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八十話 【報告】

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 引っ越しまで、あと一週間。
 部屋の中はほぼ段ボールで埋まってきた。先週買った家具類は新居の方に郵送で届けられるし、あとは引っ越し当日を待つばかり。

「……あ、忘れてた」

 俺、引っ越しの話はしてたけど彪世さんと一緒にってことは伝えてなかった。
 透把に色々と報告しないとだよな。
 今日は彪世さんも朝から用事があって出掛けてるし、俺もちょっと出るか。
 あと母さんにも引っ越しのことすら伝えてない。荷物送ったとか連絡ないから、その辺は大丈夫だとは思うけど。
 とりあえず、透把に今何してるか訊くか。
 今日はバイトだったっけ。
 電話をかけて、数コール。わりとすぐに出た。

「……あ、透把? 今ヒマか?」
『ああ、今日は夜からだから大丈夫だけど』
「来週引っ越しだから連絡しておこうと思って」
『あー、もうそんなか。結構あっという間だな。俺、手伝いに行こうか?』
「いや、平気。てか、俺このまま彪世さんと暮らしていくことになったから」
『……ん?』
「だから、家買ったからそのまま彪世さんと一緒に引っ越して暮らしてくってこと」
『は? え? それって、え? お前、マスターさんと付き合うの? いや、そういうことになったってことか!?』

 電話越しでも分かるくらい透把のテンションが上がってる。
 メッチャ耳が痛い。

「いや、まだそういうんじゃない……とも言い切れないけど、俺はまだ彪世さんに返事してないっていうか……まだ保留というか」
『はああああ? 何してんの!? 自覚したんじゃないの? 認めたんじゃねーの?』
「うっせーな。12年近く片思い拗らせてた俺がそう簡単に恋愛できると思ってんのかよ」
『それを俺に言うなよ』
「他に誰に言えっていうんだよ。とにかく、まぁそういうことになったから」
『そうか……でも良かったな。一応、おめでとうになるのか?』
「それはよく分かんないけど……あ、もう一つ言うことあった」
『え?』
「俺、彪世さんの店で働くことになったから」
『マジで!? スゲーじゃん! え、志貴どうしたんだよ!? これもう革命じゃん!』

 大袈裟なんだよ、言い方が。
 そう言いたい気持ちも分からなくもないけどさ。むしろ予想通りだけどさ。
 でもお前にそういう反応されると正直恥ずかしい。
 物凄く恥ずかしい。
 透把は昔からの俺を知っていて、カミングアウトしたことで今や俺の全てを知っているようなものだ。
 そんなお前が素直にそういうリアクションすると、もう本当にヤバい。
 語彙力なくなるレベルでヤバいぞ。

「うるせーよ、お前」
『いやいやいや、これマジで凄いことだからな』
「そりゃあ、この歳で初バイトってヤバいとは思うけど」
『そこじゃないんだって! いやぁ、うわー、マジでマスターさんには感謝しかないわ。俺、今度お礼に行くから!』

 なんだよ、お礼って。
 いくらお前が保護者気取りだからって、そこまでしなくていいだろ。
 俺の母さんだってそこまでしないって。
 いや、挨拶しに来るかもしれないな。
 新居の住所教えるのは暫く先にしておこうかな。なんか怖いし。

「透把、母さんにはまだ言うなよ」
『なんで? 絶対に喜ぶぞ?』
「だから怖いんじゃねーか」
『あー……言わんとしてることは分かる。分かった。俺もマスターさんにご迷惑をおかけしたくない』
「よし」

 透把も俺の母さんのことはよく知ってるからな。
 母さんが暴走したときの恐ろしさは分かってる。

『よし、今から飯食いに行こうぜ』
「今から?」
『あ、昼飯食った?』
「いや、まだ。外出ようと思ってから別にいいぞ」
『じゃあラーメン食いに行こうぜー』
「お前、そればっかりだな」
『いいじゃん。金ねーんだよ』
「そんなんでお前、結婚できんのかよ」
『まっ、まだそういうんじゃねーし!』

 なんだよ、まだ進展してないのかよ。
 せっかくだし、たまにはお前のそういう話でも聞かせてもらおうか。
 俺は着替えを済ませ、透把と駅前で落ち合った。



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