80 / 100
八十話 【報告】
しおりを挟む引っ越しまで、あと一週間。
部屋の中はほぼ段ボールで埋まってきた。先週買った家具類は新居の方に郵送で届けられるし、あとは引っ越し当日を待つばかり。
「……あ、忘れてた」
俺、引っ越しの話はしてたけど彪世さんと一緒にってことは伝えてなかった。
透把に色々と報告しないとだよな。
今日は彪世さんも朝から用事があって出掛けてるし、俺もちょっと出るか。
あと母さんにも引っ越しのことすら伝えてない。荷物送ったとか連絡ないから、その辺は大丈夫だとは思うけど。
とりあえず、透把に今何してるか訊くか。
今日はバイトだったっけ。
電話をかけて、数コール。わりとすぐに出た。
「……あ、透把? 今ヒマか?」
『ああ、今日は夜からだから大丈夫だけど』
「来週引っ越しだから連絡しておこうと思って」
『あー、もうそんなか。結構あっという間だな。俺、手伝いに行こうか?』
「いや、平気。てか、俺このまま彪世さんと暮らしていくことになったから」
『……ん?』
「だから、家買ったからそのまま彪世さんと一緒に引っ越して暮らしてくってこと」
『は? え? それって、え? お前、マスターさんと付き合うの? いや、そういうことになったってことか!?』
電話越しでも分かるくらい透把のテンションが上がってる。
メッチャ耳が痛い。
「いや、まだそういうんじゃない……とも言い切れないけど、俺はまだ彪世さんに返事してないっていうか……まだ保留というか」
『はああああ? 何してんの!? 自覚したんじゃないの? 認めたんじゃねーの?』
「うっせーな。12年近く片思い拗らせてた俺がそう簡単に恋愛できると思ってんのかよ」
『それを俺に言うなよ』
「他に誰に言えっていうんだよ。とにかく、まぁそういうことになったから」
『そうか……でも良かったな。一応、おめでとうになるのか?』
「それはよく分かんないけど……あ、もう一つ言うことあった」
『え?』
「俺、彪世さんの店で働くことになったから」
『マジで!? スゲーじゃん! え、志貴どうしたんだよ!? これもう革命じゃん!』
大袈裟なんだよ、言い方が。
そう言いたい気持ちも分からなくもないけどさ。むしろ予想通りだけどさ。
でもお前にそういう反応されると正直恥ずかしい。
物凄く恥ずかしい。
透把は昔からの俺を知っていて、カミングアウトしたことで今や俺の全てを知っているようなものだ。
そんなお前が素直にそういうリアクションすると、もう本当にヤバい。
語彙力なくなるレベルでヤバいぞ。
「うるせーよ、お前」
『いやいやいや、これマジで凄いことだからな』
「そりゃあ、この歳で初バイトってヤバいとは思うけど」
『そこじゃないんだって! いやぁ、うわー、マジでマスターさんには感謝しかないわ。俺、今度お礼に行くから!』
なんだよ、お礼って。
いくらお前が保護者気取りだからって、そこまでしなくていいだろ。
俺の母さんだってそこまでしないって。
いや、挨拶しに来るかもしれないな。
新居の住所教えるのは暫く先にしておこうかな。なんか怖いし。
「透把、母さんにはまだ言うなよ」
『なんで? 絶対に喜ぶぞ?』
「だから怖いんじゃねーか」
『あー……言わんとしてることは分かる。分かった。俺もマスターさんにご迷惑をおかけしたくない』
「よし」
透把も俺の母さんのことはよく知ってるからな。
母さんが暴走したときの恐ろしさは分かってる。
『よし、今から飯食いに行こうぜ』
「今から?」
『あ、昼飯食った?』
「いや、まだ。外出ようと思ってから別にいいぞ」
『じゃあラーメン食いに行こうぜー』
「お前、そればっかりだな」
『いいじゃん。金ねーんだよ』
「そんなんでお前、結婚できんのかよ」
『まっ、まだそういうんじゃねーし!』
なんだよ、まだ進展してないのかよ。
せっかくだし、たまにはお前のそういう話でも聞かせてもらおうか。
俺は着替えを済ませ、透把と駅前で落ち合った。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説
無愛想な彼に可愛い婚約者ができたようなので潔く身を引いたら逆に執着されるようになりました
かるぼん
BL
もうまさにタイトル通りな内容です。
↓↓↓
無愛想な彼。
でもそれは、ほんとは主人公のことが好きすぎるあまり手も出せない顔も見れないという不器用なやつ、というよくあるやつです。
それで誤解されてしまい、別れを告げられたら本性現し執着まっしぐら。
「私から離れるなんて許さないよ」
見切り発車で書いたものなので、いろいろ細かい設定すっ飛ばしてます。
需要あるのかこれ、と思いつつ、とりあえず書いたところまでは投稿供養しておきます。
BL世界に転生したけど主人公の弟で悪役だったのでほっといてください
わさび
BL
前世、妹から聞いていたBL世界に転生してしまった主人公。
まだ転生したのはいいとして、何故よりにもよって悪役である弟に転生してしまったのか…!?
悪役の弟が抱えていたであろう嫉妬に抗いつつ転生生活を過ごす物語。
病ン照レワンダーランドへようこそ
笹石鳩屋
恋愛
砂上鳴斗(さがみめいと)は、容姿性格共に完璧な校内一モテる高校生だが、実は自己顕示欲の強すぎるクズだった。鳴斗は、クラスメイトで校内一の美少女、天峯梨桜(あまみねりおう)が自分になびかないことを不愉快に思っていた。梨桜を惚れさせて、取り巻きに加えるため、鳴斗は梨桜に近づくのであった。だが、梨桜は実は・・・
【完結】聖人君子で有名な王子に脅されている件
綿貫 ぶろみ
BL
オメガが保護という名目で貴族のオモチャにされる事がいやだった主人公は、オメガである事を隠して生きていた。田舎で悠々自適な生活を送る主人公の元に王子が現れ、いきなり「番になれ」と要求してきて・・・
オメガバース作品となっております。R18にはならないゆるふわ作品です。7時18時更新です。
皆様の反応を見つつ続きを書けたらと思ってます。
夫婦戦争勃発5秒前! ~借金返済の代わりに女嫌いなオネエと政略結婚させられました!~
麻竹
恋愛
※タイトル変更しました。
夫「おブスは消えなさい。」
妻「ああそうですか、ならば戦争ですわね!!」
借金返済の肩代わりをする代わりに政略結婚の条件を出してきた侯爵家。いざ嫁いでみると夫になる人から「おブスは消えなさい!」と言われたので、夫婦戦争勃発させてみました。
もう愛は冷めているのですが?
希猫 ゆうみ
恋愛
「真実の愛を見つけたから駆け落ちするよ。さよなら」
伯爵令嬢エスターは結婚式当日、婚約者のルシアンに無残にも捨てられてしまう。
3年後。
父を亡くしたエスターは令嬢ながらウィンダム伯領の領地経営を任されていた。
ある日、金髪碧眼の美形司祭マクミランがエスターを訪ねてきて言った。
「ルシアン・アトウッドの居場所を教えてください」
「え……?」
国王の命令によりエスターの元婚約者を探しているとのこと。
忘れたはずの愛しさに突き動かされ、マクミラン司祭と共にルシアンを探すエスター。
しかしルシアンとの再会で心優しいエスターの愛はついに冷め切り、完全に凍り付く。
「助けてくれエスター!僕を愛しているから探してくれたんだろう!?」
「いいえ。あなたへの愛はもう冷めています」
やがて悲しみはエスターを真実の愛へと導いていく……
◇ ◇ ◇
完結いたしました!ありがとうございました!
誤字報告のご協力にも心から感謝申し上げます。
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる