう勇者も魔王も関係ない。だってあの頃から120年も経ったんだよ?」
「……ひゃ、ひゃく、ねん?」
「そうだよ。君が勇者としてこの世界に召喚されてから、もう百年以上過ぎたんだ。だからもう過去のことなんかどうでもいいだろ? 元の世界のことや前世の話なんか今の僕たちには必要ない話さ。今話したことはぜーんぶ忘れていいよ!」
今の話を全部忘れろって、無理だろ。
小説だったら50話くらいのボリュームだろ。アニメなら1クールくらいはある。そんな俺らの過去を忘れろって。
マジでコイツの言ってる言葉が一つも受け入れられない。
「…………何言ってんだよ」
「君が昔の記憶を思い出したからって何になるの? 今の君は白瀬俊介《しらせしゅんすけ》じゃない。君はアルトワインド・ヴァイリー。そして僕は弟のエイリウィンド・ヴァイリーだ」
そうだ。俺はアルトワインド。この19年間、アルトとして生きてきた。それは変わらない。何も変わらない。
だけど、前世を思い出してしまった。たったそれだけで、俺はもうさっきまでの俺には戻れない。
俺という物語がいま五巻くらいだったとして、さっきまで一巻から四巻を読まずに人生過ごしていたような感覚。
その読み飛ばしていた四巻分の情報が一気に頭の中に入ってきたせいでパンクしそうだけど。
しかも、その俺が今取り戻した情報をコイツは必要ないと言いやがる。
ああ、もう。何もかもが分からない。
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